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自然エネルギーの普及には“コミュニティ・パワー”が不可欠~認定NPO法人環境エネルギー政策研究所・古屋将太氏インタビュー~

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――国内でも自治体単位では自然エネルギーの普及に取り組んでいて、成功事例もあるそうですが、そうした事例を教えていただけますか。

古屋氏:まず「成功」の基準が2つあります。事業が継続して実施され、投資回収ができることが1つ目の基準になります。

そして、自然エネルギー事業にはいくつかのパターンがあります。民間事業者が開発し、所有し、運営するもの。自治体が所有し、運営するものは、開発を民間に委託する場合が多いです。あと、NPOが事業主体になって所有、運営するものもあり、これも開発は専門家に委託することが多いです。

実は、自治体が事業主体になって行われてきた自然エネルギー事業は全国にたくさんあって、岩手県葛巻町や高知県梼原町のように風力発電やバイオマス利用などを積極的に行って成果を出している事例もあるのですが、ほとんどは1つ目の基準を満たすことができず、失敗に終わっています。

例えば、「バイオマスニッポン」というプログラムでは、総務省の行政評価によると、効果が発現しているものはたったの16.4%で、その中でも建設した施設の稼働状況は悪く、当初期待したパフォーマンスを実現できているものは皆無という結果が出ています。

なぜ自治体が取り組むとそうなってしまうかというと、端的に人事異動で2~3年おきに担当者が替わってしまうので、事業にかかわる経験や知識が蓄積されず、また、事業の責任が曖昧になってしまうためです。そのため、自治体主体で継続性のある事業は構造的に難しい。

民間が事業主体になってやる場合、もちろんプロが手がけるので1つ目の基準はクリアします。大規模な商社や開発会社が事業を手がけるケースが多く、厳しい政策環境のなかでビジネスとして自然エネルギー事業を成り立たせて普及を進めることは非常に重要であり、素晴らしい。例えば、北海道や東北にはそういった企業の風車が多くありますし、九州にはメガソーラーもあります。

ただ、開発方法という面で課題はあります。それが2つ目の基準にも関わってくるのですが、小規模分散型の自然エネルギーは、単に設備を導入すればいいというものではなくて、地域の誰がその事業にかかわって、どういうプロセスで導入していくかということがより重要になります。

例えば、ある大企業がそれまで何の関係もなかった地域に風力発電の計画を立て、ある程度固まった段階で住民にお知らせする。それ自体は法律的な手続きとしては問題ないのですが、ある日突然「企業が大きな風車を建てます」と聞けば、地域住民は驚き、その時点でその企業やデベロッパーに対する不信感が生まれます。そうなると、企業対住民の反対運動に発展してしまう場合も出てくるでしょう。

そうでなく地元の人が中心になったり、なんらかのかたちで計画段階から関わっていくやり方が必要です。例えば、ドイツとかデンマークがそうですが、風力をやる中心は農家や近隣コミュニティであって、協同組合をつくって一緒に計画を立てお金も出しあって場所も決めて、ということをやってきました。

そうすると、どこかの誰かの自然エネルギーではなく「自分たちの自然エネルギー」になる。そこに小額でも地元からのファイナンスが入れば、風力発電であれば風がよく吹くと自分たちの利益になったり、太陽光発電であれば晴れる日が続くと太陽からのお小遣いが増えるとか、そういうポジティブな関係を自然エネルギーと作れるわけです。

――地域の人々が参加することが重要ということでしょうか?

そうです。まさにそれが「成功」の2つ目の基準です。「コミュニティ・パワー」という概念があるのですが、これは世界的にも流通し始めているコンセプトです。地域の人が参加して利益が地域に還元されるもので、これを実現させることが重要です。



ただ現実として非常に困難なのは、実際に事業開発に携わる人たちは、大規模集中型開発の考え方と手法で取り組みがちということです。コミュニティ・パワーというのは事業にかかわる関係者の数が増えるので、そのぶん手間も時間もかかる。ミーティングもかなりの回数を重ねる必要があり、説明するコストもかかります。そういったコストを必要なものとして捉えて、地道に取り組むことで2つの目の「成功」の基準を満たすことができます。

今、私自身が携わっている地域では、神奈川県の小田原市が「成功」をめざして取り組みを進めています。

小田原では、3.11後、市長のイニシアティブのもとでISEPのアドバイスも受けながら、地域でエネルギー事業をやる体制作りを進めてきました。市の「まちづくり学校」という枠組みで自然エネルギーの連続勉強会を開催して、まず市民や行政の理解を醸成した上で、環境省の「地域主導型再生可能エネルギー事業化検討業務」という事業に応募し、採択されて、市民出資による分散型の太陽光発電事業の計画作成と事業会社の設立をめざしています。

――小田原市では、市民が出資をして、設置したパネルで作った電気でビジネスを成立させて小額でもお金が戻ってくる、という循環をつくろうとしていると。そういう分散型の成功例は、他の地域でも出ているのでしょうか?

