記事

なぜ中国政府は香港を「武力」で鎮圧しないのか

2/2

■香港は大陸企業に国際資本を供給する資金のプール

昨年には次のようなうわさが流された。米国政府は中国企業のニューヨーク証券取引所での新規公開株(IPO)を禁止する構えであり、中国企業が全世界から資本を獲得するパイプを遮断しようとしている。

世界に目を向けると、欧米の証券取引センターであるニューヨーク、シカゴ、ロンドンの3巨頭と競うことができるのは、東アジアの香港、東京、シンガポールだけである。しかも香港金融システムの中核をなすのは香港交易および決算所有限公司(香港証券取引所、Hong Kong Exchanges and Clearing Limited)であり、後者の略称は港交所(HKEx)である。

企業がどの取引所で上場し、資金をいくら調達するか、これはその取引所の市場間の競争力を反映する。IPOで調達した資金総額では、港交所は過去10年の間に6年も世界一となった。2018年、港交所での新規公開企業は218社、調達総額は2880億香港ドル(約3兆9567億円)で、世界IPO市場では、並ぶもののないトップであった。

中国最大のインターネット企業である騰訊(テンセント)は、株式を香港市場に上場した。2018年には、小米、美団、映客、海底撈、中国鉄塔等の中国内地企業がこぞって香港で上場し、港交所で8社が同時にドラを打ち鳴らす盛況ぶりだった。おかげで、現場でドラが足りず、カメラマンが足りず、記者が足りないほどだった。

なぜ港交所はこれほど大きなパワーを発揮しているのか?

香港は国際的なビジネスセンターであり、国際的なプロジェクトが組成される中枢都市であるからだ。外資から見て、香港の金融システムは中国大陸市場に参入する際に最も重要で、最も信頼できるプラットフォームである。これは中国大陸の目と鼻の先に資金プール(=香港)があり、大陸企業に汲めども尽きずに提供される良質な国際資本があることを意味している。

中米貿易戦争はきっと多くの優秀な企業にダメージを与えるだろうが、これらの優秀な企業は香港というパイプを通して国際資本を獲得することができる。

■香港は大陸が最先端の技術・知識を吸収する窓口

米国は貿易戦争の対象を次第に他の分野にも広げている。最もひどい手は科技、教育等の分野での中国を封じ込めることである。最近、米国は中国からの留学生と訪問学者に対する制限政策を取り、さらにハイテク企業に対する規制を強化している。こうした場合にこそ、香港の国際自由港の地位はより重要になる。もし米国側が全面制裁に踏み切った場合に、香港は大陸側と密接な関係のある唯一の国際都市となる。

香港の大学は世界的に名が知られ、香港大学、香港中文大学、香港科技大学、香港城市大学、香港理工大学等は文学、歴史学、哲学、数学、物理学、化学はもちろん、コンピューターや人工知能の研究水準は世界最高レベルである。

香港はだれにも邪魔されずに国際学術交流に参加し、全世界の最新科技を吸収できる。いかなる状況下でも、封鎖されても、大陸は絶えず学生を香港に派遣して学習させ、また香港から各種の人材を吸収することができる。

同時に、先端科技の導入について、大陸は香港で登記されている第三国企業から目的を達成することができる。

中米貿易戦争の影響で、先進国からの有形、無形を問わず、希少な経営資源を直接手に入れるルートは縮小しているが、香港という「飛び地」は大陸の足らざる部分を補ってくれる。

■香港は人民元国際化の先兵役

世界の経済大国の通貨は当然、全世界で通用する世界通貨である。自国の通貨が世界通貨になるということは、印刷された自国貨幣で、外国製品やサービスを直接購入でき、米ドルを使わずに、直接、外国の国際企業と取引でき、米国の監督・管理システムを回避できることを意味している。

中国が世界の大国になるためには、人民元の国際化の助けが欠かせないのである。もともと自国通貨を国際化することは非常に難しく、決して国外に銀行を開設して元を売買しやすくするぐらいでは実現しない。元が国際化するには、誰かがあえて元を支払いに使い、誰かがそれを受け取る、つまり決済通貨として使われるようになって初めて成り立つのである。それではどのようにして、企業や投資家に元を使ってもらうようにするのか。

2004年、中国大陸は香港を人民元国際化の「橋頭堡」にすべく、香港で人民元オフショアセンターの建設を試みた。2007年、初の人民元債券が香港で発行された。また2009年、クロスボーダー元決済が香港で試験的に行われた。中国財政部(財政省)が香港で元国債を発行。2010年、クロスボーダー元決済を簡素化。2014年、「滬港通(上海・香港ストック・コネクト)」が始まり、実際に上海(中国大陸)と香港の株式を自由に買うことができるようになった。

香港の金融機関が次々に人民元業務に着手し、ここ数年はますます多くの銀行窓口、現金自動預け払い機(ATM)が元サービスを提供するようになり、元は香港を通じて大量に海外に流れている。今日の香港は元を完全に兌換できる国際通貨に換える集散センターの役割を担っている。トランプ政権が中国の銀行に対して、直接、名指しでコントロールを強化し始めた状況下で、香港は元の国際決済センターとして大きな存在意義を持っている。

■香港のもたらす「物」と「マネー」は中国大陸に欠かせない

香港は自由貿易港として物(貿易)の面でも、マネー(金融)の面でも、中国大陸にとってプラスとなる特別な役割を果たしている。もし、直接間接を問わず中国大陸側が武力を行使して、事態を収束させた場合、香港を含む中国政府に対して、さまざまな経済制裁が科される恐れがある。

そうなると中国経済に与えるマイナスの影響は計り知れない。中国政府が強硬策を採らないのは、このことを理解しているからだ。それは一方で、事態の収拾まで、まだ時間を要することを意味している。

----------
陳 言(ちん・げん)
在北京ジャーナリスト
1960年、中国・北京生まれ。82年南京大学卒業。「経済日報」勤務を経て、89年より日本へ留学。1998年年慶應義塾大学経済学研究科博士課程修了。萩国際大学教授を経て2003年に帰国。月刊「経済」主筆を務める。2010年から北京で日本企業研究院を設立、執行院長。2019年1月から月刊『人民中国』副総編集長。
----------

(在北京ジャーナリスト 陳 言)

あわせて読みたい

「香港デモ」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    安倍嫌いでも協力を 医師が訴え

    中村ゆきつぐ

  2. 2

    反権力は正義か マスコミに疑問

    BLOGOS編集部

  3. 3

    満員電車ゼロ 小池知事は今やれ

    藤田孝典

  4. 4

    タバコで新型コロナ重篤化の恐れ

    BLOGOS編集部

  5. 5

    現金給付案に自民議員からも批判

    山田賢司

  6. 6

    日本の補償は本当に「渋チン」か

    城繁幸

  7. 7

    キスも…慶応研修医の集団感染

    文春オンライン

  8. 8

    コロナ患者かかった病院実名公開

    PRESIDENT Online

  9. 9

    橋下氏 感染数より死亡数を見よ

    PRESIDENT Online

  10. 10

    東京の緊急事態対応は「まとも」

    木曽崇

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。