- 2019年10月23日 17:10
水害対策、垂直避難の検討を
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今回の水害では、宮城県丸森町で、家ごと家族4人が流されたようなケースも存在するが、このような方は少ない。10月19日現在、判明している81名の死者の被災場所は住宅内27人、車内21人、屋外22人、その他・不明11人だ。車内・屋外で死亡した43人の中には病院職員や公務員のように職務中に死亡した人もいるが、経緯は兎も角、一旦、豪雨の中での移動は生命の危険を伴うことがわかる。理想的には早期に避難すべきだが、避難所の収容力の問題や移動手段を考慮すると、全員を安全に避難させることは出来ない。
今回の水害で、筆者が注目したのは、27人が住宅内で死亡していたことだ。どのような状況だったのだろう。
この点を議論する上で、福島県が公開した情報が役に立つ。10月19日現在、福島県では30人の死亡が確認され、12都県の中でもっとも多い。福島県は、この30人の属性や死亡した状況を開示している。
亡くなった方の年齢は7~100才までにわたるが、正確な年齢が分かっている29人中、16人が70才以上、8人が60歳代と被害者は高齢者に集中している。高齢者こそ、災害弱者なのだ。
さらに、70歳代以上の16人に限定して分析すれば、亡くなった場所は屋内11人、屋外5人だ。後者の5人の中には、ヘリで救出中に墜落した方や、職場に駆け付けた市職員、病院職員、新聞店勤務者などがいる。墜落した方を除き、リスクを承知で豪雨の中を行動した人たちだ。「殉職」であり、避難対策とは別個議論すべきだ。本稿では取り扱わない。
一方、屋内で亡くなった11人については「避難の失敗」と言っていい。彼らが死に至る状況を詳細に分析すべきだ。彼らの住居は、4人が平屋住まい、7人が二階立て以上の家やアパートだった。私が驚いたのは後者だ。二階立ての家に住んでいれば、二階に逃げることで、命を守ることが出来たはずだ。
実際に、福島県では、このように対応したケースが多い。南相馬市で在宅医療に従事する根本剛医師は、「川沿いに住んでいる患者さんがいましたが、消防団がやってきて、二階に「垂直避難」して無事でした」と言う。
では、なぜ、二階に逃げなかった人がいるのだろう。注目すべきは、7人の死者のうち、5人が独居だったことだ。彼らの住居はアパート3人、市営住宅1人、一戸建て1人だった。4人は集合住宅に住んでいるため、周囲がサポートすれば、容易に二階以上に避難出来たはずだ。彼らが溺死した背景には社会的な孤立があった可能性が高い。社会的な紐帯が水害死を防ぐ重要な要素かもしれない。このことは、東日本大震災の経験とも合致する。
家族とともに住んでいたのに、溺死した二人の経過も示唆に富む。家族6人と生活していた79才の女性の場合、家族が避難を呼びかけるも応じなかった。悪天候の中を自宅から遠い避難場所まで移動すること、避難生活が大変なことを考慮したのだろうか。もし、家族と二階に避難していたら、助かった可能性があるのに残念だ。
では、平屋住まいの方はどうしたのだろう。亡くなった4人は、夫と二人暮らしだったが、足が悪かったため避難出来なかった91才の女性、妻が浸水に気づき、周囲に助けを求めたが、足が悪く動けなかった86才男性、一人暮らしで愛犬を抱えたまま亡くなっていた86才女性、一人暮らしで、周囲から避難を誘われたが自宅に留まった100才の女性だ。多くの高齢者が独力で避難できないことがわかる。
彼らを避難所に運ぶには多くの人手を要するし、搬送される高齢者にとってもストレスだ。避難を誘われても、断る人もいる。遠くの避難所でなく、自宅あるいは最寄りの二階に避難するだけで済むなら、それに越したことはない。台風が過ぎ去り、落ち着いた段階で救出すればいい。

水害対策では「高さ」が大切だ。ところが、このことはあまり議論されてこなかった。
幸い、今回の水害では自治体が作成したハザードマップと、国土地理院がまとめた浸水地域は概ね一致していた。水害時にどこが、どの程度の深さで浸水するかはほぼ予想できる。
今回の水害で、もっとも浸水が深刻だったのは、水戸市常磐自動車道水戸北スマートインターチェンジ南側で7.2メートル。主な河川の最大浸水は、吉田川4.5メートル、久慈川4.0メートル、都幾川3.0メートル,千曲川4.5メートル、阿武隈川5.2メートルだ。二階建て住宅の二階の床の高さはおおよそ3メートルだから、二階に「垂直避難」しても危険な地域はある。
ただ、多くは安全なはずだ。自宅の二階が浸水しなければ、とりあえずは二階に逃げればいい。平屋なら近所の二階に移動すればいい。独力での移動が困難なら、近所の人や行政が手伝えばいい。一律に避難所に避難するより手間は少ない。
水害から高齢者の命を守るには、きめ細かい対応が必要だ。自宅への浸水予想、自宅の構造、住民の身体状況、家族構成、近所の避難先などを総合的に勘案しなければならない。個別の対応が欠かせない。
前出の根本医師は「現在21人の患者さんを在宅でフォローしています。患者の自宅の状況を把握し、台風が来る前に、どの人に病院に避難してもらうかなど、院内で議論を深めたい」と言う。筆者も協力するつもりだ。今回の水害を契機に避難対策を見直すべきである。
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