- 2019年10月23日 20:27
「普通」を求める人には、恋なんてノイズみたいなもの
1/2 恋する以前に普通の男がいないという悩みと原因|minami_it|note
ストレートな文章で、読みごたえがあった。人の願望がこうやって言語化され、しかも長文で読めるのは喜ばしいことだ。はてなブックマーク上ではいろいろなコメントが飛び交っているが、まず、言語化されていることを寿ぎたい。
内容を読み、その後タイトルに戻ってみて、なるほどと腑に落ちるものがあった。
なぜなら、「女子の求める普通」として書かれているリストは、恋以外の何かだったからだ。ここに書かれているリストに近いのは、たぶん婚活だ。
異性のいろいろな属性をリストアップし、そのリストにもとづいてマッチングを行い、合意ができそうな者同士で婚活する。おそらく婚活場面では、ここに記されている「女子の求める普通」リストをすべて満たす男性は高嶺の花だろう。というより婚活市場に出る前に摘まれてしまう男性だ。そのような男性には希少性がある。
しかし恋愛が実は尊いと思っている私にとって、希少か否かは小さな問題でしかない。それより、このリストが恋以外の何かであることのほうが大きな問題だと思う。これは、人に恋する者の考え方ではないし、恋するのに適した考え方かどうかもわからない。
「彼女が欲しい男性」に似ている
「恋する以前に普通の男がいないという悩みと原因」を読み、私が思い出さずにいられなかったのは11年前に書いた以下のブログ記事だ。
「彼女がいない」より、「惚れない」ことのほうが深刻なのでは? - シロクマの屑籠
このリンク先で取り上げたのは、恋が始まる以前に「彼女が欲しい」と願うロジックが、恋とは違った何かであるように思われたからだ。「彼女が欲しい」男性にとって本当に必要なのは、コミュニケーション能力やらなにやら以前に、「一人の異性に惚れること」ではなかっただろうか。
私には、「恋する以前に普通の男がいないという悩みと原因」が、ちょうどこれの逆バージョンのようにみえる。恋をはじめるために必要な条件をリストアップしているその考え方が、そもそも恋とは異質な何かだ。このリストは、恋にアプローチするためのものではなく、違う何かにアプローチするためのもので、ひょっとしたら、恋を遠ざける邪魔者ですらあるかもしれない。
「彼女が欲しい」と願う男性は、女性と付き合うために必要な条件を求めてはてな人力検索に質問し、「恋する以前に普通の男がいない」と悩む女性は、女性と付き合うにために必要な条件をリストアップしているわけだから、男女交際に必要な条件を想定し、それが足りないと考えている点は共通している。そしてこの必要な条件を満たしていなければ男女交際はできない、と考えている点も同じだ。
11年前のはてな人力検索に「彼女が欲しい」と質問した男性と、2019年のnoteに「恋する以前に普通の男がいないという悩みと原因」をリストアップした女性は、とても似たロジックにもとづいて男女交際のハードルについて考えていると思う──男性が問われる側で、女性が問う側であるという違いがあるだけだ。
個別の男性、個別の女性について考えるのでなく、男性一般に必要とされている条件、女性一般が求める条件を想定しているところも似ている。男性は、男女交際のためにクリアしていなければならない条件を満たそうとし、女性は、男女交際のために男性に求めるべき条件を語っている。個別の男女についてではなく、男性一般を検品したうえで、合格か、不合格かを問うてもいる。この問いの立て方は、一人の人間が別の一人に恋するという現象から、遠いどこかだ。
だから私は、上掲リンク先の「恋する以前に普通の男がいないという悩みと原因」を読み、恋が始まらない本当の原因は、普通の男がいないことではなく、その男性全般を検品する男性観、個別の恋を求めるとは異なった何かを求めるロジックのほうだと想定せずにはいられなかった。
このように男性一般を検品しても、男女交際じたいは可能だし、結婚も不可能ではないだろう。
だが恋とは、このような検品やリストアップからは遠いどこかであるはずだ。
こんなリストをビリビリに破いて、くしゃくしゃに丸めて、屑籠に捨ててしまうような何かが、恋ではなかったか。
- シロクマ(はてなid;p_shirokuma)
- オタク精神科医がメディアや社会についての分析を語る