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なぜ新聞は特別扱い? 軽減税率適用に新聞社内部からも疑問の声

消費税率が8%から10%に引き上げられてから、2週間余りが過ぎた。酒類・外食を除く飲食料品を主な対象に、一部の商品について税率を8%に据え置く「軽減税率」も初めて導入され、これに新聞が含まれたことに現在も批判の声が上がっている。

日本新聞協会は2013年1月15日の声明で軽減税率に触れ、「今後も国民がより少ない負担で、全国どこでも多様な新聞を容易に購読できる環境を維持していくことは、民主主義と文化の健全な発展に不可欠」とした。新聞の発行部数が年々減少する中、増税により購読料金が値上がりすれば購読契約の解約が相次ぎ、部数減に拍車がかかることを懸念したとみられる。

インターネット上を中心にマスコミ批判が根強い一方、新聞をはじめとする報道機関がジャーナリズムの役割を担ってきた側面は確かだ。だが、新聞業界が政府に対して軽減税率適用をいわば“お願い”して、それが叶った経緯を踏まえれば、権力の監視の役割が形骸化しないかとの疑問は否めない。事実、現場の記者からもそんな声が漏れる。

軽減税率の導入後、駅売店やコンビニで新聞を購入すれば税率10%がかかるものの、宅配される新聞は8%にとどめられた=Getty Images

「取材が難しくなる可能性も」 政府や省庁に見せた弱み

「新聞だけが特別扱いされたことに、違和感を持たれるのは当然だ。まだ取材現場での実感はないが、最悪のケースでは『軽減税率を適用してもらった』という後ろめたさから、政府や省庁などへの取材で一歩引かざるを得ないシチュエーションも出てくるかもしれない。となれば、軽減税率と引き換えに、新聞社が失うものは大きい」

そう語るのは、全国紙東京本社政治部の記者(30代)。軽減税率を適用してもらった“恩”から、政府や省庁を追及する記事はおろか、取材さえも難しくなるかもしれないと危機感を募らせる。この記者は批判的な記事が書けなくなる可能性にすら言及した。

新聞への軽減税率適用をめぐっては、日本新聞協会の下で各社が適用を求める方向で足並みをそろえてきた経緯がある。背景には、消費増税が部数減の引き金となることへの警戒心があった。

読売「新聞は民主主義を支える社会基盤」

各社の軽減税率への姿勢を見回してみると、適用を求める立場を最も鮮明に打ち出したのは読売新聞だ。15年12月13日付朝刊・社説で新聞への軽減税率適用を主張したのに続いて、4日後の朝刊・社説で次のように記した。

国民に幅広い情報や意見を提供する新聞は、民主主義や活字文化を支える社会基盤と言える。 自公両党は、新聞の公益性を重視し、「知識課税」をできるだけ抑制することにした。 新聞社は、その意義を十分自覚し、報道・言論機関としての責務を果たすことが求められよう。

対して、朝日新聞はややトーンが下がる。15年12月13日付朝刊・社説を引用する。

私たち報道機関も、新聞が「日常生活に欠かせない」と位置づけられたことを重く受け止めねばならない。 社説では、軽減税率について、消費税率が10%を超えた時の検討課題にするよう提案してきた。日本の深刻な財政難を踏まえ、高齢化などで膨らみ続ける社会保障の財源の柱として、消費税の税収を有効に活用するべきだとの判断だった。 しかし、10%の段階で新聞も適用対象になった。社会が報道機関に求める使命を強く自覚したい。

毎日新聞は15年12月19日付朝刊・社説で、「権力におもねらず、多様な視点や価値観、論点を提供し、社会が極端な方向に流れるのを抑制する」ことを新聞の重要な役割とした上で、当時・学習院大学法学部の紙谷雅子教授(英米法)の次のような説明を紹介した。

新聞や書籍類の役割について「文化を維持し民主主義が健全に機能するために不可欠だ」とした上で、「新聞や出版物が安価に読める状況は必要である」と軽減税率の対象にする必要性を指摘した。

新聞は生活必需品? 「多くの人は納得しないはず」

こうした各社の姿勢に疑問を示すのが、別の全国紙東京本社政治部の記者(30代)だ。次のように語る。

「軽減税率が適用されれば、権力におもねる事態が生まれかねない。新聞社は販売と、広告、編集などが独立してほとんど交わらないこともあり、その点について、新聞社として議論を尽くしたのかどうかが内部にいても見えてこない」

と指摘した上で、危機感を漏らした。

「軽減税率の導入について、国民が本当はどう感じているかが最も恐ろしい。今回は、新聞業界と政府が『新聞=生活必需品』としてしまうことで、うまく軽減税率を適用する方向に丸め込んだ。これについて社会はどう受け止めているのかについて考えてみると、納得できる人が少ないことは間違いない」

「増税で値上げする選択のほうがましだった」

全国紙大阪本社社会部の記者(30代)はマスコミへの批判を踏まえ、次のように話す。

「ネット社会が普及するのに合わせて、新聞社は自分たちの役割や将来像をしっかりと見直す時期に来ている。現場では、ほとんどの記者が自らの使命を自分なりに考えて働いているが、ネット社会ではそれが伝わりにくい。それは会社がしっかりと新聞報道の価値や役割について、建前ではなく本音で外部に発信できていないからではないか。

