記事

『カメ止め』上田慎一郎監督の無名役者でおもしろ映画を作るコツ【スペシャルアクターズ公開】



2018年度の映画界に旋風を巻き起こした『カメラを止めるな!』。一躍、国内外が注目する映画監督になった上田慎一郎は、新作『スペシャルアクターズ』で何を見せてくれるのだろうか? 10月18日の映画公開直前に、上田監督を直撃した。

借金苦を「いいこと」に変える

僕のベースには、楽観的な資質があるんでしょうね。20代前半で詐欺まがいのマルチ商法に足を突っ込み、200万円の借金。さらに共同出版で小説を出し、そこでも200万円の借金を背負いました。代々木公園でホームレス生活をしていた時期もあるんですよ。でも、こうした「悪いこと」を、14歳から20歳までは日記に綴り、20歳になってからはブログでエンタメ化してアウトプット。結局、「悪いこと」はすべて「いいこと」になった。お笑い芸人的な思考回路の持ち主なんです。

そんな僕でも、前作『カメラを止めるな!』のヒット後のプレッシャーは計り知れないものでした。本作『スペシャルアクターズ』のオファーは『カメ止め』の劇場公開前に受けましたが、物語がまったく書けない。どんな物語を作っても、『カメ止め』は超えられないだろうという思いばかりが募りました。大スランプに陥り、毎日、気絶しそうでしたね。

映画の制作手法は、「『カメ止め』と同じように」と決めました。有名な役者を使わずに、オーディションで無名の役者を選抜する。それは、「『カメ止め』の1本だけでは、スタンダードにならない」と考えたからです。ありがたいことに『カメ止め』では、多くの方から「無名の役者でもおもしろい映画が作れるんですね」との言葉をいただきました。でも、1本だけでは"マグレ当たり"で終わってしまいます。マグレと言わせないために、無名役者と大きくはない予算で2本目に挑むことにした、という理由もあるかもしれません。



1500人の応募者から、オーディションで15人を選びました。この時点で、物語の構想はまったくありませんでした。『カメ止め』のオーディションの時には、ストーリーの大枠がありましたが、今回はその大枠すらない。完全に白紙という状態でした。

映画の制作では、まず先に物語があって、それに合った役者を選ぶというキャスティングが一般的です。どう考えても、そのほうが安心ですからね。でも、僕は「映画では安心に寄り掛かることが危険だ」と思っています。安心な道を選ぶと、どうしても無難なものになってしまう。60点、70点のものを作ってしまうことが、クリエーターとしていちばん怖いんです。それなら0点のほうがマシ。危険を冒してでも、「そんなこと、本当にできんのかよ」と人に言わせることにチャレンジしたい。『カメ止め』でいうと、30分ワンカット撮影とか、チャレンジがないと、燃えません。

無名の役者だから、ドキュメント性が出る

オーディションで選んだ15人は、全員無名の役者です。主人公の大澤数人は、ここ10年で3本しか芝居の仕事をしたことがありません。彼の両親は、息子が役者をやっていることをこの映画に出るまで知らなかったそう。旅館の女将役の津上理奈にいたっては、演技未経験者です。

なぜこうした無名の役者を使うのか? 僕には「映画はフィクションなんだけど、ドキュメントにしたい」という思いがあります。主演の大澤数人の役どころは、売れない役者。その彼が"カルト集団から旅館を守る"というミッションの中心メンバーに選ばれます。大役をまかされ、猛烈なプレッシャーを受ける彼の姿は、現実世界の大澤数人の姿と重なります。『スペシャルアクターズ』は架空の世界の物語だが、生身の人間のドキュメントでもある。フィクションとドキュメントは両立できるのです。



この15人を選んだ理由は、「この人と一緒に働きたい」という衝動によるところが大きいですね。あとは、チーム全体のバランス。スポーツがフォワードの力だけでは勝てないように、映画も突出した個性の持ち主だけではいいものができません。男女、年齢、演技の幅、主役向きの人、それを支える人……。あと、現場のムードメーカーになれる人も選びました。

仕事ができる人には、2種類あります。ひとつは、文字通り、仕事ができる人。レスポンスが速く、期待した以上のことをやってくれる。もうひとつは、期待値への到達という点ではそれほど仕事ができないが、その人がいることで現場が明るくなり、和やかなムードを作ってくれる人。そうした人も、仕事ができるといえるのではないでしょうか。

