- 2019年10月25日 15:08
なぜ、日本人に中国へのマイナス印象が大きいのか 15回目の日中の共同世論調査結果をどう読むか
2/2今回の調査では、世界の繁栄やアジアの平和を実現するために、日本と中国が「より強い新しい協力関係を構築すべか」を聞いたが、それが必要と考える日本人は52.5%、中国人で62.2%もいる。

ただ残念ながら、そうした新しい日中協力に対する具体的なイメージを両国民は描けているわけではない。なぜ両国は重要なのか、についても両国民の意識はまだ「隣国」「お互いが経済大国」が最も多く、一般論から抜け出せていない。日本人の53.8%は、「アジアの平和と発展には両国の協力が必要」と回答しているが、中国人は27.2%しか選んでいない。
米中の対立の中で、日本との協力を模索する中国、分断された世界の秩序を回避したい日本にとって両国の協力は共通の利益でもある。日本との協力に向けた声が中国側により積極的に見えるのは米中の対立が深刻化する中で中国側の困難が続いているからだろう。
それでも、国民間に具体的な協力のイメージが浮かばないのは、政府間も民間もそれに向けた本格的な対話や協議はまだ始まっていないからである。
ただ今回の調査結果で浮かび上がった両国民の意識は、スローガンや掛け声だけの段階というわけでもない。
日中の二国間やアジアの課題での日中協力に賛成なのは、日本人が63.5%、中国人で69.3%もあり、北朝鮮の非核化や北東アジアの平和秩序の構築、さらには環境問題や食の安全での協力を4割以上が希望する日本人に対して、中国人は希望する項目が広がり、貿易・投資に関する協力強化や北朝鮮の非核化など6項目を2割以上が選んでいる。
緊張が続く北東アジアの持続的な安全保障に向けた多国間協議の枠組みを必要だと考える日本人は50%、中国人は65.7%も存在する。

また、中国人は自由貿易を支える経済連携の仕組みとしても、日本が主導する「TPP11への中国の参加」を選ぶ人が39.6%、「日中FTAの早期実現」を希望する人が37.3%もあり、最も多い回答になっている。これまで多かった中国独自の構想である「一帯一路での協力」は29.2%となり、昨年の43.7%を大きく下回っている。
今回の調査で示された中国人の意識には興味のある変化がいくつも描かれている。
まず、日本への見方が全般的に改善していることである。
中国の日本への意識の改善は、日本への訪問客の増加や情報源の多様化が寄与していることは先に触れたが、その他にも、日本との対立を管理し、協力関係に向かうことが中国国内で徹底されている。
これは、日中関係の発展を妨げるものとして、「中国国民のナショナリズムや反日感情」をあげる中国人が20.4%と、昨年の5.4%を大きく上回ったことからも伺える。
日本の政治社会の体制に関する中国人の理解もこの一年で大きく変わった。
昨年、39.5%と4割近い中国人が日本を「覇権主義」と判断したが、この一年でそれが18.5%と半分以下となり、「大国主義」も昨年の12.1%から5.8%に半減した。誇張されたイメージが修正され、日本が主張している「民主主義」や「平和主義」、「国際協調主義」を選ぶ中国人が増えている。
その結果、皮肉にも中国人が最も多く選んだ日本のイメージは「資本主義」(32.3%)、「軍国主義」(32%)となり、「民族主義」(23.6%)が続いている。特に「軍国主義」と「民族主義」は昨年よりも大幅に増加している。それが中国人の新しい日本観となった。
相手国の理解に関するこうした見方の大幅な修正は何らかの出来事が無ければ、普通では簡単にはできないものだが、中国ではそれが実現してしまう。