今回の軽減税率の適用は、個人的には反対だ。広告費もかつてに比べて大きく落ち込んでいる中、読者離れは経営には厳しい話だが、保身のために政府にすり寄るよりは値段が上がったほうがましだ。軽減税率を受けないことで、新聞社の覚悟を伝える絶好のチャンスだったと思う」


紙の発行部数は減少の一途 期待のデジタル版は10%適用

新聞の発行部数の減少に歯止めがかかる気配はない。日本新聞協会によると、2018年の発行部数(以下、いずれも同年10月時点)は3990万1576部で、前年の4212万8189部から約222万部減少した。

10年前の08年(5149万1409部)との比較では、1158万9833部の減少となり、規模としては、かつては“公称1000万部”を誇った読売新聞の発行部数がまるまる無くなったことになる。

今回の軽減税率では、駅売店やコンビニで販売される紙の新聞、デジタル版の新聞は適用外とされ、税率は10%となった。適用の条件が「定期購読契約を結び週2回以上発行する新聞」とされたためで、デジタル化を進める新聞社の方針とは真逆の方向となった。

東北地方の地方紙の記者(40代)は次のように語る。

「大前提として、紙面の独立性を守る観点でも、新聞社の経営は外部の影響を受けないことが望ましい。それは消費税の影響についても同じで、増税による読者離れを想定した上で成り立つ経営が維持されていることが理想だ。そうしたことが部数減で難しい中、デジタル化は新聞社の数少ない生きる道だ。

特に、地方紙は紙では購読エリアが限られるのに対して、デジタル化によって記事ごとの販売などを進めれば、販路は少なくとも日本全国に拡大する。会社には、今回の軽減税率適用をきっかけとして、大胆に紙に見切りをつけるフェーズととらえてほしい」

“社会のため”取材コストは膨大 軽減税率適用は背に腹変えられず

新聞社の経営難が伝えられる中、軽減税率適用を好意的に受け止める記者も少なくない。全国紙東京本社社会部の記者(30代)は、今回の台風19号の報道を引き合いに次のように語った。

「なぜ台風被害の取材を進めるかと言えば、現地の情報を正確に把握し、被災した人のニーズを社会に伝えるため。そのためには膨大なコストがかかる上、長年のノウハウが蓄積されている報道機関は残らねばならないと考えている。

今ではマスコミへの風当たりが強まったが、記者一人一人の「世の中のため」との思いは全く変わっていない。そのためには記者の人員確保が必要で、十分な取材経費も必要。購読料はその支えであり、経営環境の厳しさが増す中で軽減税率を適用することも背に腹を変えられないという思いがある。軽減税率で報道機関のそもそもの役割が果たせなくなる事態は本末転倒だが、その心配は当たらないと思う」

ニュースへの接し方は紙からネットへと様変わりしている=Getty Images

ネットと新聞の乖離が軽減税率を機に浮き彫りに

日本新聞協会は今月1日、軽減税率の適用が始まったことを受け、見解を表明した。全文を引用する。

本日から消費税率が10%に上がるとともに、週2回以上の発行で定期購読される新聞に8%の軽減税率が適用されることになりました。私たちは報道・言論により民主主義を支え、国民に知識・教養を広く伝える公共財としての新聞の役割が認められたと受け止めています。この期待に応えられるよう、責務を果たしていきます。

民主主義の主役である国民が正しい判断を下すには、信頼できる情報を手軽に入手できる環境が必要です。私たちはそう考え、新聞の購読料への課税を最小限にするよう求めてきました。

最近では、不確かでゆがめられたフェイクニュースがインターネットを通じて拡散し、世論に影響するようになっています。そうした中で、しっかりとした取材に基づく新聞の正確な記事と責任ある論評の意義は一段と大きくなっています。学習指導要領にうたわれているように、学力の基礎となる読解力の育成にも新聞は生かされています。

「知識に課税しない」という考えが定着する欧州各国では、新聞、書籍、雑誌の税率を軽減またはゼロにしています。電子新聞に適用する国も相次いでいます。私たちは軽減税率の対象が欧州と同等に拡大されるように、今後も求めていきます。

SNSで誰もが広く情報を発信できる時代だ。インターネット上を見回すと、マスコミ批判の意見が渦巻いている。ただ、ネット上の議論を見ていても、その多くが報道機関による情報をもとにしていることが多く、報道機関がなければそんな議論も成り立たない。

新聞社内で最も取材現場に近い20、30代の記者は、新聞社幹部や経営陣が想像する以上にネットに触れており、マスコミへの批判に戸惑いつつも日々の取材に精進している。新聞協会の見解にある「不確かでゆがめられたフェイクニュースがインターネットを通じて拡散」の言葉に代表されるように、新聞業界はネットの負の側面ばかりを強調しているようにも感じる。

今回の軽減税率をめぐる一件はネットと新聞業界の見解の乖離が目立った代表例だ。新聞社が「新聞の公益性」といったこれまでの持論に終始するばかりで、社会の広い意見を踏まえた本音で自らの役割を語ることがなければ、新聞の役割に期待を寄せてきた読者も減少するばかりではないか。

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