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特集
ネットメディアの現在地
2009年10月にスタートしたBLOGOSは、今月10周年を迎えました。そこで今回の特集は「ネットメディアの現在地」と題して、業界のキーマンたちの声を集めました。みなさんが普段触れているネットメディアやプラットフォームがいまどのような課題を抱え、未来を描いているのか。ぜひ覗いてみてください。

淘汰が始まったネットメディア 生き残りかけパブリッシャーはどう動く? メディアジーンCEO・今田素子氏に聞く

  • 2019年10月24日 11:59
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インフォバーングループのメディア企業として「GIZMODO」「Lifehacker」「Business Insider Japan」など、海外のメディアブランドを積極的に日本で展開する株式会社メディアジーン。オンラインパブリッシャーとして長きにわたり第一線で活躍する同社は、どのような意識でメディアを運営してきたのだろうか。代表取締役CEOの今田素子氏に、パブリッシャーならではの視点で業界の展望を語ってもらった。【撮影:弘田充】

読者とメディアのつながりを築く メディアジーン流「メディアの作りかた」

——メディアジーンさんは「GIZMODO」や「Lifehacker」「Business Insider Japan」などのメディアを展開されています。きょうは、コンテンツを発信するパブリッシャーの立場でどのようなことを考えてやってこられたのか、お聞きしたいと思います

私たちインフォバーングループは、インターネット黎明期だった創業当時からデジタルでの情報発信を主戦場としてきました。現在、メディアジーンの媒体は、GIZMODOならガジェットをはじめとした新しいものを一般に浸透させるハブとなる人たち、Lifehackerなら働き方や暮らしをより良くしたいと考えるビジネスパーソンというように、どれもターゲットをしっかり定めて運営しているのが特徴です。そのため、読者にしっかりと向き合い、熱狂してもらったり、信頼してもらったりなど、読者とメディアのつながりをいかに築いていくかを大切にしています。

株式会社メディアジーン代表取締役CEO・今田素子氏

私たちのようなパブリッシャーは、ネットで偶然見つけたサイトとしてではなく、「GIZMODOが書いているから読んでみよう」と思ってもらわないと意味がありません。常にそういう意識で、ファンになってもらうためのコンテンツを出していく。そこにビジネスチームが一緒になって、信頼されるコンテンツを出し続けるためのビジネスサイクルを作っていくということを続けてきています。

——編集とビジネスはしばしば対立することもあると思いますが、関係はどのようなものなのでしょうか

もちろん、経営、編集、営業の役割はそれぞれ分けてはいますが、メディア企業としての目的を共有したうえで、良好な関係を築いています。収益を優先して読者を欺くステルスマーケティングのようなことはもちろん絶対にしませんし、読者の体験を悪くするような広告の出し方はしない。ビジネス側も「もっと広告をベタベタ貼れば売上が2倍になるのに」みたいなことは言いません。読者は絶対に裏切らないという意識は共有されています。

——ビジネスで言うと、いまは一部有料の媒体などもありますよね

デジタルマーケティングに特化した「DIGIDAY[日本版]」は有料プランの会員のみが閲覧できる限定記事を用意しています。そのほかにも、ビジネスカンファレンスの開催など、収益化の方法は徐々に多角化しています。DIGIDAY以外にも、少し前から収益源を分散させるということを考えていて、イベントのほか、コンテンツコマースやサブスクリプションなど、さまざまなサービス展開を実現しています。これらはすべて、これまでの読者とのつながりを軸にしたものです。サイクルが非常に早いこの業界の中で、メディアの価値を作りつづけていくためには、今後も常に新しいことをやり続ける必要があると感じています。

メディアジーンが運営する「GIZMODO」。このほかにも複数のメディアブランドを展開している

よくこの業界では「デジタルメディアはもうダメなんじゃないか」と言われるんですが、「メディアの危機」と呼ばれるような状況はこれまで何度もあり、それを乗り越えてきました。「スマホ対応はどうするべきか」とか、「SNSにユーザーが全部流れるんじゃないか」、「もうプラットフォームでしかメディアは読まれないんじゃないか」などはその代表です。でも、メディアは優良な一次情報コンテンツを作って配信するという大事な仕事をしている限り、存在し続けると思っています。

——ポータルサイトやニュースアプリ、SNSなどのプラットフォーマーとの関係は多くの媒体にとって重要なものですが、そのあたりの関係づくりで重要視していることはありますか

私たちパブリッシャーとしては、まずコンテンツを提供している以上は収益を戻してほしいということですね。これを基準に、メリットがあればコンテンツを出す、なければ出す必要はないと考えています。

グローバルでも、4〜5年くらい前はメディアを分散化して、たくさんの人に読まれれば、そこから収益化できるという幻想がありました。しかし、それは難しいということがわかった。だとすれば、特定のプラットフォーマーと話をして、収益と露出を交渉するというやり方もひとつの選択肢になってくると思います。

トラフィックも広告収益も少ない、配信にも手間がかかるプラットフォームも中にはありますが、果たしてそういうプラットフォームはパブリッシャーがコンテンツを提供することに見合った価値を提供できているのでしょうか。

