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無意識の色眼鏡「バイアス」にご用心

ひとは誰でも、まったく悪気なく、まったくの無意識で、偏ったものの見方してしまっていることがある。これを「バイアス」と呼ぶ。ピンクの色眼鏡でピンクの壁を見ると、その壁がピンクであることに気付けないのと同じように、社会全体に当たり前のように偏見が存在していると、客観的な評価自体がその偏見を前提にしてしまっていることがあるのだ。

たとえばいつも怒りっぽいひとが少々荒っぽい言葉遣いをしても誰も気にしない。しかしいつもは穏やかな口調のひとが同様に少々荒っぽい言葉遣いをすると、まわりをびっくりさせてしまう。「前提」が違うからである。これと同じ理屈で、部下へのフィードバックとして同じ言葉を同じように言っても、男性上司に言われるよりも女性上司に言われるほうが「きつい言い方」と受け取られることが多いという研究結果がある。これも意図しない悪気もない無意識の差別といえる。

記憶に新しいところでは、16歳のグレタ・トゥーンベリさんという少女が国連で温暖化防止を訴えたスピーチへの批判がある。彼女の主張内容そのものへの批判や彼女の活動に対する批判があるのは一向にかまわないと思うし、私自身、彼女が望むような地球に優しい大人ではないと自覚している。でも、気になったのは、内容ではなく、彼女のしゃべり方への批判が多かったことだ。感情的すぎる、攻撃的な言葉は分断を生む、など。

「世界を変えたいのならもっと伝わる話し方を考えなければ」という説教もあったが、そもそも彼女は自らの力で世界を変えようとしているわけではない。「呼ばれたから来たけど、世界を変えるのは私ではなくあなたたちです。だからもっとしっかりしてよ」と世界のリーダーたちに直接自分の思いを訴えかけたにすぎない。彼女はジャンヌ・ダルクではないのだ。なのに一部のひとが、彼女を勝手に現代のジャンヌ・ダルクに仕立て上げ、そして批判した。

これももしかしたらバイアスのせいかもしれない。まったく同じことを同じように話したとしても、あれがたとえばオバマ前大統領だったら熱弁として前向きに受け入れられただろう。ラグビーでもやっていそうな16歳の男の子だったら「頼もしい」と賞賛されたかもしれない。ミヒャエル・エンデの物語に出てきそうな三つ編みの少女が強い言葉を使ったから、多くのひとが勝手にびっくりしただけなのだとしたら、それはバイアスのせいである。

前提として、バイアスは必ずしも悪いものではない。ものごとをパターン認識することで思考が効率化できる。しかしそれが差別につながってしまうのはまずい。性差はもちろん、人種、国籍、宗教、外見などさまざまな事柄に関してバイアスは存在する。特にグローバルな組織では、バイアスを自覚することがとても重要になる。

以前、フェイスブック社で行っているバイアスに関する研修を取材したことがある。そのなかで、「コンピタンス/ライカビリティ・トレードオフ・バイアス」というバイアスについての説明があった。

これは、「能力が高い女性は嫌われる」というような、にべもないバイアスである。女性のリーダーが「効果的」と見なされるのは、そのリーダーがマネジメントに女性的な面を活かしている場合のみであるという研究結果もある。要するに、女性は職場において、女性としての好感をもたれながら男性以上の結果も出さなければならない状況にある。

女性管理職に対する「あの人は攻撃的だ」「おしつけがましい」「わがままだ」というような評価も、もしかしたら「女性は控えめであるべきだ」というバイアスの裏返しにすぎないのかもしれないのだ。グレタさんのしゃべり方に対する批判も、彼女が女性でありしかも見た目にまだあどけなさを残す子どもであることによって生じる「コンピタンス/ライカビリティ・トレードオフ・バイアス」の典型のように思える。

バイアスの存在を認識したからといって、「こうすればバイアスを補正できる」というような便利な方法論はない。ひとりひとりが自分の中にあるバイアスをできるだけ自覚しようと意識するのと同時に、組織内での相互のチェックが重要になる。自分がバイアスを補正できないままひとを評価していたことに気付いたのならすぐに改め、できることなら謝罪する。またほかの誰かがバイアスに基づいて何らかの判断をしている可能性に気付いたら、それがバイアスを基にしたことではないかを確認する。そういうムードを組織の中につくることが重要である。

※2019年10月24日放送のFMラジオJFN系列OH! HAPPY MORNINGでお話しした内容の書き起こしです。

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