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「ワシの球速は180km」400勝投手の金田正一さんにあっぱれ

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イラスト&題字 まんしゅうきつこ

400勝投手の「カネやん」こと金田正一氏が亡くなりましたね。私が編集を担当するNEWSポストセブンには金田氏の記事が多数ありますが、「ワシの球速は180km」と言ったり、「200kmだったかな」と後に言うなど、愛嬌がありつつも、豪放磊落な方でした。

共同通信社

金田正一「ワシが全盛期に渡米してれば年俸30億はくだらん」
という記事のこの発言も最高です。

「それから先にいっておくが、現役時代のワシをダルビッシュ有や田中将大と比べてもらいたくはないね。失礼だ。まず球が違うよ。私の球こそがプロフェッショナルです」

「全盛期のワシが向こうに行けば、ストレートだけで勝負して、年俸30億はくだらんよ」

こうした発言に対しては「現代の野球の方が進化しているからあり得ない」式の反論がネットでは多数出てきます。でも、いいんですよ。金田氏の実績は間違いなくあるワケだし、昔の偉人というものは大きく書かれるものです。三国志演義に登場する関羽なんて、身長約210cmですし、呂布だって230cm。当時の中国人がそんなに大きいワケないでしょうよ!

しかも、関羽の青龍偃月刀は82斤で、同作が書かれた後漢時代の基準では約50kg。こんな重いもんを振り回して雑兵をバッタバタとなぎ倒し、華雄、顔良、文醜ら猛将を一刀のもとに殺してしまう。そんなもん何時間も持っていられないし、馬が疲弊するでしょうよ! でも、これでいいのです。関羽も愛馬・赤兎馬も規格外なのです。

共同通信社

「180km」にしても、スピードガンがない時代の自己申告の球速なのですし、金田氏のような一流の投手が現代の160kmの球を見て「ワシの方が速いな」と感じた末での「180km」発言なのでしょう。沢村栄治だって「210km出ていた」なんて言われても検証のしようがないので、伝説は伝説としてそれを楽しめば良いのです。

毎回金田氏の記事を出した後にネットの反応を見ていましたが、大笑いする人もいれば、真面目に怒る人もいれば、「はいはい、おじいちゃん、お薬出しておきましょうね」と呆れる人もいました。時には「カネやんの実績は文句なしだが、さすがに今のマー君やダルの方が上だろう」みたいな冷静な分析をする人もいました。

なんというか……、愛嬌がある上に「無双」過ぎるんですよね。金田氏の記事や『サンデーモーニング』(TBS系)のスポーツコーナー「週刊御意見番」に「助っ人」として登場しても、自由奔放過ぎてもう苦笑するしかなくなるような方でした。私の記憶が正しければ、2013年、川上哲治氏が亡くなった時に、同氏をよく知る人物としてカネやんが登場したのですが、故人そっちのけで楽しそうに自分の話ばかりし、さすがのハリーこと張本勲氏もちょっとバツが悪そうにしていましたし、司会の関口宏氏も苦笑せざるを得なかったです。

「全日警」のCMでは野球の試合で勝った少年が家に帰ってきて「勝ったよ!」と元気に言ったらカネやんは「よっしゃ! よくやったな!」と「あっぱれ」を入れる。しかし、このCMに登場する人々の構成がなんだかよく分からない。小学校高学年の少年と中学年の妹、母親がいるのですが、もう一人の登場人物がカネやんなんですよ。この兄妹はカネやんの息子と娘なのだろうか……。あるいは孫であり、母親と父親は離婚して今はカネやんの家に娘(母親のこと)は子供達を連れて出戻ってきたのだろうか……なんて余計な想像をしてしまうのです。そんなカネやんが亡くなってしまった。謹んでご冥福をお祈りいたします。

今回、カネやんが亡くなった後、ほぼ罵倒や批判的な声は見ませんでした。亡くなってわかるその偉大な成績といかに同氏が愛されたかということを皆さん感じ入ったのかもしれません。

張本氏バッシングでPVを稼ぐメディアたち

Getty Images

前置きが長くなりましたが、今回私が懸念しているのは「先人への敬意」というものが失われていることについてです。具体的に言ってしまうと、張本氏へのバッシングが酷くないか? ということです。『サンデーモーニング』が放送されるとスポーツ新聞の電子版がソッコー「張本勲氏、○○に『喝』」のような記事を公開し、これがPVを稼ぐんですよ。で、わざわざ炎上しそうな部分を抜き出して、炎上はハリーに押し付け、記事を掲載したメディアは批判されることもなくウハウハになる。

