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スターシェフが語る「シーフードとレストランのサステナビリティ」とは


世界の一流ホテル・レストランで構成する非営利組織「ルレ・エ・シャトー」。その副会長で自身も三ツ星レストランの創業者であるオリヴィエ・ロランジェ氏は現在、世界でもっとも尊敬を集めるフランス人シェフの一人だ。来日した同氏は海洋資源の保全やシーフードのサステナビリティにシェフたちが果たす役割を力説したほか、「欧州の若者の間ではレストランの批評にサステナビリティの観点を組み込むことも普通になっている」と潮流を語った。(サステナブル・ブランド ジャパン編集局=沖本啓一)

「私たちの食糧庫である海を守ろう~オリヴィエ・ロランジェ氏を迎えて~」と題されたセミナーは22日、サステナブルシーフードに関する研究者や料理人、鮮魚店、コンサルタントなど国内の多分野から参加者が集まり、国内で海洋資源をどのように持続可能にしていくのか、また日本の海産物の生産現場で何が起きているのかを話し合った。主催は一般社団法人Chefs for the Blue(代表・佐々木ひろこ氏)、国内のシェフたちのアソシエーションだ。事例報告にとどまらず、先進的な店舗での取り組みを参加者たちがどのように取り入れればいいのか、といった熱く活発な議論が交わされた。

特別ゲストとして登壇したのは、約580の格式高いホテルやレストランが名を連ねる協会「ルレ・エ・シャトー」副会長のオリヴィエ・ロランジェ氏だ。ミシュランで三ツ星に格付けされながらも2008年に惜しまれながら閉店した仏・ブルゴーニュ地方の名店「メゾン・ド・ブリクール」のオーナーシェフでもある。

サステナビリティの声、連帯で大きく

国内でも、外食産業がサステナブルシーフードを活用する場合、MSC/ASCといったメジャーな認証を導入しにくいためそれを消費者にどう伝えるのかという課題がある(参考記事=外食産業でサステナブルな海産物の認証はなぜ少ない?)。消費者に伝えるためには、料理人が十分な知識を持つことが必要だとロランジェ氏は力を込める。「野菜や肉では理解が進んでいるが、魚介類では星付きのシェフですら『新鮮さ』と『価格』だけを重要視することがある」という。その魚種が資源の危機に瀕していないか、サイズが小さすぎないか(稚魚の乱獲をしていないか)、適切な漁期に獲った魚か(産卵期は漁の難易度が下がるが、乱獲につながるため不適切だ)、漁法が魚に対して負荷をかけすぎていないか。こういった細かいところまで、料理人は知識と責任を持たなければならない。

「これまで気にせずにやってきた、安くて新鮮な(サステナビリティに配慮していない)魚をお客様が望むから、と言う料理人は年齢が上がるほど多い。しかし社会の潮流は確実に、大きく変わっている。これまで私たち(シェフやレストラン)の説明が足りなかったからお客様が望んでいたのではないか」とロランジェ氏は力説する。特に若い世代はオーガニックやフェアトレードに取り組む店に足を運ぶ。ビジネスとしても伸びていくなかで「今の時代に何が求められているか、それに目を向けないシェフは『終わった人』だと考えられるようになる」と喝破した。

しかし、シェフ一人でできることは限られている。ロランジェ氏はルレ・エ・シャトーを例に出し、それが単なるホテルやレストランの集まりではなく、ひとつのムーブメントとして方向を転換してきたと説明する。世界の中でおもてなしや料理の方向性もそれぞれ違うなかで「一緒になってサステナビリティの問題を変え、ビジビリティを高めていこうということが連帯の意図だ」と話した。料理人を中心に分野を横断して集まったこの日の参加者や登壇者の姿やディスカッションの内容に「希望を感じた」とロランジェ氏は感想を述べた。

この日のセミナーには分野横断で一線の専門家や料理人が登壇した。左から佐々木ひろ子氏(一般社団法人Chefs for the Blue)、花岡和佳男氏(シーフードレガシー)、勝川俊雄氏(東京海洋大学)、野本良平氏(羽田市場)、前田尚毅氏(サスエ前田魚店)、オリヴィエ・ロランジェ氏、石井真介氏(シンシア)、杉田孝明氏(日本橋蛎殻町 すぎた)、岸田周三氏(カンテサンス)、山口浩氏(神戸北野ホテル)

海洋の課題、欧州の潮流は

「海洋の課題は欧州で『最後に残った課題』と言えるだろう」とロランジェ氏は説明する。農業の課題やアニマルウェルフェアの取り組みが進み、食育が浸透し、最後に残ったのが水産資源の問題だという。欧州では取り組みはどんどん進んでいる。ルレ・エ・シャトーに在籍する、料理界でリーダーシップを取るシェフたちが声を上げ、サステナビリティ、オーガニック、地産地消の話題に新しい動きがあれば、欧州では報道機関が頻繁に取り上げる。若い世代のレストランの批評では、そうした要素を評価に組み込むようになっている。ルレ・エ・シャトーに所属しない若いシェフも環境やエコと、食の問題を結びつけることに非常に関心が高いという。

「サステナビリティは孤立したテーマではなく、全体的かつ有機的に考えるべきテーマだ。全体でどのような調和が成り立つのかを考えなければならない。ルレ・エ・シャトーには『世界で一番おいしい料理が食べられるお店』が集まっているわけではない。来店者だけでなくスタッフや生産者、地球にもやさしいものが食べられますよ、ということを打ち出している」

資源の枯渇を防ぐため、未利用魚を積極的に料理に活用する動きも活発になっている。フランスでは数年前までアジやサバを食べることは大衆店ですらほとんどなかった。しかし三ツ星店を始め、トップシェフたちがサバを利用し始めたところ、それが浸透しガストロノミー(美食)の店だけでなくビストロノミ―(よりカジュアルな食)の店舗でも利用されるようになった。「まずは有名シェフ、リードするシェフたちがやらなければならないだろう。将来の『ビッグ』な料理とは倫理観のある料理、お手本となる料理だ」(ロランジェ氏)

上辺の取り組みなら消費者の警戒心「解けず」

加工や流通などを手がける大手企業についての質問には「彼らも『大きな社会』の時代が終わったことはよく理解している」とした上で「食べるということは命をつなぐことだが、反対のことをしてきたという側面はある」と厳しい言葉を述べた。

「サステナビリティに配慮した取り組みをしているとしても、それが単にビジネスの在りどころを探した結果だとしたら、消費者の警戒心は解けないだろう」(ロランジェ氏)

伝統あるレストランや料理人たちの声によって一方で、ロランジェ氏の表現を借りれば「インダストリアルな」事業を展開してきた大企業は、持続可能性に対する真摯さというある種の覚悟を求められているのかもしれない。

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