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超高齢化で医療を受けられなくなる日は来るか

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『救急車が来なくなる日』の著者でジャーナリストの笹井恵里子さんは、救急車の現場到着時間と病院収容時間が年々延びていることを明らかにした。そして救急車だけでなく、その先の医療現場でも混乱が起きている――。

※本稿は笹井恵里子『救急車が来なくなる日』(NHK出版新書)の一部を再編集したものです。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/TkKurikawa)

■救急医療の現場への負担

あらためて強調するまでもなく、日本は高齢化の一途を辿っている。それに伴って、高齢者の救急患者が増えているのは言うまでもない。さらには、家族の「介護疲れ」が背景にある高齢者の問題も、救急医療の現場に負担がのしかかっているのが日本の現状だ。

こうした状況のなか、高齢者はどうすれば救急の現場を混乱させず、適切なタイミングで必要な医療を受けられるだろうか。

高齢者の立場からすると、体調が悪い時に自分一人で病院に向かうことは難しい。かといって、ほかに手伝ってくれる人もいない。そんな時に、救急車を呼ぶ以外の方法で、どうやって病院に向かったらいいのかわからないだろう。

米国では、救急救命士の資格を持つ者が現場に行き、傷病者の状態を見たうえで、救急車が必要か、介護タクシーを使うかの判別を行っている。しかし、日本国内ではやはり患者任せになったままである。

■高齢者に「救急車に乗るな」と言えるか

救急車以外の手段としては、民間救急車や介護タクシーなどが考えられるだろう。通常のタクシーとの違いは、民間救急車の場合、患者が寝たままの状態で、点滴や酸素吸入を受けたまま乗車できる点だ。つまり、救急車でストレッチャーによって運ばれるのと同様の形での移動が可能で、救急車を呼ぶほど緊急ではないケース、自分が希望の病院へ転院したい時に使える。介護タクシーは乗用車タイプだが、車椅子のまま乗ることができるメリットがある。

緊急性がない病院への受診なら、救急車を占拠しないという点で、これらの方法を使うのが望ましいだろう。しかし、どちらも有料で、通常のタクシーよりは割高だ。

仮にあなたの両親が遠方に住んでいるとして、電話で「具合が悪いので病院にかかりたい」と言われたらどうだろう。無料の救急車ではなく、有料の民間救急車や介護タクシーを勧めることができるだろうか。

あるいは、一人暮らしの高齢者のもとをケアマネージャーが訪ね、具合が悪そうだったらどうするだろうか。ケアマネージャーとしては、救急車を呼ぶしかないだろう。

■救急車有料化の罠

「もちろん『救急車は重症な時に使ってください』と言いますが、同じ青森県内でも田子町の人に『よく考えてください』なんて言えません。うちの病院までタクシーで来たら一万円はかかるんですよ」

八戸市立市民病院の今医師が早口でまくしたてる。

「一方、八戸市内ならタクシーで八百円程度ですから。でもね、地方で『救急車の適正利用』なんて言うなら、救急車の台数を増やすとか、救急車に準ずるような搬送車を作ってほしい。私は、患者さん自身が必要だと思ったなら、救急車を使っていいと思っていますよ」

救急車の適正利用をめぐっては、有料化案もたびたび議論される。しかし、筆者はこれには反対だ。海外では一回の搬送につき数万円が徴収されるが、無料であることが日本の優れている点だと思う。

仮に救急車が一回数千円から一万円の有料になったとしたら、あなたは119番にコールするか迷うに違いない。救急車の有料化は、突き詰めれば「受診抑制」につながる。そこで切り落とされる命が、必ず出てくるだろう。それならば、むしろ介護タクシーに国が補助金などを出し、少しでも国民の支払いを抑える方向に誘導したほうがよい。

どんな患者なら救急車を利用できて、どういう場合には利用できないのか。そして「利用できない患者」を作る場合は、代替手段やそれにまつわる補助をどう整備するか。国はこれらを考える必要があるだろう。これは繰り返しになるが、制度が整っていないままに「適正利用」ばかりを叫ぶのは違和感がある。

ちなみに、お金をかけたくないし、救急車は申し訳ないという気持ちから、自家用車を運転するのは事故の面から避けたほうがいい。近年、運転中に大動脈解離を発症して死亡したケースなど、運転手が意識不明となって他者を巻き込むような自動車事故が後を絶たない。大事故を防ぐためにも、少しでも体調不良を感じたら運転を控えたい。

■ベッドが高齢者で埋まっている

高齢者が救急医療を受診する際の「手段」とともに、救急医療から入院した場合、退院するまでの「出口」問題も整備されていない。

身内で一人暮らしの高齢者がいて、何らかの原因で入院する状態になり、病院から「そろそろ退院してほしい」と言われて困った、というケースを聞かないだろうか。これから大きな問題となりうるのは、高齢者がベッドを占拠してしまうために、病院側に重症の救急患者を受け入れる余地がなくなってしまうことだ。

人口の多い地域、とくに関東圏内では、ベッド数問題に悩まされている。関東では人口十万人あたりの病床数が全国平均の千二百二十九床よりも少なく、神奈川で八百八床、東京で九百四十二床、千葉で九百四十四床、埼玉で八百五十二床となっている(厚生労働省「医療施設調査」二〇一六年)。全国で最もベッドが少ない神奈川県の保健医療計画によると、二〇二五年には急激な高齢化によって、必要病床数が約一万一千床不足すると推計され、「必要病床数」と「既存病床数」の乖離が大きい横浜や川崎北部、横須賀などから病床の見直し、つまりは増床を含めて検討している。

「ベッドが満床の時は、救急患者を受け入れられません」

熊本赤十字病院救命救急センター長の奥本医師が言う。病院が位置する熊本市の人口はおよそ七十万人、市内に救命救急センターは同院を含めて三つある。

「時には熊本市外からも患者が搬送されますから、三病院ともにべらぼうに患者さんが多いです。当院でも救急搬送の要請には一〇〇%応えたいけれども、重症患者の場合、ベッドに空きがなくて応じられないということが少なくありません」

この地域では、三つの救命救急センターのいずれかが患者を受け、それ以上はたらいまわしをさせないという暗黙のルールがあるという。

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