最近最も激しく張本氏が叩かれたのは、大船渡高校の佐々木朗希投手が夏の甲子園大会の岩手県予選決勝での登板を回避した時のことです。張本氏は、最近一番残念だったことがこの件だとし、佐々木はそこまで多くの球数を投げていないと指摘し「ケガが怖かったら、スポーツはやめたほうがいい」と発言します。

最近は「先発投手は100球まで」などの風潮もあることから、この発言が「時代錯誤だ」「佐々木君の将来を考えろ」などと大炎上しました。さらにはダルビッシュ有投手がツイッターで「シェンロンが一つ願い事を叶えてあげるって言ってきたら迷いなくこのコーナーを消してくださいと言う」と書き、これが拍手喝采となったのです。

張本氏はその後、様々なメディアからこの発言を含めて叩かれました。私は毎週日曜日の朝、ハリーの「喝」と「あっぱれ」を見ることを至上の楽しみとしているのですが、これ以降、明らかに「喝」の数が減りました。何を言われても蛙の面に小便、自分の意見は絶対に曲げない頑固ジジイだと思われているかもしれない張本氏ですが、私はこの騒動以降、張本氏が「喝」を出すことに萎縮してしまったのでは、と感じています。

何しろ明らかに「喝」の数が減っている。MLBの試合で打球をグローブで取ったはいいものの、隙間にボールが挟まってしまった時に選手の用具管理がなっていない心構えに「喝」は入れました。以前はガッツポーズをする選手が登場するだけで「喝!」を入れたりしており、関口氏が「えっ? これにも『喝』入れるの?」とキョトンとしていたこともありましたが、めっきり「喝」が減り、関口氏も寂しそうです。

ただし、張本氏がガッツポーズに「喝」を入れる意図も分かります。「スポーツマンは相手に敬意を表しなさい。負けた選手は悔しがっているのだから過度にその人の前で喜ぶのは無慈悲な行為ではないですか?」と言いたいのでしょう。怒りのあまりバットをへし折る選手にも「喝」は入れていましたが、「用具は大切にしなさい。子供達がマネしたらどうするのですか?」という気持ちもあるのでしょう。

しかし、一度まったく想像のつかない「あっぱれ」がありました。MLBの試合での一コマですが、試合中に鳩がグラウンドに降りてきてしまい、試合が中断したのですね。まぁ、ほのぼのとしたシーンではあるのですが、これに対し、張本氏は「あっぱれだ!」と言ったんですよ。これまでにない程困惑の表情を浮かべる関口氏。「ど、どこにあっぱれですか?」と聞くと張本氏は相好を崩し「鳩にあっぱれだ!」で関口氏はますます困惑の度合いを深めていく。張本氏曰く「いいねぇ、野球が好きな鳩なんだねぇ!」と言うではありませんか!

私はこの時、誰がどう批判しようとオレだけは張本氏を擁護し続ける存在であろうと決めたのでした。とにかく野球を愛し、子供達の未来を考えている。

カンニング竹山氏はAERA.dotで「僕は張本さんを批判するのもいい加減にしろと思うんですよね」と前置きしたうえで、「物分かりが良かったら面白くないでしょ。じいさんは『あの頑固オヤジ!』って言われるぐらいで良いんですよ」と述べましたが、私もこれに全面同意です。

これでいいのです。張本氏は今ではもうテレビからほぼ消えてしまった貴重な「そういうキャラ」として楽しめばいいのです。ホームドラマにはネチネチと嫁いびりをする姑(泉ピン子や赤木春恵)が登場し、サラリーマンものでも稀代の悪党(『半沢直樹』における香川照之)が登場するわけです。それに対し、「あんなひどいセリフを野放しにするなんて!」という意見は出てこない。当然張本氏は実在する選手や監督、コーチらに対し批判をすることもあるわけで、「当人の気持ちを考えろ!」という批判も充分理解できる。

しかし、「エースってのはねぇ、完投しなくちゃダメなんだよ! 球数制限? 私らの時代にはそんなもんなかったよ」「とにかくねぇ、走り込みが足りない。だからケガするんだよ」「アメリカの野球はレベルが低い」「審判のレベルはねぇ、日本が世界一ですよ」などの論というものは、「おっ、おぉ……」と聞いておけばいいのです。あくまでも、1959年~1981年まで現役だった張本氏の持論なわけで、「真摯に聞くべき助言」ではなく、「おじいちゃんの茶飲み談義」的な面もあるのです。だからドラマに登場する意地悪な姑のセリフと似たようなものと思ってもいい。

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