古屋氏:分散型太陽光発電事業については、長野県飯田市にある「おひさま進歩エネルギー株式会社」という民間事業者が中心となって2004年から進めてきた取り組みが国内ではもっともはっきりとした成功例です。実はここの取り組みが小田原の計画のモデルにもなっています。

地域の関係者が集まる協議会での合意に基づいて、地域に基礎をおく民間組織がプロジェクトを展開し、そこに市民からの出資を組み込んで経済的なメリットを出資者に還元しています。また、プロジェクトを通じて生まれた新たな人と人のつながりが波及効果としての社会的便益を創り出しています。

実際にプロジェクトを組み立てて、実行していくプロセスでは必ず思いもよらない課題が出てきてカベにぶつかります。そのときに一番大事なこと地域に核となる人や組織がいて、関係者と協力して課題を解決しながら、継続的に関わっていくことです。

先ほどの自治体事業の構造的な問題を踏まえれば、基本的には民間が中心になることが重要です。ただ、民間だけでも困難な部分があるため、必ず何らかの形で自治体との協力関係は必要になってきます。

制度だけに任せていると“雑な開発”になってしまう


――民間から「自然エネルギーを普及させたい」という声が出てきたときに、自治体はどのようなフォローができるのでしょうか?

古屋氏:自治体の政策も非常に重要です。固定価格買取制度が導入されても、多くの自治体は、前例がないので何をやっていいのかわからない。ですが、非常にわかりやすい政策の一つとして、市区町村もしくは都道府県レベルで固定資産税を減免するという政策があります。

太陽光パネルを設置すると固定資産税が掛かるのですが、公共施設ならば「公共性のあるもの」と位置づけて、固定資産税を減免するという政策を実施すれば、ビジネスとしてのキャッシュ・フローはかなり良くなります。

自治体としては財政が厳しいなかで新たな税収として考えたいところですが、目先の固定資産税を取るよりも、地域に根を持った組織が取り組むプロジェクトであることを条件にして、減免して応援した方がいいと思います。それによってビジネスが回るようになれば、例えば他の地域から視察や取材が来るようになって、それに付随して地域に波及的な経済効果も生まれます。そういう複合的、周辺的な効果を考えれば有効な政策だと思います。

他には、海外ではソーラーオブリゲーションという、域内のある程度の大きさの建物を新築もしくは改築する際には必ず一定割合の自然エネルギーを入れることを義務付ける施策をしている自治体もあります。

――太陽光発電を普及させるという話になると、ソフトバンクの孫正義社長が出てきて大企業が「一気にやりましょう」というイメージがあります。そうではなく地域ごとに特性を生かしながら、地元に根ざした自然エネルギーのあり方というものを模索していかなければ、なかなか普及は進まないということですか。

古屋氏:「より良い普及は進まない」ということですね。大企業が資本を使うのも、もともとの目的は自然エネルギーを増やすことですから、それはそれでよいと思います。大きな資本がないとできないこともありますから。

ただ単なる私企業のビジネスであるよりも、社会性・パブリックネスといった、地域とのより良いやり方を考えてもらいたいと思うのです。それはイノベーションのタネだとも思います。

例えばカナダのオンタリオでは、大手デベロッパーが世界一大きなメガソーラーを作っているのですが、たとえば80メガのプラントを作る際に、頑張って82~85メガにしてその2~5メガ分は地域コミュニティがオーナーシップを持つようアレンジする。資金の組み方はいろいろあると思うのですが、そうすると大きなものでも地域の人たちがオーナーシップを持つことができます

オンタリオには先住民の方が多いので、そういう方々の関わるプロジェクトは政策で優遇するといった措置もあり、それによって得られる追加収益が彼らの伝統活動のための基金にあてられるという動きもあります。そういう社会性を持ったエネルギーのあり方を作った方が、最終的にその企業にとっても良いはずです。少し努力して、コミュニティにベネフィットがあるものにした方が、社会的合意は得やすい。その辺の根本的な考え方のシフトが必要だと思います。

――現在は、脱原発の流れの中で「原子力か自然エネルギーか」という乱暴な2択になっている部分があります。こうした状況の中で、コミュニティ型の自然エネルギー普及は可能なのでしょうか。

古屋氏:固定価格買取制がはじまることで、今後自然エネルギーは、急激に増えていくと思います。しかし、それだけに任せていると雑な開発が増えてしまう。従来の外発的な大規模集中型から、内発的な小規模分散型の「コミュニティ・パワー」へと発想を転換し、先行する国内外の事例を参照しながら、コンセンサスをしっかりと持った上で丁寧に取り組みを進めていくことが重要だと思います。

―本日はありがとうございました。

プロフィール

古屋将太(ふるや・しょうた):1982年生。NPO法人環境エネルギー政策研究所フェロー/デンマーク・オールボー大学大学院博士課程計画・開発プログラム在籍中。専門は地域の自然エネルギーを軸とした環境エネルギー社会論。








冒頭でも紹介したように、本シリーズでは、読後にユーザーが感じた意見に対する解答記事の掲載を予定しています。コメント欄を通じて、寄せられた意見・異論・反論を基に次回のインタビューを実施しますので、議論への積極的な参加を期待しています。

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