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リッピング違法化から始まる法律のローカルルール化

武士が政権を取るとは、武士の決めたローカルルールが天下国家を仕切るパブリックなルールになるということである。

同時に、それまでのパブリックなルールだった、朝廷の決めたことは京都のローカルルールになってしまった。これは武士が、他の全ての人間の意思に反して、暴力だけで押しつけた結果ではなく、むしろ、「どちらのローカルルールがまともか」という争いに勝ったということである。

2ちゃんねるのローカルルールが法律に反していたら、当然、ローカルルールを曲げて法律に従うべきだと、今はみんな思っている。

それと同じように、平清盛の時代にも、武士のルールは武士の世界だけに通じるローカルなもので何の普遍性もないと誰もが思っていた。当時のパブリックなルールは、奈良時代に制定された律令を基本として朝廷が決めたことで、これが武士の世界の上にあると思われていた。

武士とは、もともとは何事も暴力で解決する乱暴な人たちという意味ではなくて、開発領主である。つまり、フロンティアを切り開いてそこで商売する人たちだ。武士が最初から朝廷の上に立ち天下国家を自分のものにすることを目指していたわけではない。

ただ、朝廷があまりにも機能不全で、現場の仕事の役に立たないことばかりやっていたので、仕方なく自分たち自身で紛争解決を行うようになったのだ。

Wikipediaには荘園公領制という項目がある。開発領主が土地を受領層に寄進して、受領層がさらに上の権門層に寄進して、それぞれ名目的支配(+みかじめ料)と実効的支配を取引するというルートが何通りもあって、当時の土地所有制度が非常に複雑な状態になっていたことがうかがえる。

おそらく、開発領主たちは、みかじめ料を払うことがイヤだったのではない。どういうルールでもいいから、一定の透明性と安定性のあるルールがあって、「こうすれば仕事がはかどる」ということがわかれば、それに従うことに何の異論もないという人が大半だっただろう。しかし、受領層、権門層という上から押し付けられる解決策は、単なる京都の勢力争いの道具でしかなくて、地方の実情にも即してないし、何の原理原則もなく、ひたすら地方が振り回されるだけだったのだ。

ダウンロード刑事罰化とかDVDリッピングの違法化という法律は、ネットの商売の妨げになるが、それは、金を払うのがイヤだということではなくて、決まるまでのプロセスに透明性がなく、どうやってスマフォで音楽を聞いたり動画を見たりしたらいいのか、それを提供する側はどうすればいいのか、混乱を深めるばかりで何の指針にもならない、それが問題なのだ。

たぶん、開発領主も同じように感じていて、その結果彼らは武士になった。

フロンティアで起きた紛争は、自分たちが納得できるルールで解決する。もちろん、紛争を裁定する以上、全ての決め事に全員が納得するということはあり得ないが、それでもそこに「まともな」基準というのは決めることができる。現場の感覚を持てない人間が自分たちのローカルルールを持ち出してそこに介入することは許さない。

これは戦争なのだけど、「どちらのルールがまともか」という戦争なのだ。

まともでないルールをローカルルールにして、パブリックな世界から排除していく戦争なのだ。

清盛は、自分が律令的世界の権威になることで、「まともな」ルールを築こうとして失敗した。源頼朝は、古い権威を持つことは一顧だにせず、東国を治外法権にして、その内部で独自のルールを運用しようとした。これは成功して、承久の変を経て、鎌倉のローカルルールが日本全体を支配した。

これから、たくさんの有力サイトがそれぞれ独自のローカルルールを決めていって、同じことが起きるだろう。ある者は、それが法律に反した場合、法律の方を改正することを目指すが、ある者は、実力行使を背景にして治外法権化を目指すだろう。

また、信西入道や後白河天皇のように、武士の力に一定の評価を与えつつ、それを自分たちの権力の基盤として利用しようとする者が、古い世界から出てくるだろう。

しかし、ネットを経済の言葉や政治の言葉に翻訳して理解している人には、本当に東国の気分を理解することはできない。それが日本史の教える教訓である。ネットはネットそのものとして理解し、ネットそのものとして治めるべきで、結局それはネットの現場にいる人間の仕事であって、京都から出たことのない人間にはできない仕事だ。

「ネットのことしかわからず、政治も経済も法律も知らない人間が天下国家を治めることができるのか?」当然、そういう声が出てくる。それが、平清盛が生涯かけて取り組んだ課題なのだ。結果論としては、確かに清盛は京都のことがわからなかったと見るべきだが、それでもひとつの道は切り開いた。

トンデモ法案が通ってしまうのは、業界団体が昔のように機能しなくなっていることが大きな理由だと私は思う。

昔は、官僚が業界団体にヒアリングすることで、それなりにまともな法律ができた。まともな企業であれば、顧客や市場のことも自分たちの都合と同じくらいよく考える。少なくとも、顧客が何を求めているか知っていて、それを自分の利益につなげようとする。だから、企業優先にはなっても、出口のないトンデモ法案にはならない。

それに大企業の中には、目先の利益にとらわれず、長期的な見通しや市場全体の盛衰を考えられる人間がいて、そういう人たちを適材適所で使う仕組みがあった。

ノマドというのは、スタバでMacbook Airを出してドヤ顔をすることではなくて、そういう大きな視野を持つ人間を組織の中で飼い殺しにすることができなくなったということだ。大企業からそういう人間が脱出することで、従来の大組織は急速に形骸化している。

鎌倉幕府は、無学無教養の武士だけで回っていたわけではなく、京都から来た知識人も相当活躍していたと言う。

結局、偉くなるよりどこでもいいからいい仕事がしたい、と希望する人間はいつの時代にもいて、そういう人たちの行き場ができたことがノマドなのだ。

官僚が業界団体にヒアリングして、その結果で政治家を駒として動かすという仕組みそのものがダメなのではなくて、そこに人がいなくなったのに、表面的、形式的に同じことだけをしていることがダメなのだ。

そして、「まともさ」を失なった古い権威は、形式だけを根拠に権力を取り戻そうとする。その惨状を見て、より多くの人が逃げ出す。これは、いったん始まれば加速するだけで、逆転することはおそらくないだろう。

だから、法律がまともになることはなくて、これから、法律が誰にも納得できないものになってローカルルール化していくのだと思う。

新しいルールを誰がどのように打ち立てていくか、それをよく見て、どこにどう自分が関わっていくか。それが、これからの世渡りのポイントである。

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