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【読書感想】ひとりで生きる 大人の流儀9

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 弟の死から十五年後、私は前妻の死に直面した。これはコタエタ。何とかもち堪えたのは、半分以上が、七年後に私を家族にしてくれた家人のお陰である。

 今年の春先、大阪でサイン会をした折、近しい人を亡くした人が来て下さっているのに半ば驚いたと書いた週がある。

 弟を、前妻を亡くした時、同じような立場の人が世間に数多くいるのを知った。

 それでもこの頃、私の拙いエッセイを読んでラクになったと言われる。そういうつもりで書いた文章はひとつもないのだが、もしかして私の文章のそこかしこに、別離への思いが見え隠れしているのかもしれない。

「近しい人の死の意味は、残った人がしあわせに生きること以外、何もない」

 二十数年かけて、私が出した結論である。

──そうでなければ、亡くなったことがあまりにも哀れではないか。

 一人の人間の死は、残されたものに何事かをしてくれている。親の他界はその代表であろう。家人と彼女の両親の在り方を見ているとそれがよくよくわかる。

 僕も、伊集院さんのエッセイを読むと、自分が少しだけ大人になったような気がする、あるいは、大人として生きることのカッコよさと辛さを思い知らされるのです。

 基本的に、短時間でそういう「大人モード」からは抜けてしまうのだけれど。

 他の週刊誌で、冗談が半分の悩み相談を引き受けているのだが、去年、そこで若い父親からの相談で、どうも子供の顔付きや、風貌が自分とはあまりにも違うので、DNA鑑定をしたところ、自分の子供ではないことが判明した。

 自分はどうしたらいいのか? 子供にそのことをいずれ伝えなくてはならないと思うが、その時期の云々ということだった。

 私の答えは、こうだった。

「冗談を言いなさんナ。そんなことが子供に何の責任がある。それを知るまできちんと育てて来た気持ちが、たかがそのくらいのことで変わるんなら、親というものが何なのかとまったくわかっちゃいないじゃないか。たかが血が違うくらいで、親と子がおかしくなる道理があるはずはない。

 赤児を最初見た時の、あなたの喜び、誰かに感謝したいという正直な気持ちは何だったのか?

 大人の男として恥かしいと思わないのか。

 第一、そんな鑑定をしようとする気持ちが卑しい。

 赤児は目を開いて、最初に見た人を、その人が、よく生まれて来たネ、という目で見てくれている表情ですべてを理解するものだと私は信じているし、それは何千年も変わることのない親子の絆だ”と答えた。

 ちなみに、この質問者からは、後日、お礼のメールが来たそうです。

 僕はこの伊集院さんの回答を読みながら、うんうん、と頷き、涙が目に浮かんできたのです。

 しかし、親としてあらためて考えてみると、「たかがそのくらいのこと」と言えるような話じゃないですよね、これ。

 むしろ、悩む相談者のほうが、「ふつう」であるように思われます。

 今の世の中って、こういう「悩み」に対して、いろんな角度から分析して、質問者に寄り添って答えようとしてくれるじゃないですか。

 それが、現代のスタイルではある。

 でも、この伊集院さんの回答の力強さに、僕はとても魅かれてしまうのです。

 いろんな角度から物事をみようとして、あなたの気持ちもわかる、それも間違っていない……と、結論が出なくなってしまうよりは、「たかがそのくらいのことで、親と子がおかしくなる道理があるはずはない」と断言してくれる人を、僕は(そして、世の中のたくさんの人は)求めているのかもしれません。  

いろいろあった人へ 大人の流儀 Best Selection

琥珀の夢 小説 鳥井信治郎 上 (集英社文芸単行本)

人生なんてわからぬことだらけで死んでしまう、それでいい。 (文春文庫)

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