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会社法改正-補償契約で会社が負担する役員の防御費用は「相当の費用」から「通常要すべき費用」へ

内閣提出議案として今国会に提出された会社法改正法案ですが、法務省のHPで「会社法の一部を改正する法律案」を確認しますと、「会社補償制度(補償契約)」の中身が「要綱案」から実質的に修正されていることに気づきます。この修正は実務に与える影響はかなり大きいように思います。

今回の会社法改正では、取締役や監査役が第三者から裁判を提起された場合などに、防御のための費用を会社に負担してもらうことが「補償契約」として制度化されます。ただ、どんな高い費用でも会社が肩代わりしてくれるのではなく、今年1月の要綱案の段階では「相当な費用」であれば会社負担としていました。しかし(正式な要綱の時点で変わっていたようですが)改正法案では「通常要すべき費用」という文言に修正されました(改正会社法案430条の2、2項1号)。

※・・・これだけ企業不祥事が多発するなかで、役員のモラルハザードを助長するだけではないか!とご立腹の方もおられますが、いままでも、民法の委任の規定によって会社補償は可能でした。ただし、補償の許容される範囲が明らかではなかったので、このたびの会社法が解釈上の疑義をなくすために「会社補償制度」を制度化する、というもの。

要綱案の段階では、補償契約によって会社が負担する役員の防御費用については「相当な費用」の範囲内と考えておられたようです。ちなみに要綱案作成の審議の中で、たしか裁判官委員(東京地裁商事部の現役裁判官の方)が「この補償の対象となる『相当な額』というのはどういったイメージなのか?」と質問をしておられ、立案担当者(法務省)は、株主代表訴訟の株主が勝訴した場合に、会社が株主代理人に支払うべき「相当な額」(会社法852条1項)と平仄を合わせるイメージです、と説明されていました(会社法制「企業統治等関係」部会第12回議事録30頁以下参照)。

ただ、裁判所が考えている「相当な費用」の相場はかなり低い。ダスキン事件株主代表訴訟で一部勝訴した株主側の代理人報酬が争われた事件の裁判(2010年7月14日大阪地裁判決-ダスキン事件弁護士報酬請求事件)では、足掛け7年間、2件の株主代表訴訟を支えてきた弁護士報酬が、わずか8000万円!(弁護士12名の合計金額です。報酬事件終結まで9年間、当時の大阪弁護士会報酬規程だと報酬額16億、請求額は「すくなくとも」4億円でした)と判断されました。社会的な耳目を集めた裁判で、しかも極めて勝訴率が低い裁判で、一人当たり年間80万円~90万円ということになります。

この裁判所基準からしますと、もし役員が提訴された場合に、企業法務を扱う大きな法律事務所の弁護士さんは(報酬が安すぎて)受任できないことになりそうです。高い報酬の防御費用を会社がそのまま支払いますと、今度は「弁護士報酬の返還を求めて」もしくは「払いすぎの弁護士費用は会社の損害であり、善管注意義務違反の取締役の賠償責任を追及して」株主代表訴訟を提起されるリスクが生じます。また、これは会社が代表訴訟に補助参加する場合の会社側代理人の報酬や、会社自身が取締役を提訴するケースにおける会社側代理人の報酬にも反映される可能性があります。ということで、私は「相当な費用」しか防御費用が支払われない補償契約は使い勝手が悪いと感じておりました。

どういった経緯で法文が修正されたのかは存じ上げませんが「通常要すべき費用」であれば、(裁判所の先例もないので)「まあ、大手の法律事務所の優秀な代理人が複数名ついているんだから、この程度の弁護士報酬は『通常要すべき費用』ですよね」ということで安心して補償することができそうです。ちなみに「補償契約」ではありませんが、監査役が取締役の違法行為の差し止めを行うことも、昨今の企業統治改革の流れの中では重要なので、これも「通常要すべき費用」として解釈していただきたいです。

なお、以上は私の勝手な推測に基づく解説なので、「なぜ要綱案から正式な要綱に至った段階で文言が修正されたのか」公式な説明があればいいですね。たしか平成26年会社法改正の折にも、監査等委員会設置会社における「取締役の利益相反取引に関する任務懈怠の推定排除の要件」に最終的な修正がかかりましたが(江頭「株式会社法」第5版577頁参照)、これもなにゆえか法文の修正がなされており、若干気持ち悪かったことを憶えております。今国会で成立するかどうか、まだわかりませんが、会社法改正法案の衆参両議院での審議状況を静かに見守りたいと思います。

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