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特集:自然災害・多発時代の日本経済

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台風一過、今週は急に肌寒く感じられるようになりました。皆さまは、先週末に日本を襲った台風19号の被害からご無事でしたでしょうか。来る前から何度も「史上最大級」と脅かされ、10月12日に上陸した際には、NHKが朝からずっと「命を守る行動を」と連呼していましたが、それは少しも大袈裟な表現ではなかったようです。

問題はこのことが日本経済にもたらす影響です。消費増税直後の景気にとって、このことは新たな負担となるでしょう。さらに自然災害が多発する時代には、どんな対策を打っていくべきか、国土インフラをどうやってメンテナンスしていくかも考えなければなりません。台風19号を契機に、考えさせられたことをここでまとめておきたいと思います。

●常識破りの災害が多発する時代に

以前に損害保険会社の方から聞いた話だが、史上最悪の台風といえば、業界では「1991年(平成3年)の台風19号」のことを指すのだという。

1991年は台風の上陸・接近が非常に多い年であった。特に9月27日に長崎県に上陸した台風19号は、山口県をかすめて日本海を北上し、勢力を維持したまま北海道に再上陸し、オホーツク海に抜けた。全国での被害は死者62人、負傷者1261人に及んだ。

と言っても、当時のことを記憶している人はそれほど多くないだろう。台風19号は、東北では収穫前のりんご畑を直撃し、「りんご台風」とも呼ばれた。このとき、木に残ったりんごは「落ちないりんご」と呼ばれ、大学受験生の間で珍重された――というエピソードについては、あるいはご記憶があるかもしれない。それくらい、台風とは特徴の少ない自然災害であって、われわれの記憶から日々抜け落ちていくものである。

台風19号の保険金支払額は5680億円にも達した。その後、長らくこの記録は抜かれることがなく、「史上最悪の台風」としての地位を保持してきた。

ところがこの記録は昨年9月、関空を水没させたあの台風21号によって破られることになる。日本損害保険協会のHPを見ると、長らく首位を保ってきた「平成3年台風19号」は、「平成30年台風21号」にダブルスコア(1兆円超!)で抜き去られている1

昨年の関西は本当にご難続きで、大阪北部地震(6月18日)もあったし、西日本豪雨(6月28~7月8日)の影響も受けている。後者は200人以上の死者を伴ったし、保険金支払額では歴代7位を占めている点にご注意願いたい。


しかるに先週末、日本を襲った「2019年の台風19号」は、これらの記録をさらに塗り替えてしまう公算が大である。被害の全容はまだ明らかではないものの、本校執筆時点で死者は78人、行方不明者は9人にのぼる。7県の59河川、90か所の堤防が決壊しており、多くの建物が水に浸かり、避難生活を余儀なくされている人も多い。水浸しになってしまった北陸新幹線の車両も含めて、損害保険がカバーするのは相当な広範囲になりそうだ。

「令和元年の台風19号」を計算に入れなくても、上記トップ10のうち5件までが直近5年以内に起きているという事実は重い。その原因が、地球温暖化のせいなのかどうかはさておいて、経済活動の面から言えば、「これから先は、同じ規模の台風が毎年のように来るかもしれない」と考えておく必要があるだろう。

とは言っても、別に損害保険業界を心配する必要はないのである。保険という商品は、大きな事故が起きればすぐに料率が上がる。逆に事故がなければ下がるし、そもそも保険を買う人が居なくなる。そこは市場メカニズムが働くし、再保険というヘッジ手段もある。

問題は、むしろ保険金を支払う側のコスト増である。自然災害に備えるコストは、産業界全体にのしかかることになる。さらに自然災害が起きた後は、復旧、復興にも費用がかかる。生産や物流にも支障が生じる。経営者や投資家にとっては、災害多発時代は予見可能性の低下を意味しよう。観光産業にとっても、もちろんマイナスとなる。

そして政府は、防災・減災への財政支出を増やさねばならない。こういった事業は乗数効果が高くないだろうし、同じ支出をするなら教育や科学技術予算に投ずる方が、日本経済の生産性向上に資するはずである。

●意識を変えたのは「3/11」

東日本大震災台風だけではない。地震の発生についてもほとんど同じ現象が起きている。以下は同じく日本損害保険協会のデータだが、保険金支払額トップ5のうち3件が直近3年以内に起きている。すなわち2位の熊本地震(2016年)、3位の大阪北部地震(2018年)、5位の北海道胆振東部地震(2018年)である。


そもそも地震保険という商品は、1995年に阪神大震災(平成7年兵庫県南部地震)が発生するまでは、存在自体がそれほど知られていなかった。それがこれだけ一般的になったのは、それだけ巨大地震が頻発する時代を迎えているからにほかならない。

とりわけ分水嶺になったのは、2011年の東日本大震災であろう。あれだけの自然災害を体験してしまうと、それまでの認識を修正しなければならなくなる。「起きてほしくないことは考えない」「自分だけは大丈夫だと考える」といった楽観的な(しかし、人間としてはごく自然な)発想法も、嫌でも反省を迫られる。

最近では、「南海トラフ」という西日本巨大地震への警戒も語られるようになってきた。企業としても、そうした有事に備えてBCP(Business ContinuityPlan)を作成する、シミュレーションを行う、バックアップ体制を作っておく、といったリスク対応が必要になってくる。これもコスト増となるわけだが、そんなことは言っていられない。

さらには自然災害に対する「働き方改革」も、日本社会全体で進行中である。大型台風の到来が想定されるときは無理をしない、社員は早めに帰宅する、といった習慣も、ほんの10年前には考えにくかった。とはいえ、これも好き嫌いは言っていられない。環境の変化に対応しない者は生き残れない、というのが自然界の鉄則である。その意味で日本社会は、確実に「自然災害の増加」に適応しつつあるようにみえる。

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