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自然エネルギーの普及には“コミュニティ・パワー”が不可欠~認定NPO法人環境エネルギー政策研究所・古屋将太氏インタビュー~

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現代社会の問題点を改めて提示する新感覚のインタビューシリーズ「SYNODOS×BLOGOS 若者のための『現代社会入門』」。第6回目のテーマは、「自然エネルギー」。自然エネルギーについては、福島第一原子力発電所の事故を契機に、原子力の代替として期待が集まる一方で、普及にはまだまだ時間が掛かり実用化は現実的ではないとの声もあります。自然エネルギーを取り巻く環境とその課題について、認定NPO法人環境エネルギー政策研究所の研究員である古屋将太氏に聞きました。【取材・執筆:永田 正行(BLOGOS編集部)】

※本シリーズは、毎月第2水曜日にSYNODOSに寄稿している論者のインタビュー記事を掲載し、その記事への疑問や異論・反論に対する回答記事を第4水曜に掲載するという方式を採用しています。記事へのご意見は、コメントフォームにお寄せください。締め切りは6月18日(月)正午とさせていただきます。次回の記事掲載日は27日(水)を予定しております。

自然エネルギーの普及率はわずか1~2%


――まず現状を確認しておきたいのですが、日本における自然エネルギーの普及状況はどの程度なのでしょうか。
古屋将太氏(以下、古屋氏):「エネルギー」は電力、熱、輸送燃料の3つに分けることができます。この3つを合わせて見ると、日本の場合、90パーセント以上が化石燃料と原子力、数パーセントが自然エネルギーという状況です。

電力に限った場合、自然エネルギーは1~2%ほどです。大きいダムなど環境負荷の高いものは、自然エネルギーに含まない場合があるので、水力の扱いが定義によって変わってくるのですが、だいたいそれぐらいですね。なので「自然エネルギーは頼りないですね」という話によくなります。

――「自然エネルギー」と言われたときに、一番思い浮かびやすいのは「太陽光」ですが、他にはどんなものがあるのでしょうか

古屋氏:英語では New Renewable Energy というのですが、風力、太陽光、小中水力(大きなダムではないもの)、そして地熱とバイオマス。この5つが国際的に主力といわれている自然エネルギーです。

――これらを集めても割合としては1%か2%というのが現状なのですね。海外では、普及のために「固定価格買取制」を導入しているとのことですが、改めてこの制度について詳しく教えてください。

古屋氏:固定価格買取制は英語ではFeed-in Tariff、FITと呼ばれています。いろんな見方ができますが、根幹にあるものは「自然エネルギー設備から発電された電力を一定期間、一定価格で買い取ることを電力会社に義務付ける」ということです。その買取価格は、事業者が適正な採算が取れる、少々高めの価格です。

一般の電力価格よりも、少々高くなるのですが、その上昇分は消費者全体で薄く広く負担する方式になっています。また国によっては、電力を大量に消費する産業には緩和措置を導入していたりします。

――ドイツの例がよく挙げられますが、ドイツでは導入した結果どういうことになっているのでしょう?

古屋氏:ドイツにおけるこの政策の歴史はヨーロッパの中でも古いのですが、1990年に議員立法で一枚のペーパーを提出し、固定価格買取制の原型になる政策を作りました。太陽光は、その当時まだ高価だったため普及しなかったのですが、風力は採算が取れるということがわかり普及が進みました。こうして成功した部分、改善が必要な部分が見えてきて、2000年に本格的な固定価格買取制を導入しました。

当時、価格設定に加えて重要だったのは「優先接続」という原則です。太陽光パネルや風車を作って発電をしても、送電線に繋ぐことができなければ売ることができません。そして送電線というのは、たいてい既存の電力会社が所有しています。当然、大手電力会社の方に交渉力があるので、新規参入の自然エネルギー事業者は弱い立場に置かれ、交渉してもなかなか接続してもらうことができないという状況が生まれます。こうした状況に対して、政治が「自然エネルギーの普及を促進すべし」という明確な意思をもっていたため、新規の自然エネルギー設備は必ず送電線に接続しなければならない「優先接続」という規定が制度の中に組み込みまれました。このように、価格と優先接続の2つを法律で保証することによって、事業リスクを大幅に下げ、自然エネルギーがビジネスとして成り立つ可能性を高めていったのです。

制度というのは「一度作れば完璧」というものではありません。周辺環境の変化に合わせてチューニングすることが重要であるということをドイツはよくわかっていて、2004年に太陽光の買取価格を少し高くするなど細かいところの調整をして、一気に普及しました。

――日本でも「太陽光サーチャージ」という形で、一部導入されました。

古屋氏:オイルショックの後、日本は太陽光発電の技術開発に重点をおいてきたことから、太陽光は日本のお家芸のようなところがあり、1990年代は世界的にも日本が太陽光発電をリードしている状況でした。日本の優秀な技術者・研究者と、ボランタリーな、意識の高い人たちのお陰でリードできていたわけです。

