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明治大学海野教授も驚いた下品極まりないトランプの攻撃 - 海野素央 (明治大学教授、心理学博士)

今回のテーマは「オバマのけつにキスをしたバイデン?」です。ドナルド・トランプ米大統領は野党民主党が弾劾調査に着手してから初の支持者集会を10日、中西部ミネソタ州ミネアポリスで開催しました。トランプ大統領の政敵ジョー・バイデン前大統領と次男ハンター氏に関する発言に注目が集まりました。そこで本稿では、同大統領のバイデン親子を痛烈に批判した演説を中心に述べます。

(REUTERS/AFLO)

隠された通話記録?

トランプ大統領はウクライナ政府に圧力をかけてバイデン親子の汚職調査を要請した疑惑、いわゆる「ウクライナ疑惑」について集会で、同国のウォロディミル・ゼレンスキー大統領との通話記録を公開したと強調して、「透明性」をアピールしました。ゼレンスキー氏との会話は「快適で完璧な会話であった」と繰り返し述べ、圧力を8回かけてバイデン親子に関する汚職調査を要求しなかったと言い切りました。 

それに対して、米メディアは30分間の電話会談の中で「トランプ大統領がゼレンスキー大統領に圧力を8回かけた」と報じていますが、通話記録の中にはその場面が記述されていません。

そこで、公開された通話記録が完璧なものか否かを検証するために、筆者がゼレンスキー大統領、職場の米国人教員がトランプ大統領の役を演じながら記録を読んで、時間を計ってみました。結果は12分34秒でした。

つまり公開された通話記録には、約17分30秒の会話内容が記録されていないということになります。その中に核心部分であるトランプ大統領のゼレンスキー大統領に対する8回にわたる圧力の場面が隠されているのかもしれません。いずれにしても透明性があるとは到底言えません。

集中攻撃と思考連鎖

トランプ大統領はミネアポリスでの支持者を集めた集会で、バイデン親子を集中攻撃しました。演説の開始後、約24分が経過した時点で、「ハンター、ハンター」とハンター氏の名前を繰り返し呼びました。父親のバイデン氏がオバマ政権の副大統領のときに、「ハンターは中国から15億ドル(約1600億円)を受け取った」と主張しました。その上で、公の場に姿を現さないハンター氏に関して、「ハンターよ、出てこい」と印刷されたTシャツが欲しいと支持者に訴えました。

結局トランプ大統領は約3分間に、なんと18回も「ハンター」と呼び、3回「15億ドル」に言及しました。その狙いは、どこにあるのでしょうか。

率直に言ってしまえば、「バイデン → ハンター → 15億ドル」という思考の連鎖反応を狙ったものです。この否定的な思考連鎖の刷り込みに成功すれば、投票の際、バイデン前副大統領に不利に働くからです。

下品極まりないトランプの攻撃

さらにトランプ大統領は集会で、支持者に向かって「バイデンはオバマのけつにキスをするやり方を理解している」と語気を強めて語りました。「バイデンはオバマのけつにキスをしてまで媚びへつらう」というメッセージを発信したのです。

その瞬間、会場は爆笑の渦に巻かれました。トランプ氏の真後ろで、赤色のTシャツを着用して演説を聞いていた白人女性は一瞬、口を大きく開けて驚いた表情を浮かべ、その後(口を)両手で抑える様子がビデオで確認できます。

米大統領が演説で「kiss one’s ass(~のけつにキスをする)」という表現を使用したのです。トランプ大統領は30秒以上も拍手喝采を浴びました。

余談ですが、例えば「バイデンはオバマの手の甲にキスをしている」と言えば、かなり柔らかい表現になったはずです。ある米下院議員に安倍晋三総理とトランプ大統領の関係について感想を求めると、「安倍総理はトランプ大統領の手の甲にキスをしています」と回答しました。

ちなみに、「brown nose(ご機嫌取り)」は、「相手のけつにキスをしてでも媚びへつらう」という意味です。相手のけつにキスをすれば、鼻が茶色くなるからです。なぜ茶色になるかは、読者の皆さんの豊かな想像力に任せましょう。

