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世界一労働時間が短いドイツが超好景気なワケ

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OECDによるとドイツ人の労働時間は加盟国の中で最も短い。それなのに、景気は1990年の東西統一以来最も良い状態にあるという。対して日本は長く働いているのに、経済成長は鈍いまま。この差はどこからくるのだろうか。

※本稿は熊谷 徹『ドイツ人はなぜ、年290万円でも生活が「豊か」なのか』(青春新書)の一部を再編集しました。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/alvarez)

■高収入より自由時間が欲しい人が主流

もちろん、ドイツにも「ほどほどの生活」では満足できない人たちがいる。この国の大企業には、出世欲に燃えた野心家もいる。彼らは、部長や取締役の座に就くために自由時間を犠牲にして、日夜必死の努力を重ねている。顧客との交渉のためにファーストクラス、ビジネスクラスの飛行機で頻繁に世界中を飛び回り、数千万円、数億円の年収を得ているビジネスパーソンもいる。しかし彼らは少数派だ。お金の奴隷にはならず、ほどほどの生活をすることで満足している市民の方が圧倒的に多い。

実際、この国の企業関係者の間では、「ドイツの新しい通貨は自由時間だ」という見方が強まっている。お金よりもプライベートな時間の方が重要だと考える人が増えているという意味だ。若い労働者の間では賃上げよりも休暇日数の増加や時短を求める人の方が多くなっている。「月給が増えなくても、家族と過ごす時間が増えればいい」と考える人が主流になりつつあるのだ。

■お金に振り回されないドイツ人

このメンタリティーは、ドイツ人がお金に振り回されていないことをはっきりと示すものである。この国では多くの人が、「時間とカネ」をクールに天秤にかけているのだ。お金以外の価値の比重が高まっているために、金銭の持つ意味が、相対的に低くなりつつある。その点で日本に比べると余裕がある社会なのだ。

現在、ドイツの景気は、1990年の東西統一以来、最も良い状態にある。企業では人手不足が深刻化しているので、企業も若者たちのこうした希望に合わせて対応しなくては、優秀な人材を採用することが難しくなっている。

■最小の労力で最大の成果を生む働き方

ドイツ人の行動パターンを理解する上で最も重要なキーワードは、効率性だ。彼らは常に費用対効果のバランスを考えている。端的に言えば、彼らはケチである。仕事をする際に使う労力や費用を最小限にして労働生産性を高めようとする。その傾向が日本以上に強いのだ。

たとえば私の知人に、数学とITに強いドイツ人がいる。彼はエクセルの達人だ。エクセルの演算機能を駆使して、恐ろしく精密かつ複雑な計算ツールを構築できる。極めて複雑な課題について、1つ数字を入れるとエクセルが瞬時に答えを出す。その裏には、精緻で複雑な演算式が入力されている。彼の仕事ぶりは、石を積み上げてケルン大聖堂のような建築物を構築する石工の執念を思い起こさせる。匠の技である。

彼は「私は基本的にものぐさなので、仕事の時の労力をできるだけ少なくするために、エクセルを自動化しているんだ」と説明した。もちろんこの人は、全然ものぐさではなく勤勉な人物である。だが彼の言葉には、仕事にかかる労力を節約して生産性を高めるために工夫を凝らすドイツ人らしい態度が浮き彫りになっている。

■費用対効果が低い仕事は断る

ドイツ人は仕事をする際に慌てて取りかからない。仕事を始める前に、注ぎ込む労力や費用、時間を、仕事から得られる成果や見返りと比較する。仕事から得られる成果が、手間や費用に比べて少ないと見られる場合には、初めからその仕事はやらない。

もし日本ならば、仕事を発注する側の顧客が、担当企業から「見返りに比べて費用がかかりすぎるので、うちではできない」と言われたら、顧客は激怒するだろう。顧客は、その会社に二度と仕事を発注しないかもしれない。だが、ドイツではこういう説明を受けても激怒せずに納得する発注者が多い。発注者自身も常に費用対効果のバランスを考えながら仕事をしているからだ。

このようにドイツでは、日本に比べると「お客様(顧客)は神様」という発想が希薄なのだ。

発注者と担当企業、もしくは買い手と売り手の目線がそれほど変わらないのである。少なくとも日本のように大きな格差はない。受注企業、つまり物やサービスを売る側が、客に対してへりくだった態度を取らず、堂々としている。これはドイツの商店やレストランの従業員の態度と同じである。

つまりドイツでは客も、企業の都合に配慮しなくてはならない。しかもこの国は法律や規則の順守を重視する国なので、企業は法律の枠内で仕事をしなくてはならない。日本との違いが最も際立つのが、労働時間と休暇の問題である。

■労働によって自己実現しようとする人は少ない

「なぜドイツ人はこんなに労働時間が短いのに、経済が回るのでしょうか?」

私はこの国に派遣された日本企業の駐在員からよくこういう質問を受ける。結論から言えば、日独のワーク・ライフ・バランスの充実度を比べると、ドイツに軍配を上げざるを得ない。これは私が日本で8年間、ドイツで29年間働いた経験に基づく実感である。

ドイツ人は無理をしてまで、お金を稼ごうとはしない。ある意味で労働に対する見方が、日本人よりもさめている。「労働によって自己実現をする」と考えている人は、日本よりも少ない。いわんや健康を犠牲にしてまで長時間労働をする人はほとんどいない。個人の暮らしを犠牲にするくらいならば、お金稼ぎにブレーキをかける。

彼らにとって、働きすぎによって精神や身体の健康を崩すことは本末転倒なのだ。ドイツでは日本に比べると長時間労働による過労死や過労自殺、ブラック企業が大きな社会問題にはなっていない。

大半のドイツ人は、「仕事はあくまでも生活の糧を得るための手段に過ぎない。個人の生活を犠牲にはしない」という原則を持っている。だから、同じ成果を出すための労働時間は短ければ短いほどいいと考える。常に効率性を重視しているのだ。

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