ちなみに今回の調査でも中国人の84.6%は、自国のメディアが日中関係の改善のために貢献していると感じており、80.4%がその報道内容も客観的で公平だ、と思っている。日本では、その項目への回答はそれぞれ、26.9%と14.9%しかない。
日中関係においては、首脳外交が関係改善で象徴的な意味を持っている。中国の国家主席が日本を訪問する時に、両国で政治文書を合意することが多いことも、その重さを示している。中国にとって来春の習近平主席の国賓での日本訪問は決定的なイベントであり、それに向かって中国の世論が大きく動いているとも見える。
それに対して12月の安倍訪中や、習近平主席の訪日は日中関係の改善のシンボルとしては日本人の関心をまだ集めきれていない。
深刻化する米中の経済対立は両国民にそれぞれの意識を作り出している。
中国人は、日本人よりもこの対立に全般的に楽観的だということである。一時、中国国内では米国に対する強い反発が起こり、そのための音楽やドラマも存在したとの報道もあったが、そうした傾向は見られない。
これは中国人の自信なのか、信念なのか、それとも状況を的確に知らないためなのか、この調査結果から判断することは難しい。
米中の貿易摩擦が、日中関係にも「悪い影響」を与えると考える中国人は45.7%と最も多いが、逆に17.8%が日中関係に「良い影響」を与えると考えている。同時に中国で行った中国の有識者のアンケートでは最も多い48.2%もが「良い影響」を与えると考えている。
日本人も「悪い影響」が50.2%と最も多いが、「良い影響」と考える人は2.7%しかない。有識者でも18.3%だということを考えると対照的である。
今後の世界秩序に関する見方も違いが目立っている。
中国では、今後もルールに基づく自由貿易や自由経済秩序は発展する、と考える人は33.2%もいる。これに一部の制限はあっても基本的には現在の開かれた自由な仕組みは残る、の40.1%を加えると7割以上が楽観的な姿勢を堅持している。
これに対して、日本人は「わからない」が38.3%で最も多く、「米中が世界を二分し対立するようになる」、が26.2%でそれに続いている。
調査結果からは、中国に二つの傾向が出始めていることが観察できる。中米関係を重要視する意識と中国自身の自信とも見られる傾向である。
例えば、先にも紹介したが、世界の中で米国が最も重要だと考える中国人は昨年よりもわずかだが増加し、ロシアを抜いて一番手になっている。また、日中関係よりも中米関係が重要だという人も35.8%で昨年の31.5%を上回っている。
これらはまだわずかな傾向だが、この激しい対立下でも中国人にバランスの取れた見方があることを示唆している。
これに対して、日本人は34.8%が日米関係の方が重要とは見ているが、米中対立が深刻化する中でも48.2%と半数近くが、米中のどちらも重要だと考えている。
大きな変化が見られたのは、中国人の軍事的な脅威感だろう。中国が「軍事的な脅威を感じる国はある」と感じている中国人が昨年よりも13ポイントも減少し、55.5%になったことである。それに対応して「脅威を感じる国はない」が29.9%と3割近くになっている。
中国人が、軍事的な脅威を感じる国は日本と米国が圧倒的であり、調査結果だけを見るとその脅威感が薄まったように見える。
これに対して、日本人は昨年同様に、7割を超える人が軍事的な脅威を感じる国がある、と回答しており、その対象は、北朝鮮や中国、ロシア、そしてこの一年間で急増した韓国に向けられている。

今回の世論調査を全体的に眺めると、両国民の意識に対照的な傾向が目立ち、現状は変化に向けた過程だ、ということが見えてくる。
米中対立が深刻化する中で世界の構造が大きく変わり、アジアでも持続的な平和や経済での協力発展の展望が見えていない。その中で、日中両国の新しい協力のあり方を、多くの日本人と中国人が意識している。良く言えば、その模索が今回の調査で浮き彫りになっている。
ただ、それが新しい段階に向上する可能性も、この調査結果が明らかにしている。
日本人だけではなく、中国人もルールに基づいた自由貿易や開かれた経済秩序、多国間主義の重要性を理解し、WTO改革を強く支持している。
そして、東アジアが目指すべき価値観についても、日中の約4割が平和や経済の協力発展の重要性を認めている。

こうしたビジョンがまだ具体化せずに、国民の理解を得るものになっていないのはそれが政府間のレベルではまだ具体的なアジェンダになっていないからである。
変化の速さと、政府間の動きの鈍さが、対照的な両国民の意識をつくり上げている。この国民意識を変えるためにも、世界やアジアの将来を見据えた日中協力の具体的な姿について議論を開始する必要がある。今がまさにそのタイミングなのである。
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