『スペシャルアクターズ』のムードメーカーですか? うーん、メンタルクリニックの先生役を務めた原野拓巳かなあ。現場での気遣いにすぐれ、ほかの出演者に囲まれて相談を受けたりしていましたから。

伝えたいことは「背中で見せる」

15人のキャストが揃い、みんなに台本の初稿を渡す予定日になっても、台本はできていませんでした。僕は率直に「一緒に考えてほしい」と言いました。キャストたちからアイデアを募り、会話を重ねました。いろんなアイデアが出てきましたね。大澤数人から「貧乏な設定にしたい」とか、北浦愛からは「金髪にしたい」とか。そういう細かいところも、キャラクターの肉付けには重要なんです。

映画をやっている人の間では、よく「キャラクターと物語のどっちが大事か」という議論が交わされます。僕は、物語の骨があれば、あとはキャラクターが展開を作っていくと思っています。物語を細かく作り過ぎると、物語のためにキャラクターが動かされるという感じになる。でも、キャラクターに命が吹き込まれれば、キャラ自身が勝手に動いていきます。



現場では、垣根を作らないことを意識していますね。役割分担はしますが、その役割の垣根を超えていくことが大切です。本当にいいものを作りたいと思ったら、垣根なんて関係ないでしょう。「時間がないなら、それ、こっちでやるよ」とか、そんな会話が自然と出てくるものです。映画づくりは、ある意味、仕事ではない。仕事としてやってしまうと、「それは、うちの部署の担当じゃないんで…」というふうになってしまいます。

みんなに頑張ってもらうためには、背中で見せるしかありません。フットワークを軽く、垣根を飛び越えて、チケットの販売や宣伝にも奔走する。リーダーとして走り続けるだけなんです。その姿を見て、みんなが「私も!」って思ってくれればそれでいい。部下に「お前、なんで仕事しないんだ」と言っている上司は、その時点でダメだと思います。部下が働かないのは、自分の責任でもあるのです。

いま考えているのは、一人でも多くの方に映画を見てもらうこと。そのために、馬車馬のように全力で駆け巡ります。遠い将来に向かって努力するより、目の前のことに集中する。これは、僕自身が失敗を通して得た教訓でもあります。ぼやけた未来の夢を見過ぎると、マルチ商法に引っかかってしまいます(笑)。

『スペシャル アクターズ』
監督・脚本・編集・宣伝プロデューサ:上田慎一郎 
出演:大澤数人 河野宏紀ほか
2019年10月18日より全国ロードショー

Shinichiro Ueda
1984年滋賀県生まれ。中学生の頃から自主映画を制作し、高校卒業後も独学で映画を学ぶ。2009年、映画製作団体PANPOKOPINAを結成。国内外の映画祭で20のグランプリを含む46冠を獲得。’15年、オムニバス映画『4/猫』の1 編『猫まんま』の監督で商業デビュー。

劇場長編デビュー作『カメラを止めるな!』は動員数220万人以上、興行収入31億円を突破し、’18年の最大の話題作に。主な監督作は短編映画『ナポリタン』、『テイク8』、『Last WeddingDress』、『彼女の告白ランキング』、『ハートにコブラツイスト』、『恋する小説家』、長編映画『お米とおっぱい。』、『イソップの思うツボ』(中泉裕矢、浅沼直也との共同監督作)。

Text=川岸 徹 Photograph=鈴木規仁

あわせて読みたい

「上田慎一郎」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    日本がマスク支援 中国で大反響

    木走正水(きばしりまさみず)

  2. 2

    番組担当者が自殺 MXTVの無責任

    渡邉裕二

  3. 3

    武漢で4万人宴会 感染否定に疑問

    団藤保晴

  4. 4

    米の北戦略「ソウル防衛捨てた」

    文春オンライン

  5. 5

    「共産市長NO」はヘイトではない

    早川忠孝

  6. 6

    カジノ誘致で米中に蜜吸わせるな

    毒蝮三太夫

  7. 7

    東出の不倫めぐる「稚拙なミス」

    藤沢数希

  8. 8

    実名報道 想像力乏しい記者たち

    dragoner

  9. 9

    邦人帰国のチャーター機派遣延期

    ロイター

  10. 10

    杉田議員の「エア電話」率は80%?

    AbemaTIMES

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。