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「表現の不自由展」米のケース

島田洋一(福井県立大学教授)

【まとめ】

・「表現の不自由展」は安全地帯での覚悟なき玩弄。表現の自由は侵されず。

・米国でも「表現」で一大騒動。NY市長助成金カットと立ち退き要求。

・中国、韓国はもちろん、米国でも「表現」によっては日本より遥かに厳しい。

10月14日、国際芸術祭「あいちトリエンナーレ」「表現の不自由展・その後」が、突然の中止、「不自由な」限定再開を経て、会期終了と共に閉幕した。

主流メディアの多くは、最も問題視された、昭和天皇の写真を焼き文字通り踏みにじる映像については触れず、もっぱら慰安婦少女像が不寛容な勢力に攻撃されたかの如き「表現の不自由」を体現したような報道を続けた。

主催者である大村秀章愛知県知事津田大介芸術監督の責任について、「企画アドバイザー」だった東浩紀氏が、当事者として的確に指摘している。

「『表現の自由』vs『検閲とテロ』という構図は、津田さんと大村知事が作り出した偽の問題だと考えています。…今回『表現の不自由展』が展示中止に追い込まれた中心的な理由は、…天皇作品に向けられた一般市民の広範な抗議の声にあります。津田さんはここに真摯に向かい合っていません」

今回、表現の自由は、常識的意味において、何ら侵されていない。せいぜい、税金の補助を受ける対象から排除されただけである。問題となった一連の「作品」群は、破壊も没収もされておらず、民間の場に移せばいくらでも再展示できる。写真や動画のネット拡散により、むしろ当事者の予想以上に多くの人が「表現」の実態に接した。

これが中国で、毛沢東の写真を焼く映像を展示したのだとしたら、関係者は既にすべて獄中、ネット拡散した者も国家安全部に拘束され拷問という展開になっていただろう。

あるいは韓国で、慰安婦の写真を焼いて踏みにじるパフォーマンスをしたなら、やはり関係者は、元慰安婦が共同生活を送る「ナヌムの家」で土下座謝罪の上、何らかの罪状を付けられ服役となったろう。

「テロ脅迫」に責任転嫁を図った大村、津田両氏の行為は、日本という安全地帯における、覚悟を欠いた「表現」の玩弄に過ぎなかった。

政治性と宗教性という点で違いはあるが、アメリカでも1999年、「センセーション」と題したブルックリン美術館の特別展示が一大騒動を巻き起こした。

問題の作品はイギリスの黒人画家クリス・オフィリ(Chris Ofili)「聖処女マリア」で、デフォルメされた黒人女性の乳房のコラージュ(貼付)部分と台座に象の糞が使われていた。また画面に多数飛ぶ蝶のような物体が、近づいて見ると、突き出した女性のヒップの写真であった。

▲写真 ブルックリン美術館(ニューヨーク)出典:Wikimedia Commons; PaladinHero1

経緯は後述するが、同作品は現在ニューヨーク近代美術館(MoMA)に収蔵されており、「MoMA, Ofili, Mary」で検索すると同美術館の説明入りで画像が見られる。

「センセーション」展を開催したブルックリン美術館は、ニューヨーク市の財政補助を受け、市所有の建物に入居している。当時のルドルフ・ジュリアーニ市長(現在トランプ大統領の私的法律顧問)は、「嫌悪すべき企画に表現の自由は適用されない」と、作品を撤去しなければ助成金を打ち切り、美術館自体の建物からの立ち退きも求めるとの姿勢を打ち出す。事態は法廷で争われるに至ったが、特別展示終了で作品が建物外に搬出されたこともあり、結局、市側は美術館に対する立ち退き要求を取り下げた。

▲写真 ニューヨーク市長だったルドルフ・ジュリアーニ氏 出典:Public domain

その後この作品は、460万ドル(約5億円)である富豪が落札し、昨年(2018年)ニューヨーク近代美術館に寄贈された。ところがその際は騒動とならなかった。最大の理由は、同美術館はロックフェラー財団など民間資金で運営されており、税金が入っていないことにある。

▲写真 クリス・オフィリの「聖処女マリア」が寄贈されたニューヨーク近代美術館 出典: Flickr; t-mizo

日本でも同様、個人美術館や朝日新聞あたりが「表現の不自由展」を引き取り、自らの費用と責任で展示する覚悟を示せばよいのである。

またオフィリの作品には、題名以外に聖母マリアを思わせる要素は乏しく、構図や色彩にアートとしての面白さを感じる人々が少なくない。象の糞も彼が好んで使う画材で特に冒涜の意図はなかったとされる。

もっともアメリカでも、例えばマーティン・ルーサー・キングの写真を焼いて踏みにじる映像を展示したなら、主催者は囂々たる非難と資金引き上げ、訴訟に見舞われるだろう。その点は、日本より遙かに厳しいはずだ。

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