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水害対策、垂直避難の検討を

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令和元年台風19号被災地での自衛隊による救助活動(2019年10月14日 宮城県大崎市)
出典: 陸上自衛隊東北方面隊 twitter

上昌広医療ガバナンス研究所 理事長)

【まとめ】

・水害では避難所より家屋二階への「垂直避難」が安全なことも。

・避難所の受け入れ能力も問題。豪雨の中移動を余儀なくされた例も。

・高齢者保護には住環境把握など個別対応が不可欠。対策見直しを。

「水害対策は見直す必要があります。特に高齢者にとって避難所に行くことが、必ずしもベストとは言えません」

相馬中央病院の内科医である森田知宏医師はいう。10月12~14日にかけてわが国を襲った台風19号は相馬中央病院が位置する相馬市を直撃した。

相馬市は甚大なダメージを蒙った。森田医師の同僚である藤岡将医師は、私が編集長を務めるメールマガジン「MRIC」に寄稿し、病院開設以来35年間勤務している同僚の言葉として、「創業以来、こんなにひどいことはない。12日の夜、病院玄関のタイルまで水が来て、『もう駄目だ』と思ったら、そこから水が引いてきた」と述べている(Vol.177 相馬日記 台風編)。台風19号に襲われた地域では、各地で同様の光景が見られたことだろう。

▲写真 相馬中央病院 出典:相馬中央病院 facebook

10月19日現在、全国での死者は12都県で81人。もっとも多いのは福島県で30人だ。浜通り、中通りの広範な地域が被災した。

どうすれば、命を救えただろうか。水害対策の基本は「避難」と考えられている。避難対策を仕切るのは市町村で、今回の台風でも、多くの市町村長は、「避難勧告」、「避難指示」の形で住民に早期避難を呼びかけた。

ところが、多くの住民は避難しなかった。毎日新聞の10月17日の記事によれば、台風が通過した直後の段階で、避難所へ身を寄せていたのは、全住民の1.6%に過ぎなかった。

専門家の中には、その心理を「東北の住民の中には、被害は関東に集中し、自分たちは関係ないと考えた人がいるのではないか」と解説する人もいる。このような心理状態を専門用語で「正常性バイアス」という。沈没船から逃げず、溺れる人の心理状態と同じだ。

▲写真 災害時に設置される避難所の様子。 出典:京都市防災危機管理情報館

メディアも、このような主張を支持する。私が電子版で定期購読している神戸新聞は10月17日の社説で「無駄でも早めの避難を」との見出しの記事を掲載している。阪神大震災の経験もあり、神戸新聞は災害の記事が充実している。今回も多くの紙面を割いて報じている。

私は、このような主張に疑問を感じる。本当に「無駄でも早めの避難を」でいいのだろうか。医師で相馬市の市長を務める立谷秀清氏は、「水害対策は難しい。市民を避難させるためには、受け入れ体制を整備しなければならず、準備は不十分だ」という。

▲写真;立谷秀清・相馬市長。医師でもある。出典:全国市長会ホームページ

立谷氏と話していて、筆者が興味を抱いたのは、「わが国の災害対策は震災を念頭に検討されてきた」という言葉だ。

東京都の場合、都市整備局が「防災 ~都市の確実な安全と安心の確保」というホームページを開設している。その中に「避難場所・避難道路の指定」という項目があるが、クリックすると出てくるのは「震災時火災における避難場所及び避難道路等の指定」だ。全ての記載が震災対策だ。

医療ガバナンス研究所が位置する港区の場合、「広域避難場所及び地区内残留地区」に指定されているのは、明治神宮外苑地区、青山墓地一帯、有栖川宮記念公園一帯、芝公園・慶應大学一帯、自然教育園・聖心女子学院一帯、高輪三丁目・四丁目・御殿山地区だ。いずれも広大な屋外空間で、震災後の火災対策や余震対策には有効だろうが、台風の中で避難できる場所ではない。

水害の際の避難所は、公立の小中学校の体育館や教室となるが、東京の場合、どこの学校に避難するかは、どの町内会に所属するかで決まる。避難所の中には浸水が予想されているところもある。かくの如く、地震対策と比較して、水害対策は不十分だ。

これは高度成長期以降のわが国の歴史に負うところが多い。平成以降、わが国は阪神大震災、東日本大震災など多くの震災を経験したが、最近まで水害が話題になることは少なかった。両者を区別して議論してこなかった。

今回も弊害がでている。日本経済新聞の10月17日の記事によると、宮城県丸森町の場合、当初、町役場の隣にある「丸森まちづくりセンター」を避難場所に指定したが、台風が接近した12日夜には、屋上の排水が追いつかず溜まった水があふれ出した。周辺で浸水も始まったため、午後9時ころに隣の町役場(4階立て)に避難者約70人をマイクロバスで移送したという。この地域はハザードマップで浸水の危険性を示すピンク色で塗られていた。現に外部は10センチほど浸水していた。急ごしらえで整備された町役場の避難所は数十人が同じ部屋に入れられた。

福島県郡山市でも避難所が変更となった。12日午後1時から避難した高倉小学校は高台にあり、収容スペースも広かったが、敷地の一部が土砂災害の警戒区域だったためだ。豪雨は土砂災害のリスクを高めることが、十分に認識されていなかった。

問題は避難所の立地だけではない。避難者の受け入れ能力も問題だ。今回の台風でも、幾つかの避難所が満員となった。

例えば、東京都狛江市は、12日午前8時ころに、中央公民館を自主避難場所として開設したが、雨が本格化する前から住民が集まり、昼過ぎには満員になった。避難者を収容しきれず、急遽、市役所ロビーなどを開放し、約460人を収容した。

2018年6月30日から降り始めた九州南部の豪雨では、鹿児島市内全域に警戒レベル4にあたる避難指示が出た。鹿児島市の人口は約59万人。避難所は大混乱となった。多くの避難所が手狭となり、豪雨の中、住民は別の避難所に移動を余儀なくされた。

避難指示を出した森博幸・鹿児島市長は「ぜひとも早めに避難していただき、ご自身や大切な方の命を守る行動をとって頂きますようお願い致します」とコメントしたが、現場の混乱を考えれば、この発言が妥当だったか、疑問が残る。森・鹿児島市長の立場を考えれば、その発言も理解できる。避難指示を出さずに死傷者が出れば、責任を追及されるが、避難指示を出すことで免責されるからだ。

このような対応は、今回の水害でも散見された。台風19号が通過して、約1週間後の降雨に対し、いわき市は約15万人の市民に避難勧告を出した。いわき市の人口の半分に当たる人数だ。具体的には、どういう経路で、どこに行けばいいのだろう。

水害対策は、もっときめ細かい対応が必要だ。今こそ、今回の経験を踏まえ、具体的な対策を議論すべきだ。

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