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人と人との関係性を変えることで全体のパフォーマンスを向上させる。その方法は時代によって変化します。 - 第99回中原淳氏(前編)


「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人々の成長・コミュニーケション・リーダーシップの研究に没頭している中原淳氏。さまざまな企業や組織の現場に深く分け入り、長い間「ブラックボックス」と化していた「職場における人々の学習」の実態を解き明かしてきた中原氏は、「長期化する仕事人生を完走するには、大人も学びを実践しなければならない」と力説する。今回の賢人論、前編のテーマは「人生100年時代を生き抜くための学びとは何か?」──なぜ、私たちは学び続けなければならないのだろうか。

人を変える『人材開発』、人と人の関係性を変える『組織開発』

みんなの介護 どちらもまだ聞き慣れない言葉ですが、まずは、『人材開発』と『組織開発』の違いについて教えてください。

中原 はい。端的に言うと『人材開発』は「組織が立てた目標を達成するため、学習を用いて人を変えること」。『組織開発』は「組織の求める成果を上げるため、そこで働く人たちの関係性を変えること」。人と人との関係を良くすることで全体のパフォーマンスを向上させる。共通の目的や目標を持った集団のチームビルディングのようなものと考えてください。

ほとんどの場合『人材開発』と『組織開発』は1セット。人材開発を行おうと思えば組織開発が必要になるし、組織開発を行うには人材開発が不可欠。どちらが欠けても成果を出すことはできないというのが僕の基本的な考えです。

『飲みニケーション』=『組織開発』だった時代

みんなの介護 『人材開発』というと何か企業による精神論のお仕着せのようなイメージがあるのですが。

中原 そうかもしれません。実際、昔は科学的な裏打ちのない『精神主義』『根性論』が当たり前でしたから。僕がこの仕事を始めた20年くらい前の時点でも、企業の人材育成方針のほとんどは「私の教育論」によって決められていました。

みんなの介護 と言いますと?

中原 「私」とは経営者。「俺はこんなふうに仕事をやってきた。だからお前もそうするべきだ」といった具合です。『組織開発』に至っては、概念すら企業にはありませんでした。

みんなの介護 なるほど。「日本型雇用施策」(終身雇用と年功序列の賃金体系)が約束されていた時代には、単純に上意下達で事足りたわけですね。

中原 当時、企業の正社員の大半は男性。長時間労働も当たり前。職場はある種の村社会のような閉じた環境にあって、現場で何か問題が起きれば上司が部下を誘って飲みに行けば事が済んだ。いわゆる『ザ・飲みニケーション』が人と人の関係を良好にする『組織開発』でもあったんです。

しかし、今では女性も正社員として働いていますし、場合によっては派遣社員、シニア、パート、外国人など、さまざまな人たちが一緒に働いている。労働時間も一律ではありません。もう、皆で『飲みニケーション』というのは成立しない時代なんです。

僕の考える『組織開発』は、そういったダイバーシティ(多様性)あふれる職場・雇用関係を前提にしています。業種、職種によって事情も違えば、求められるコミュニケーションの取り方も千差万別。大変ですが、そこがこの仕事の奥深さでもあります。


ひとつのスキルや技能で〝一生食べていける〟時代は終わった。

みんなの介護 中原さんの著書『働く大人のための「学び」の教科書〜100年ライフを生き抜くスキル』には《人生100年時代、ひとつのスキルや技能で〝一生食べていける〟時代ではなくなりました》と書かれています。

市場の変化・環境の変化に応じ、個人も自分の能力やキャリアを自ら切り開かなければ、これから「長期化する仕事人生」を完走することはできないとも。

そこで大人も「学び直し」が必要であると説かれているわけですが、今、私たちを取り囲む労働環境は、それほどまで逼迫(ひっぱく)した状況なのでしょうか?

