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「神戸のイジメ教師」は、なぜ野放しだったのか

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「教育の現場にこそ落語の笑いが必要」

いやあ、日本中を驚かせた動画でしたなあ。

神戸市立東須磨小学校の教員間いじめの件です。

4人の教員が同僚の一人に無理やり激辛カレーを食べさせている様子は「ほんとうにこの人たちが子供を教える立場にある先生なのか」と激しい怒りとともに落胆を覚えたのは私だけではないはずです。いやはや、課外活動ではなく加害活動をしていたとはシャレにもなりません。


記者会見で謝罪する神戸市立東須磨小学校の仁王美貴校長(右端)ら=2019年10月9日、神戸市役所 - 写真=時事通信フォト

さらに、呆(あき)れ返ったのは加害教員の中の40代女性教員は、小3のクラスを担当していた2017年度、一人の男児が座っていた椅子をいきなり引いて、後ろの机に頭をぶつけさせるなどしたり、胸ぐらをつかんだりしたといいます(神戸新聞2019年10月11日)。一事が万事、こういったことは今後どんどん出て来るのでしょうな。

神戸の東須磨小学校はあくまでも特殊なケースでしょうし、またそう信じたいほどです。でも実は私、2年前、ある女性編集者から「学校の先生方が苦しんでいる。若い先生方に向けて、元気の出る本を書いてもらえないか」という依頼を受けて、『落語家直伝  うまい!授業のつくりかた』という本を書きました。

教育現場とはかけ離れた落語家という門外漢の立場で、はたして書くことがあるのかとも思ったのですが、優秀な先生方ほど悩んでいるという歪(いびつ)さと、その女性編集者の「教育の現場にこそ落語の笑いが必要なのです」という強い意志にほだされました。「もし談志が学校の先生だったらこんなことを話していたのでは」と、思いというよりも妄想に近い感情を募らせて書く決意を固めたものでした。

人生なんて思い描いた通りにいくわけがない

書くにあたって、まずは現場の若い先生方がいまどのような心象風景を抱いているのかをリサーチしようとアンケートを取ってみました。

すると「あなたのいまの悩みは?」との問いには、「自分の思った通りに授業運営ができない」と記されていました。

ここです。私はドキっとしました。

裏を返せば、若い先生方は「思った通りに授業運営ができること」を前提にしているということです。つまり、「計画通りにすべてが執り行えると信じている人たちが教育の現場に携わり、子供と対面している」という現実をそこで知り、私は心底驚いたのでした。

世の中自分の思い描いた通りに捌(さば)けるわけはありませんよねえ?

何を隠そう、「思い描いた通りの道」を歩んでこなかった私です。

いや、私だけではありません。このコーナーをお読みのサラリーマンのみなさんだってそうだったはずですよね(実際私もワコールに勤務していたのでよくわかります)。

談志は教育者ではありませんでした。「俺は教育者ではない。教えるなんてことはしない。小言を言うだけだ」と常に言い放っていました。私が入門した時に言われた一言は「俺を快適にしろ」という言葉だけです。

「俺を快適にしろ」という談志の言葉

入門前に熟読した談志の著書『あなたも落語家になれる 現代落語論其2』には、弟子から毎月お金を取るという「上納金システム」についても記されていました。そして「古典落語50席を覚えれば誰でも落語家としての地位である二つ目にする」とまで述べていたものです。

これは実に罪な本でした。私はここから勝手に、「前座からもお金を取るということは月謝制なんだ」と理解しました。また、「だったら入門前に25席ぐらい覚えれば一年もしくは一年半ぐらいで前座という修行期間はクリアできるだろう」と気楽に思い描いたものでした。

つまり、「師匠は落語を教えてくれる先生で自分は落語を習う生徒」という「上納金」を媒介としたドライな間柄を想像していた身の程知らずを、谷底に突き落としてくれたのが最前の「俺を快適にしろ」という言葉だったのです。

そしてそんな甘えた若造をさらに覚醒させたのが、「修業とは不合理、矛盾に耐えること」という冷徹な言葉でした。

一連のあの言葉は、師匠から教えてもらうとか何かをしてもらう立場から、師匠を快適にする、つまり「師匠に何かをしなければならない立場」へとコペルニクス的転回を果たす宣言(というより脅迫)だったのです。

「俺はおまえにここにいてくれと頼んだ覚えはない。お前が勝手に俺の弟子になりたいと言ったんだ。それを受け入れてやるだけでも最大のウェルカムなんだぞ。だから俺の流儀に従え」とは耳にタコができるほどこれまたよく言われたものです。

前座修行とは「落語家養成ギブス」である

こんな厳しいシステムだとはつゆ知らず、前座期間を9年半もかかってやっと二つ目になるという鈍才ぶりを発揮した私でした。しかし、それでも今、落語家として、談志の弟子としてきちんと食べていけているのはこのシステムのおかげではないかなと信じています。ダメな人間でもなんとかしてしまう「落語家養成ギブス」こそ前座修行だったのです。

「俺を快適にしろ」ということは、師匠に媚(こ)びろということではありません。「立川談志という超絶な天才を快適にすることで、芸人としての可能性を見いだす」ということであります。つまり、主体が「談志」にあるのではなく、むしろ「弟子」のほうにあるのです。弟子からの搾取などという短絡的な意味合いでは決してありません。その証拠がこの試練を乗り越えて今や落語界を牽引する志の輔師匠、談春兄さん、志らく兄さんらです。一目瞭然ですよね。

前座というのは一人前に扱ってはもらえない身分です。ヒエラルキーの最底辺の立ち位置です。「悔しかったら二つ目、真打ちになれ。俺はそのための基準を明確に設けている」と、談志は一流のロジックで追い討ちをかけたものでした。

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