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台風で泥に覆われた埼玉 自宅に戻った住民たちの悲痛な声 - Wedge編集部

 日本列島を襲った台風19号は、各地で河川の堤防を決壊させ、甚大な被害を及ぼした。埼玉県では、東松山市や川越市で広い範囲の浸水が起きた。排水が終わり、避難所から帰ってきた住民たちは家の中に入った泥のかき出しや汚れた家財の運び出しに追われている。想定を超える被害の大きさに戸惑いを隠せない。

堤防決壊で広い範囲で浸水が起きた埼玉県東松山市

2階の高さまで浸水した東松山

 都心から車で1時間ほど、東武東上線高坂駅から東に1・5キロほどの場所にある埼玉県東松山市早俣地区。都幾川と越辺川、九十九川の合流部が近くなると、その風景は一変する。道は一面泥だらけ、道路脇にある草花も茶色に覆われる。道を歩くと、泥がぬかるみ、気を付けないと足場をとられる。堤防決壊により、辺り一帯が水浸しになった地域だ。数キロ手前では、道路で車が走り、飲食店や小売店が営業する〝普段通りの生活〟が繰り広げられており、浸水した地域との差は歴然だ。

 「一時は建物の2階辺りまで水がきていた」。住民の男性は振り返る。

 東松山市では、台風が上陸した12日午前4時6分に大雨警報、午前7時24分に洪水警報が発令された。午後2時45分に同地区で避難勧告が出された。ほとんどの地域住民は、この日のうちに避難する。地区の消防団員が逃げ遅れた人がいないかも見て回っていたという。

 台風から一夜明けた13日午前7時15分、同地区近くの都幾川の右岸堤防が100メートルにわたって決壊。約1.6平方キロメートルにわたって浸水が起きた。住宅が水の中という信じられない事態で、12日は自宅2階へ逃げていた人も、ボートで続々と救助された。

軽自動車は屋根の上にまで泥をかぶり、被害の大きさを物語る

 「この一帯は田んぼなど自然の遊水池なので、昔からひざ下あたりまで水がきたことはあったが、ここまで高い位置まで浸水したのはなかった」と、この地区で自動車整備工場を30年以上営む男性(63歳)は驚きを隠せない。自宅1階部分と作業場にしていたガレージはともに水浸しに。自動車整備に使う機械や道具はすべて壊れてしまった。「いつ仕事が再開できるかわからない。まずは片付けてみないと」と肩を落とす。

 都幾川の堤防沿いに住む内田早苗さん(44歳)宅は、2階へ行く階段の上から5段目までが水にどっぷりつかった。12日は、高台にある友人宅に避難し、台風が過ぎ去った13日朝に、車で帰ろうとしても、通行止めになっていた。まだ水が引いていなかった。昼過ぎにもう一度行くも、状況は変わらない。夕方に、近くのスーパーマーケット駐車場に車を止めて、歩いて自宅へ行った。

 1階にあった電化製品や家具はすべて使い物にならない状態。電気も通らない日々だ。今は2階で懐中電灯に明かりを灯しながら、パンなど簡単に食べられるもので寝泊りしている。「ボランティアの方々に片づけを手伝ってもらっているけど、先が見えない。今後の生活もどうなるのか」と声を詰まらせる。15年ほど前に建てた自宅でまた生活できる見通しはたっていない。

台風予報で備えるも…

 東松山市から南へ車を走らせること約30分。再び風景が一変し、道路が泥で覆われ始める。越辺川の堤防が約70メートルにわたって決壊し、約19平方キロメートルが浸水した川越市だ。この地域もすでに排水は終わっており、住民らは泥まみれになった畳や、水につかり動かなくなった電子レンジを悲痛な面持ちで運び出す。中には、写真やアルバムといった思い出の品を庭に干す家庭もあった。

道端の草木は、浸水があった高さまで泥がついている

 浸水した地区に56年前に越してきた女性は「川近くの田んぼは浸水することがよくあったので、自宅にいた。大きな氾濫だったから、13日の昼間に避難しようとしたが、同じように避難所へ行く車の渋滞で避難できなかった」と想定外の状況を振り返る。

 風水害は住民の予想をはるかに超えるもので、多くの人の〝備え〟が利かなかった。同地区の町工場では、浸水に備え、機械を台に乗せるなどしてかさ上げをしていた。しかし、氾濫した川からの水はそれを上回る高さに達した。「ほとんどの機器が沈んでしまい、もう使えない。取り換えるには、1億円以上かかってしまうだろう」と町工場の社長である男性は嘆く。工場は休業せざるを得ず、再開には1カ月以上を要する見込みだ。

被害を受けた巣箱を片付ける横山さん

 浸水した畑で養蜂業を営む横山恵次さん(75歳)は、強い雨風に飛ばされないように、巣箱をいつもより頑丈に固定していた。水はけが悪く、強い雨の時は1メートルほどの高さまで水がたまる土地のため、巣箱は普段からコンテナの上という高い位置に置いていた。それでも、9つの巣箱のうち、6つが流されてしまった。

「テレビの航空映像で見たら、4メートルある屋根が見えなくなっていた。おそらくひっくり返されてしまったのだろう」と横山さんは話す。流されなかった巣箱も、蓋を閉めていたため、ハチが出られず、水没。中には水がたまり、多くの死骸が箱にへばりつく。それぞれの巣箱には、6000~7000匹の蜂が入っていた。「かわいそうなことをしたな」と声を落とす。

 「養蜂用に借りられる場所も限られているので、こうした災害はしょうがない。でも、できるなら川に近いところには置きたくないね」と悔しさをにじませる。

 避難に加え、事前に考えられる対策を行うものの、それを上回る規模で襲い掛かった台風19号。その爪痕の大きさは、脇目もふらず泥の排出に追われる住民の姿に表れている。

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