中原 まず、日本の企業の平均寿命がどんどん短くなっている現実を念頭においてください。

また、そもそも企業の寿命も、それほど長いわけではないのです。製造業33.9年、卸売業27.1年、運輸業25.9年、農・林・漁・鉱業25.1年、建設業と小売業24.2年、金融・保険業11.7年(東京商工リサーチ2018年調査)。業歴30年以上の老舗企業の倒産も増えています。

つまり、この数字からもわかるように「終身雇用」はもはや無理。統計がないのではっきりしたことは言えませんが、大学卒で1つの企業で定年まで勤め上げる人は現状でも3割以下と言われており、そもそもそういう人たちの方が少数派だったんです。

みんなの介護 ひとつの業種自体、この先、どれだけ存続できるか定かではないのですね。人の寿命は伸びる一方だというのに…。

中原 僕はいつも学生に「ストックだけで食おうとするな」と言っています。80年、90年の人生を考えた時、いくら蓄積があっても安心はできないと。多くなくてもいいので、高齢化しても、なるべく実入りがあること、キャッシュフローが存在している状態が、大きなリスヘッジになります。

今、話題の「老後2000万円問題」にしても、金銭のストックだけで老後の生活をすべて賄おうとすることには、かなり無理があると多くの方々が気づいていらっしゃると思います。

一番大事なのはキャッシュフロー(現金の出入り)であって、健康である限りは、長い間、働ける環境をつくることです。もちろん、さまざまな事情を抱えた人にあわせて社会保障も充実させなければなりません。

一般の人は、とにかく健康を維持しつつ、学び直し、自分のスキルセット(専門的な技術や知識)をアップデートし続ける。対策はそれしかない。

と、こういう話をすると「先生、何を当り前のこと言ってるんですか」と学生には笑われてしまうのですが、40代、50代のおじさんたちが相手だと「そんなこと言われても会社を辞めるわけにはいかない」「今さら新しいことなんか学べない」「だいたいうちの会社にはろくな研修もない」と一斉にブーイングが返ってくる。一番真剣に考えて欲しい人たちなのですが…。

みんなの介護 不都合な真実を認めたくないのですね。

中原 最近は人手不足と言われていますが、一方、今年に入ってからの早期離職者の数は、半期だけで昨年1年間のそれをおそらく上回っています。40代、50代の社員たちが次々に切られている。

僕は仕事柄、大企業で20年くらい働いてきた社員が、いざ転職の段になって自分の市場価値がそれまでの3分の1しかないと宣告を受け、途方に暮れている様子なども見てきています。

突き放した言い方をすれば、そもそも会社側は「定年まで辞めないでくれ」とは一言も言っていない。今、その人が置かれている状況は、全部、本人の選択の結果。不満があるなら活躍の場を外に求めるという選択肢もあったはずなのに、結局、自分の能力やキャリア開発をずっと会社任せにしてきた。

そういった自分の人生の他人任せ、組織任せが、実は最大のリスクだったんですよ。

少し背伸びをしてやってみて、振り返ることができれば、それは学びになる。

みんなの介護 しかし、気付いたとしても「大人の学び」には学校も先生も存在しないわけですよね?何をどう始めたらいいのでしょう?

中原 僕は「大人の学び」を「自ら行動する中で経験を蓄積し、次の活躍の舞台に移行することを目指して変化すること」と定義しています。どんな些細なことでもいい、少し背伸びをしてやってみて、振り返ることができれば、それは学びになります。

例えば、今まで手計算でやっていた作業をマクロ(PC表計算ソフトExcel上で作業を自動化させる機能)を使ってやってみるとか。要は背伸びといってもハードルをあまり上げ過ぎず、長続きさせることに意味があります。

それから、これまで自分がやってきたことを軸に据える。僕はこれを「ピボットターン理論」と呼んでいるのですが、文字通り、バスケットボールで見られる、片足を軸足にし、もう片方の足を前後左右にステップして体を回転させるプレイのイメージです。

もし、新しいことにチャレンジしてみたいと思った場合でも、最低限、自分の好きなこと、興味のあることを選ぶ。くれぐれも、「世間的に、やればいいといわれていること」「社会的に大切だといわれていること」という理由で始めるのは禁物。

重要だと頭ではわかっていても、興味や関心が持てないことはやはり長続きしない。そういう調査結果が、はっきり出ているんです。

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