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社内調査報告書の秘匿はむずかしい-積水ハウス文書提出命令・大阪高裁決定

このたびの台風19号による被害の報道に驚愕しております。被災された皆様には、こころよりお見舞い申し上げます。

さて、週刊東洋経済10月12日号では、昨年の積水ハウス地面師詐欺事件に関する続報が「積水ハウス詐欺被害『封印された報告書』の驚愕」と題して詳細に報じられています。同誌記者が、地面師詐欺事件に関する社内調査委員会報告書の全文を入手し、当該報告書を参考に書き上げたものだそうで、(すでに一部の経済ニュースでは取材記事としては報じられていたものの)「なぜ天下の積水ハウスさんが地面師に嵌められたのか」その実態に迫る内容が示されています。

積水ハウスの取締役の方々が(約55億円の損害賠償金の支払いを求めている)株主代表訴訟の被告になっていることは存じ上げておりましたが、同社がどうしても公開したくなかった社内調査委員会の報告書について、裁判所から文書提出命令が出されていたことは、私はつい最近知りました。というのも、判例雑誌(金融・商事判例1574号-9月15日号)で、この文書提出命令申立て事件の抗告審決定(令和元年7月3日 大阪高裁)の全文が掲載されていたからです。原審、抗告審とも、裁判所は株主代表訴訟の原告側の申立を認めて、同訴訟の補助参加人である積水ハウスに対して社内調査委員会報告書を提出するよう命じています(抗告審は確定し、同社は裁判所に提出-ただし現在は閲覧制限がかかっているようです)。

前記東洋経済の記事を読まれた方は、積水ハウスの組織的な問題などに関心が向くものと思いますが、私はこの文書提出命令の決定内容から、他社でも事件や事故発生時における社内調査委員会を作成した場合には、内容を秘匿したり、概要のみ一部開示するだけで済ませるのはむずかしいのではないか、と感じました。相手方から文書提出命令がなされた場合に、文書提出義務が発生することの根拠となる民事訴訟法220条4号「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」の解釈が問題となりますが、大阪高裁は、平成11年の最高裁決定の立場を踏まえて「自己利用文書」に該当するのかどうか慎重に判断をして「自己利用文書」にはあたらないと結論付けています。

専門性が高いので、ここでは大阪高裁決定の内容を述べることはしませんが、社内調査報告書といっても、まったくステイクホルダーへの説明のためには使わない、といった状況は考えにくいように思います。たとえば上場会社の場合、2016年に公表された「企業不祥事対応のプリンシプル」に沿った形で社内調査を行うことが多いと思います。

また、今年6月末に公表された経産省「グループガバナンス実務指針」において示された「有事対応の指針」でも、前記東証プリンシプルとほぼ同じことが示されていますが、社外取締役や社外監査役が委員になって「公表の要否を含めた判断」のために社内調査委員会が発足し、「個人の責任よりも組織としての構造的な欠陥の存否への判断、再発防止策の検討」を目的とした調査が行われます。現経営陣が、事件や事故発生時に対外的な説明責任を尽くすべきかどうかを判断するために、中立公正な第三者的立場にある社外役員に調査を担わせる以上、「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」と(会社側が)立証することは困難かもしれません。

ただし、裁判所はインカメラ方式によって対象文書の内容にアクセスできますので(民事訴訟法223条6項)、文書の内容が(開示されてしまうと)関係者のプライバシー権を侵害する場合、団体の自由な意思形成を阻害してしまうおそれがある場合、その他開示によって文書所持者の側に看過しがたい不利益が生じる恐れがある場合には提出命令は出されません。

したがって、会社として社内調査報告書をどうしても全文開示をしたくない、ということであれば法律専門家の意見等を聴取しながら社内調査委員会の報告書を作成することを検討すべきでしょうね(もちろん、その姿勢が「コンプライアンス経営」の観点からレピュテーションリスクを新たに生む可能性はあります)。

先日の関電金品受領事件でも社内調査報告書の開示・非開示が問題となりましたし、神戸製鋼品質偽装事件でも(海外当局からの捜査に影響を及ぼすとして)全文開示をしないという経営判断が問題視されました。いずれにしましても、積水ハウスの社内調査報告書に対する文書提出命令申立て大阪高裁決定は、コンプライアンスや危機管理に携わる皆様にとって重要な裁判(決定)であります。

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