しかし、2000年代に入ってドイツの固定価格買取制度が成功し、市場が急激に伸び、産業の重心が移ってしまった。結果として2006~07年にかけて「日本が完全に太陽光で負けた」というデータが出て、与党自民党や経産省の中で衝撃が走りました。日本のお家芸を奪われ「これはいかん」ということで、当時の二階経産大臣が「固定価格買取制の導入を検討する」と急遽アナウンスし、それから中身を作っていったのです。

具体的には、「エネルギー供給構造高度化法案」というのですが、その法案の中で家庭用太陽光発電の余剰電力を固定価格で買い取るという項目が入り、制度が始まりました。これによって日本の太陽光発電の普及は再び伸び始めます。

しかし、ドイツが2000年に固定価格買取制を導入し、2004年にテコ入れ改正して普及を加速させていく中で、日本は何をやっていたかというと、2005年に家庭用太陽光発電の設置補助を止めているんです。それは「すでに十分にシステム価格が下がったのでもう補助は必要ない」との理由からでした。そして、翌年、翌々年の設置量は前年よりも下がるわけです。それで衝撃が走って、急遽法案を作ったという経緯です。ハッキリ言って、世界の流れと逆行している政策をやっていたんです。

なぜこのような違いが生じたかというと、自然エネルギー政策の考え方の違いが根底にあります。ドイツは政策によって競争の前提条件を整えた上で、民間事業者が継続的に普及を進め、価格が下がるというアプローチです。国によって多少色合いは異なりますが、欧州の自然エネルギー政策はこれが主流です。それに対して日本は「政策=補助金」というアプローチです。補助金はワンショットの政策手法なので、「あれば増えるが、なければ増えない」ということになります。

――7月から、再生可能エネルギーの固定買取価格制度が始まります。先日は太陽光の買取価格が42円/kWhということが決まり、「高すぎるのではないか」という意見が出ています。この点についてはいかがですか?

古屋氏:今回の価格は、『調達価格等算定委員会』という委員会によって定められました。この中で、業界団体、太陽光発電協会や風力、バイオマス、風力、地熱など様々な協会からヒアリングを行っています。だいたいどれぐらいのコストで資金が回収でき、適正な収益をあげられるのかを業者と公開でヒアリングし、そこから出てきた数字がベースになって、今回の買取り価格は決められています。

太陽光の42円/kWhに関しては、様々な予測があったのですが、結局満額回答というか、太陽光発電産業界が望む価格になったかな、というのが感想です。ただドイツなどのように、海外の競争力のある国を見ると事業用で30円台や20円台というところもあります。

なぜ海外と日本でこのような差があるのかという疑問が生じると思います。ひとつの要因としては海外では製造の面で産業の垂直統合が進んでいたり、設備や施工、手続きの面で標準化が進んでいたりして、サプライチェーン全体を通じたコストダウンが効いている一方で、日本ではそういった産業全体の効率化の余地がまだまだあるという話を聞きます。それは事業者側だけでなく、さまざまな規制の面でもいろいろと手を尽くしていく余地があります。

今回の固定価格買取制の法案自体の主旨は、「自然エネルギーの普及を促進し、3年間は特に後押しする」ということです。この文言が入っているので最初3年に関しては、買取価格が多少高くなることが織り込まれています。価格は高いか安いかでいうと、今年度は若干高いかもしれませんが、当初の政策の趣旨に照らし合わせれば適切な範囲ではあると思います。

参考:調達区分・調達価格・調達期間についての調達価格等算定委員会案

――これは最低でも42円/kWhで買い取るということですよね。

古屋氏:そこは報道が伝えきれていない部分でもあります。42円/kWhと言っていますが、これは税込み表示です。電力自体の買取価格は税別40円/kWh。これは事業者から見ると大きな違いです。内税にされると消費税が上がったときは事業者負担が増え、収益が下がりますから、ここは非常に大事なところです。

図 税込/外税による違い

――固定価格買取制の導入によって普及が進めば、42円/kWhという価格は下がっていくという理解で大丈夫でしょうか?

古屋氏:はい、下がっていくことになります。ただ、ここは丁寧に議論しなければいけないところです。42円/kWhというのは、今年度中に設置し、電力会社と売電契約する設備に適用される価格です。例えば、今年度中に設置したメガソーラーは、42円/kWhで10年とか20年間、長期で売り続けることができます。

普及が進めばシステム価格は下がるので、一定期間おきに動向に合わせて価格が見直されるので、平成25年度に設置されるものについては30円台後半ぐらいになるかもしれません。そうしたペースで価格が下がっていくので、設置した年度ごとに固定価格で売電を続けます。要は、先行して取り組む人ほど恩恵を受けられる構造です。

――今年度中に作っておけば高い価格で売ることができるというわけですね。極端な話、来年度30円に下がったとしても、12円分高く売り続けることができるわけですね。

古屋氏:そうです。ですから、事業者は急いで今年度中に設置しようとしていますね。本当に急いでいる。手続きの詳細はまだ不確定ですが、3月31日をすぎて4月1日契約になると、今作っている事業計画が根底から覆されることも考えられるわけです。太陽光に関しては普及が早いし施工もすぐできるので、半年、1年での見直しというのは事業者にとっては厳しいですが、これは仕方ないと思います。

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