- 2019年10月25日 15:08
なぜ、日本人に中国へのマイナス印象が大きいのか 15回目の日中の共同世論調査結果をどう読むか
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⇒ 「第15回日中共同世論調査」結果
工藤泰志・言論NPO代表
私たち言論NPOが、中国と共同で日中の世論調査を開始してから実に15年になる。両国間には様々な深刻な困難が存在したが、この間、一度も中断せずに調査は行われている。
今では、中国国内で継続的に行われる世論調査は、世界でもこの調査しか存在しない。
この稀有な調査で最近、注目を集め続けていたことは、日中両国の国民意識が対照的な傾向をこの間、強めていることにある。
急増する中国人の日本への渡航客の反映もあるが、中国人の日本国民への対日印象は毎年、改善を続けている。ところが、日本人の中国や日中関係への印象は悪いままでなかなか改善しない。この状況に対する問題意識は、来春、習近平主席が国賓として訪日を予定する中国政府に特に強い。
米中の経済対立は深刻化し、将来は世界経済が分断しかねないという危機感も日本国内で出始めている。その中で日本政府が、中国との協力強化に動きを見せているのは、米中対立の中でその立ち位置を問われる日本にとって、米中がなんとか共存し、ルールベースでの自由経済システムや多国間主義を発展させることでしか日本の未来もまた描けないからである。
今年12月に、第二次安倍政権になってからは四回目となる安倍訪中が予定されているのもその一環でもある。その点では、日中両国の関係者が、今回の調査結果に、日中の国民の意識の改善を期待したのは間違いないだろう。
だが、結論から言えば、その期待は見事に裏切られた。今回の調査で再び浮き彫りとなったのは、日中両国民の意識のギャップの広がりだったからである。
私たちがまず注目したのは、この一年間にお互いの対日、対中印象や現状の日中関係に関しての両国の国民の意識に変化は見えたのか、ということである。
中国国民の対日印象は今年も改善を続け、中国人で日本に対する「悪い印象」を持つ人は、尖閣諸島の日本の国有化で92.8%とピークに達した2013年の調査から減少を続け、今回は52.7%と半分近くにまで改善している。日本に好印象を持つ中国人も今年は45.9%にまで高まっており、数年以内に「良い」が、「悪い」を逆転する可能性すら見えている。
日本人に改善がないわけではない。だが、そのテンポは鈍く、今年も84.7%と未だに8割を超える日本人が中国にマイナスの印象を抱いている。

私たちが驚いたのは、「日中関係」に対する評価に関してである。
中国人で、現状の日中関係は「悪い」と考える人は2016年の78.2%から改善を続け、今回はその半分の35.6%になっている。前年比でも9.5ポイントもの減少である。それに、現状の日中関係を「良い」と見る中国人が、昨年から4ポイント増加して34.3%となり、「悪い」に並び始めている。
これに対して、日本人の日中関係に対する判断は、これまでの改善傾向を否定するように今回は再び悪化して44.8%(昨年は39%)が「悪い」と見たのである。

しかも、この一年間で日中関係が悪化したと感じている日本人は31.8%(昨年は18.5%)も存在する。この一年間、日中関係に大きな問題があったわけではなく、むしろ、政府首脳の積極的な交流が始まっている。実際の日中関係は悪化したわけではない。
それにもかかわらず、なぜ日本人は、日中関係は悪くなったと考えたのか、この理由を尋ねる直接の設問があるわけではない。そのため、私たちに残された手段は様々な設問間を比較しクロスで分析することである。
この作業に入る前に、日中両国民の意識に影響を与える主要な要因について説明しなくてはならない。
相手国への意識や理解は、相手国への訪問や相手国の知人との交流などの直接的な経験か、あるいは、そうした直接的な経験がない人は自国のメディアなどの間接的な情報に依存するしかない。この構造こそが日中の世論のこれまでの激しい動きを決定づけてきた。
この数年、中国の世論に動きが見られたのは、この構造に風穴が空いたからである。中国政府もそれを容認した。変化を生み出したのは、日本に対する中国人の観光客の急増や、携帯サイトなどのSNSや情報アプリの利用だった。特に中国社会にこの数年、その変化が現れた。
2018年に日本を訪問した中国人は838万人で、これは5年前の2013年の6.4倍にあたる。この状況は世論調査にも明確に表れている。今回の私たちの調査で日本を訪問した経験がある、と回答した中国人は2012年から年々増加し、今回の調査では20.2%にまで上昇した。
しかも、その41%の訪問時期がこの一年の間であり、56.5%が2年から5年前である。つまり、この変化はこの5年間で進んだのである。それに、まだわずかな変化だが、日本を知るための情報源として、日本のニュースやアニメや書籍を直接利用する中国人も増えている。
興味深いのは、日本への訪問経験を持つ人とそうでない人の間で、日本に対する意識が本質的に異なることである。例えば、「良い」という対日印象を持つ中国人は45.9%であることは先に触れたが、日本に訪問した中国人はそれが81.1%に跳ね上がり、逆に訪問経験がない人は37.2%となる。