たとえば、メディアに十分な収益を戻せないプラットフォーマーは、スポンサードポストの配信先としての機能を提供したり、表示された広告の収益を適切に分配したりするなど、パブリッシャーがプラットフォーム上でビジネスを成立させられることにより注力すべきだと思っています。それがプラットフォーマー自身の持続可能な収益につながるはずです。

なぜビジネスニュース?メディアジーンが「Business Insider Japan」をはじめたワケ

——メディアのラインナップについても聞かせてください。メディアジーンには2017年に「Business Insider Japan(以下、BI)」が加わりましたね

基本的な考え方として、私は人の人生にインパクトを与えるようなメディアをやるべきだと思っています。これまでメディアジーンでは、楽しめたり役に立ったりというライフスタイル系のメディアをメインに運営してきました。その次にやるとしたら、絶対にビジネスニュースメディアだと思ったんです。それで、BIの発行元と交渉をはじめました。いろいろ検討した中でも、BIが一番うちのカルチャーと合っていると感じたからです。

2017年にローンチされた「Business Insider Japan

BIはビジネスニュースですが、若い人たちが読みたいと思えるようなものにしたいと考えています。現在もトラディショナルなビジネスメディアはたくさんありますが、若い人たちが自分たちの目線で納得して読めるかというと難しいのではと感じていました。

——若い人に届けるというのは多くのビジネスメディアで目標になっていると思いますが、なかなか苦労している部分ですね

簡単ではないですよね。ただ、Business Insider Japanはグローバルで1.7億人以上のミレニアル世代を中心とした読者に読まれているという実績もありますし、独自の取材ネットワークを持っていたり、ミレニアル世代向けに編集されたクオリティの高いオリジナル記事を使えたりという強みがありました。これらの強みを生かせば、若い世代の読者に届けられると考えています。

——現在のBIを見ると、社会的なニュースも多いように思いますが、そうした堅いニュースをやりたいというのがあったのでしょうか

確かに、BIは社会的な課題を取り上げることが多いですが、これはミレニアルの人たちの興味関心がそこにあるからなんです。ビジネスニュースではあるけども、読者が知りたい形で伝えていくと、実は社会に関わる課題だったというケースが多い。そして、BIの読者はビジネスでそのような社会課題を解決したいと思っている人たちも多いのではないでしょうか。読者アンケートによる調査からも、そういった次世代を担うビジネスリーダーの読者の共感を得て支持されているメディアだと言えます。

淘汰がはじまったのは「いいこと」 課題山積みのネットメディアをどう見る

——BI含め、長年さまざまな領域の媒体を運営してきていると思いますが、現在のメディア業界の課題はなんだと考えていますか

いつも課題について聞かれるのですが、実は、長年メディア業界が抱えていた課題の一部は改善にむかってきたと思えることもあるんです。それは、「収益目的のメディアではなく、読者にとって価値のあるコンテンツを追求するメディアが本当にいいメディアと評価されるべき」という認識が少しずつ育ってきたということ。この数年、そうしたメディアしか生き残れなくなってきていて、淘汰がはじまっているように思います。これは本当にいいことです。


課題で言うと、ネットメディアはやはり広告に問題を抱えています。アドフラウドの問題も解決されていないし、広告の単価が安すぎるケースも多い。テクノロジードリブンで中間業者が多く、収益がそれらに分配されるため、実際にコンテンツを作っているパブリッシャーに正当なお金が戻ってこないことも問題です。こうした状況が改善され、広告が正常化されれば、メディアももっとビジネスとして成り立ちやすくなるはずです。

——業界とは別に、ネットメディアは多くの人たちの目に触れる仕事でもあります。今後、社会からはどんなことを求められてくると思いますか

ひとつはきちんとした一次情報を届けることです。私たちはそのためにDIGIDAYをはじめて、読者のためになるようなコンテンツを出しているデジタル媒体がきちんと収益化できるような事例を増やしたいと思ってきました。

もうひとつは、読者が本当に信頼できる情報を受け取ることのできる環境を作っていくことです。これが担保されているかどうかによって、その国の社会も変わってきますよね。書きにくいことでもきちんと書いて、読者に届ける。それは紙だろうがデジタルだろうがずっと変わってないことです。忖度しないで、ちゃんと読者のほうを向いて読者にとって価値のある情報を出せば、信頼も得られる。それによってビジネスもうまく回っていくような世界を作っていく必要があると思います。

プロフィール
今田素子(いまだ・もとこ):株式会社メディアジーン代表取締役CEO。同朋社出版に入社後、1994年に『WIRED』日本語版を創刊。1998年にグループ会社の株式会社インフォバーン、2008年に株式会社メディアジーンをそれぞれ設立する。2015年、インフォバーングループ本社代表取締役CEOに就任。2018年1月-12月電通総研フェローとして活動。
メディアジーンではビジネスニュースメディア『Business Insider Japan』やテクノロジー&製品情報メディア『GIZMODO』、ダイバーシティ推進プロジェクト『MASHING UP』など、ターゲット・コミュニティに向けた10のメディアブランドを展開。

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