記事
- 2019年10月24日 12:06
『カメラを止めるな!』上田慎一郎監督の新作映画はプレッシャーに打ち勝った一本
2/2※ここから先はネタバレ注意
ここから先は、少しのネタバレもありをご容赦頂きつつなので、どうぞお含みを。今作「スペシャルアクターズ」は「松竹ブロードキャスティングオリジナル映画プロジェクト」という企画の下で制作された。かつて橋口亮輔監督の「恋人たち」(2015年)などの傑作を生みだしているプロジェクトだ。オリジナル脚本による「監督の作家性」、ワークショップを通した「新たに発掘した俳優」による映画作りを掲げている。加えて、ローバジェット(低予算)という条件も含んでいるだろう。
上田慎一郎にとって、このオーデイション&ワークショップの方式は「カメ止め」と同様であり、上田ワールドを作るにあたり、自分の思いに寄せやすいものだ。その中で約1500通の応募があり、最終的に15人の出演者が決定した。
だが、「カメ止め」と決定的に違うのは「カメ止め」の公式的な封切がミニシアター2館からであったのに対し、「スペシャルアクターズ」はメジャー配給となり全国148館からのスタートであることだ。
「カメ止め」は監督も役者も何もかも無名なマイナー作品がクチコミで拡散、上映館を次々に拡大し、それこそ新宿ケイズシネマから始まってTOHOシネマズ日比谷にまで駆け上がるという前代未聞のインディーズドリームを見せてくれた。そこで、スクリーンに映る役者達がことごとく無名であることは、奇跡の要素として迎えられていった。「誰も知らない、だけど、とにかくおもしろい」と。
しかし、「スペシャルアクターズ」はメジャー配給でありながら、またしても無名の役者ばかりの映画になった。顔を見て誰なのか判別できる役者は誰一人出てこない。「カメ止め」で名を上げた上田組のアクターでさえも誰一人出てこない。自分が観賞した丸の内ピカデリーのスクリーンは普通にでかい。その大スクリーンに映し出されるのが見知らぬ役者たちというのは、「カメ止め」がまとった期待感とは別種の心もとなさを感じさせた。
< 上田慎一郎インタビュー 公式パンフより >
上田「一流の技術を持った役者さんはメジャー作品に出ているので、そこで(今作を)勝負してもしょうがないんですよ」
監督の意志はわかる。だが、「無名役者×大スクリーン×前評判不明」という状況は観る側にかなりの心もとなさをもたらす。しかも主人公は極度の緊張で追い詰められると気絶するという、心もとなさの結晶のようなキャラクターだったりする。
オープニングから気弱で頼りない主人公の背景を描くシーンを重ねていく中で、「で、大丈夫か、この映画」と正直心細くなっていくのだが、結局はそれも含め、すべてが上田慎一郎の手のひらの上だったと気づく時、心もとなさは心地よさに塗り替えられていた。
全国148館スタートのメジャー配給であろうと、上田のスタンスは変わらない。その揺るぎなさが大スクリーンを、エンターテインメントを志向する上田カラーに隅々まで染め上げていた。
追い込まれたときに垣間見える真実の姿
「スペシャルアクターズ」の根幹にあるのは、「芝居」が、リアルとフェイクの境界を行き来できるという特性だ。その特性に観る側は次第に飲み込まれていく。「芝居で相手をだます」という仕掛けは、古今東西の映画にドラマに舞台に無数にあるが、上田監督はそこで無名な役者たちが持つ無名というハンデをアドバンテージとして活かし、物語を構築していた。そして、リアルとフェイクの狭間で役者達が見せる芝居はおのずと可笑しみを纏う。それは、役者達がそれぞれの役を演じながら、この一作がすべてというような覚悟、誰もが上田組に全身全霊を投じている懸命さ、そういう熱情のようなものが、その役者が持っている許容量の向こう側をチラチラと見せてくるから、なのかなと。
上田監督は大詰めのオーディションで行ったエチュードで、事前に与えた課題をわざと直前に変更してハードルをあげて追い込み、「キャパオーバーしたときに見える、その人の素の姿で判断していき」、最終出演者となる15人を決めたという。
この「キャパオーバー」で見えたものが不器用さを伴いながら、それぞれの役にリアルとフェイクのプラスアルファを付加した・・・とすれば、それもまた上田監督の演出手腕なのだろう。
15人という数字を前にすると、今はどうしたってラグビー的なチーム感を連想するのだが、名も無き15人が芝居のパスを、ひたすらに懸命に、泥くさくつなぎ、成し遂げたものは、晴れ晴れしいラストをもたらしていた。そして思う。チーム「カメ止め」も良かったけど、チーム「スペアク」もいいね、と。
P.S. 個人的に一番印象に残っているシーンをひとつ挙げるなら、ある作戦を決行する場に、主人公の大野和人が姿を現し歩いてくる場面。心もとなさ、そのものが歩いているような、ぎこちなく、情けなく、それでも前へ進むと決めた愛おしい歩き。抱えている感情が全身から伝わってきて、込み上げてきながら喝采してしまった。
P.S.2 丸の内ピカデリーのグッズ売り場で「魔法のボールチャームストラップ」を購入した。映画を観てグッズを買うなんて何年ぶりだろう。

- 松田健次
- 放送作家。落語会の企画制作も手がける。
1966年生 著書に「テレビの笑いをすべて記憶にとどめたい」「落語を聴くなら春風亭昇太を聴こう」「F(エフ)」。らくご@座(あっとざ)の名称で落語会の企画制作を手掛ける。
らくご@座:http://rakugo-atto-za.jp/
らくご@座:http://rakugo-atto-za.jp/