この傾向は現状の「日中関係」に関する評価にも表れる。現在の日中関係を「良い」と見る人は訪問経験者が55.9%と半数を越えているのに対して、訪問経験がない人は28.9%と差が大きく開いている。

さらにもう一つの傾向がある。中国の世論には日本に対する好感度は若い世代の方が高い、という傾向が堅調である。日本に対する訪問者は世代間でそう大きな差がないために、若い世代で対日感覚が好転する要因をもう一つ付け加える必要がある。

世代で違いが目立つのは、日本を知るための国内のニュースメディアの情報源に原因があることが、調査結果から確認されている。
中国では40代を境にそれ以降はテレビを主な情報源とする人が圧倒的になり、30代までは携帯機器を通じたニュースアプリや情報サイトが使う人がテレビを上回る。その30代までの若者層で40代以上と比べて日本に好感度が相対的に高いのである。

これに対して、日本人で中国を訪問した経験を持つ人は、調査を始めた2005年からほとんど変わっておらず、今回の2018年はいずれも14.4%となっている。しかもその47.2%が11年以上の前の訪問経験だと回答している。
情報源も世代間にそう大きな差はなく、若い世代も高齢世代もどの世代でも70%程度がテレビのニュース番組で中国の情報を最も多く得ている。つまり、中国を訪問する人が拡大しない日本では、中国への印象や理解を日本のメディア、特にテレビの報道により多く依存する傾向が依然、強いのである。
こうした世論構造を考えながら、もう一度、今回の調査結果を考えると、今回、なぜ日本人に現状の日中関係が悪化した、と感じている層が増えたのか、その変化の意味が朧気に見え始めてくる。
私たちは、この世論調査を分析するために、同じ設問内容で同じ時期に日本の有識者にアンケートを行っている。この有識者は、私たち言論NPOの国際的な議論や活動に参加した経験を有する2000氏が対象者であり、今回は約400氏が回答している。
厳密な意味での有識者の定義は難しいが、私たちがこのデータを参考にするのは、回答者の約半数が中国との直接的な情報チャネルや経験を持ち、日本のメディアを情報源としてあまり考えていないことが大きい。一般の国民とは異なり、テレビを情報源とする人はわずか14.6%でしかない。
先に問題とした現状の日中関係の判断だが、現状が「悪い」と考える一般の国民は44.8%で昨年より悪化したが、この有識者に限って言えば、「悪い」は16.2%に過ぎず、「良い」が42.9%と逆の傾向になっている。また、この一年間では日中関係は「良くなった」と感じる有識者は56.8%もいる。
一般世論とのこの大きな食い違いは、この情報源の影響があると判断するしかない。
調査期間となった今年9月、日本のテレビは米中の経済対立を様々な形で論じ、香港での民主化のデモや暴力の様子が、連日のように画面に映し出された。
日本政府は中国との関係強化に動き出し、中国の政府首脳との交流は始まったが、その目的や将来のビジョンが、日本国民に説明されたわけではない。むしろ、香港の問題などでは日本政府は沈黙を保っているように見える。
今回の調査では、日本人の4割近くが、米中対立の深刻化によって世界の経済秩序の行方がわからない、と回答し、世界を二分する対立になる、と感じる人が3割近くもいる。
テレビでしか情報を得られない多くの日本人がこの困難な状況の先行きに不安を高め、その背景に、米国と競い合うほど大国化した、日本とは政治制度が全く異なる中国の存在を強く意識している。実際には、中国との交流を進めながら、その姿勢を明確に国民に示せない日本政府の対応に、「政府間の政治的な信頼関係ができていない」と考える日本人も今回の調査で43.6%となり、昨年の39.6%を上回っている。
このような状況に、今の日中関係が悪化している、と多くが理解したとしても不思議な話とは言えまい。
日本人は、中国への意識や日中関係に関して、中国側と同じ楽観的な見方を示せてはいないが、日中関係の今後に消極的な見方が広がっているわけでもない。
日中関係が重要だと思う日本人は72.7%と7割を超え、中国人も67%がそう考えている。
視野を世界に広げても、日中両国民はお互いを確実に意識している。
世界の中では日本は米国を最も重要だ、と考える人が62.9%と圧倒的だが、かなり差はあるとはいえ中国が6.8%で二番目につけている。中国人は、米中対立の相手先である米国を最も重要だと考える人が昨年よりも増え、今年は28.9%と一番手になっている。ロシアが26.6%で続いているが、日本も少し差は開くものの14.7%で三番手につけている。

北東アジアでは米中対立だけではなく、北朝鮮問題など持続的な平和をめぐっても不安が高まっている。では、こうした状況の中でどのような二国関係を目指すのか。
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