本論に戻ります。筆者はトランプ大統領の上の発言を日本でライブで聞いたとき、即座にマイク・ポンぺオ国務長官を思い浮かべました。ポンぺオ氏はトランプ政権発足後、米中央情報局(CIA)長官を務めた後、国務長官に任命され、側近中の側近としてサバイブしています。スティーブン・ムニューシン財務長官も生き残り組です。

おそらく、トランプ政権では同大統領のご機嫌取りをしないと生き延びることができないのでしょう。ジョン・ボルトン前大統領補佐官(国家安全保障問題担当)及びジェームズ・マティス前国防長官は信念を曲げなかったので、解任ないし辞任に追い込まれました。

トランプ大統領は演説の中で、バイデン前副大統領が金正恩朝鮮労働党委員長及び習近平国家主席と交渉をしたらどうなるのかと、支持者に問いかけました。息子のハンター氏が中国から15億ドルを受け取ったので、父親のバイデン氏は中国に対して厳しい交渉がきないというのがトランプ氏の見解です。同氏はハンター氏が中国と不正なビジネスを行った証拠を示していませんが、反中国の感情が強い支持者を盛り上げるには好材料であることは確かです。

米国人はどうみているのか?

米公共テレビ、公共放送及びマリスト大学(東部ニューヨーク州)の共同世論調査(10月3-8日実施)によれば、民主党主導の弾劾捜査に対する支持は52%で、9月の同調査と比較すると3ポイント増えました。一方、不支持は43%で3ポイント減っています。世論は民主党に傾き始めました。

「大統領が外国のリーダーに潜在的な政敵を調査するように要請することは容認できると思うか」という質問に対して、約7割が「容認できない」と回答しました。トランプ大統領の支持基盤である高卒の白人男性も52%が「容認できない」と答えています。外国政府による選挙介入に関しては、支持者も厳しい目を向けていることが分かります。

さらにトランプ大統領とゼレンスキー大統領との電話会談について、約3割がトランプ氏が「国益を重視した」と捉えているに対して、約6割が「再選のための自己の利益を重視した」とみています。こちらも同氏にとって否定的な結果が出ています。

ただし、トランプ大統領の将来は37%が「弾劾で決まるべき」と回答したのに対して、58%が「選挙で決まるべき」と答えており、有権者は弾劾よりも選挙に重点を置いています。この点は同大統領にとって良いニュースといえます。

新たな動作と取引の可能性

トランプ大統領は支持者を集めた集会で、バイデン親子及び民主党主導の弾劾調査について語るとき、これまでにない動作をするようになりました。演台を右手で叩くのです。その音がマイクに入ります。米国史上3人目の弾劾訴追された大統領になる可能性が高いトランプ氏は、罷免を免れようと必死になって支持者を鼓舞しています。

トランプ大統領は弾劾訴追権のある下院で弾劾決議が成立しても、弾劾裁判権のある上院で罷免が否決され、再選を果たせば汚名を返上できるかもしれません。このシナリオを実現するには、民主党候補指名争いの段階でバイデン氏を引きずり下ろし、組し易いエリザベス・ウォーレン上院議員(民主党・東部マサチューセッツ州)と対戦する必要があります。あるいは、バイデン氏をかなり傷つけ弱らせてから本選で同氏と勝負する戦略もあり得ます。

ウクライナに加えて、トランプ大統領はバイデン親子に関する汚職調査を中国にも要請することを検討すると、ホワイトハウス記者団に語りました。「調査するかしないかは、中国次第だ」とも述べました。

今回の米中通商合意は、中国が米国産農産物購入を拡大する代わりに、米国は15日に発動予定であった中国からの輸入製品への追加関税を見送るというものです。「第1段階」の通商合意に達したと発表したトランプ大統領は、ホワイトハウス記者団からの質問に対して「中国(の劉鶴副首相)との会談でジョー・バイデンについて話し合わなかった」と答えました。

しかしトランプ氏ならば、中国によるバイデン親子の汚職調査の見返りに、中国との「第1段階」の通商合意があったとしてもまったく不思議ではありません。あるいは、バイデン親子の調査と「第2段階」の通商合意との取引も可能です。

トランプ大統領の「柔軟性のある取引」とは、正にこのような取引を指しているのでしょう。いずれにしても、罷免を回避し、再選を果たすために、トランプ大統領はありとあらゆる手段を講じることだけは間違いありません。

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