記事

実は「暴走老人による死亡事故」は激減していた

1/2

最近、高齢ドライバーの引き起こす交通事故がたびたび報じられた。高齢者からは免許を取り上げたほうがいいのだろうか。統計データ分析家の本川裕氏は「死亡交通事故率を調べると、75歳以上の減少幅はほかの世代よりも大きい、高齢ドライバーの事故はむしろ激減している」という——。

高齢者の事故が増える以上に、高齢者が増えている

歩行者を巻き込んで高齢ドライバーが引き起こした痛ましい死亡事故が大きく報道され、運転能力の衰えた高齢者が引き起こす交通事故が増える一方であるという印象を国民は抱いていると思う。自らの運転能力を過信して免許を返上せず深刻な事故を引き起こす高齢者の身勝手さを非難する声も大きくなっている。

まず、この点に関して統計データは何を語っているかを見ていこう。本当に高齢者は身勝手なのであろうか。

警察庁はドライバーの年齢別の死亡交通事故の件数を公表している。この10年間の変化を図表1で追った。最初のグラフは死亡事故の件数の実数変化だ。65歳以上の高齢ドライバーの死亡交通事故の件数自体はあまり変わっていないが、それより若い非高齢者(65歳未満)の事故件数が急減していることが分かる。

このために、年齢別に事故件数のシェア割合の変化を示した下の図を見ると、65歳以上の高齢者の死亡交通事故の割合がいずれの5歳きざみにおいても上昇していることが分かる。これが高齢ドライバーの引き起こす交通事故が増えている印象をもたらす大きな理由であることは間違いなかろう。


高齢ドライバーの割合は2000年37.0%→2018年56.6%

ただ、65歳以上の高齢者ドライバーによる死亡交通事故の割合の上昇は、そもそも高齢者の人数自体が日本では非常な勢いで増加しているためだと思われる。また、以前よりもクルマを運転する高齢者が増えているのがもう1つの大きな要因である。

高齢者の人数や比率の上昇、すなわち高齢化の進展については、語られ尽くしている感があるので、ここではあえてデータを掲げず、むしろ、あまりメディアで紹介されないクルマを運転する高齢者の増加についてのデータを以下に掲げた(図表2)。


データは、ふだんの外出の際に自分が運転する乗用車を利用する60歳以上の高齢者の割合の変化である。2000年に日本の高齢者の割合は37.0%であったが、2018年には56.6%に達している。たった20年弱で5割以上の増加である。

ここではグラフにしてはいないが、こうした傾向は60歳以上のどの5歳きざみにおいても同様である。最高齢区分の80歳以上でマイカー外出する割合は、2005年の12.4%から2018年の26.4%へと倍増している。

米国では80歳以上の7割以上がクルマを運転している

これは、モータリゼーションの普及(特に地方圏での)によって、バスなどの公共交通機関が衰退し、マイカーを利用しないと買い物、通院などの日常生活を送りにくくなったためである。パワステなどでクルマの運転が容易になる一方で、高齢者の肉体年齢が若返っていて、かなり高齢になっても運転が可能となっているのも一因であろう(これが若返っていると過信して事故を引き起こす高齢者の身勝手さの印象を一方で生じさせているのであるが)。

こうした状況は、日本だけの現象ではないことが図表2を見れば明らかである。自動車大国米国の高齢者のマイカー外出比率は日本を大きく上回る81.5%に達している。ドイツでも日本よりも高い値となっている。米国においては、最高齢80歳以上のマイカー外出比率も、2005年から2015年にかけて49.0%から71.7%へと上昇している。米国では80歳以上でも7割以上が自分でクルマを運転して外出しているのであり、日本の26.4%などまだかわいいものだといえよう。

実は大きく低下している高齢者の死亡事故率

ところで、高齢ドライバーの死亡事故が本当に上昇しているかどうかを統計データとして確かめるためには、年齢別に免許人口当たりの死亡事故率を計算してみなければならない。図表3に警察庁が公表しているこの計算の結果を示した。


そもそも死亡事故率が高いのは、むちゃをしがちな20代までの若い層と、心身が衰えてくる70歳代以上の高齢者層とであるが、すべての年齢層で死亡交通事故率が低下している中で、若い層と高齢者層のどちらも他の年齢層以上に事故率は大きく低下しているというのが実態である。

特に75歳以上の減少幅が大きい点が目立っている。つまり高齢ドライバーの事故の割合は確かに母数である高齢ドライバーの急増で増えているが、事故率はむしろ大きく低下しているのであり、高齢者の身勝手さを非難してしかるべき状況にはないことが分かるのである。

そうだとするとなぜ、われわれは高齢者が身勝手であると感じてしまうのであろうか。この点を次に見ていこう。

「高齢者は人のために生きるべき」というロールモデルの崩壊

結論から言うと、高齢者が実態以上に身勝手だと見えてしまう背景には、知らず知らずに進んでいる「年齢別ロールモデルの崩壊」という現代社会の変化が影響しているというのが私の見方である。

若いうちは好きなことをやって、その後、結婚し家族ができ、社会的にも責任のある立場となると、自分のことというより、周りの人のことを考えて行動するようになる。というのが一般的な人の生涯経路(ライフコース)だと考えられてきた。

高齢者の生き方・考え方が昔とは全然異なる

ところが、後述のように、遊び、勉学、仕事、家事、余暇(老後)という順番で年齢別にはっきり分かれていた生活パターンが、幼年から中高年にかけいずれの年齢でも濃淡はあるもののすべてを行う生涯モデルに変化しつつある中で、こうした年齢ごと、世代ごとのロールモデルは衰退してきている。

同一設問で長期的な意識調査を5年ごとに継続的に行っている統計数理研究所の日本人の国民性調査では、「自分の好きなことをしたい」か、それとも「人のためになることをしたい」かというシンプルな問いをもうけている。図表4では、この設問の年齢別結果の推移を追ったが、これを見るとその傾向がはっきり理解できる。

1978年には、若者は「自分の好きなこと」をし、中高年は「人のために生きる」という意識の違いがはっきりしていた。

ところが1993年にかけて、いずれの年齢でも注目すべき意識の変化が起こる。「自分の好きなことをしたい」という意識が強まるとともに、そう意識する率の年齢別の差が縮まったのだ。

一方、また、「人のために」という意識も全体的に弱まるとともに年齢差も小さくなった。1993年までは、なお、バブル時代の精神的影響が大きかった時期であるが、そのためでもあろう。ちなみに「おいしい生活」というキャッチコピーがコピーライターの糸井重里によって考案されたのは1982年である(翌年まで西武百貨店のコピーとして使用された)。

それ以降、2013年にかけて、さらに、この傾向、なかでも年齢差の縮小がさらに進んだ。30代までの若年層は「人のため」をより重視するようになり、40代以降の中高年はますます「わがままに生きよう」と考える者が増えている。そして、何と、20代の若者については、「好きなこと」より「人のため」を重視する者が多くなるという逆転現象まで生じている。

世の中、変われば変わるものだという印象がぬぐい得ない。


なお、付け加えておくと、図表4の最新年次の2013年には、いわゆる団塊の世代がなお60歳代であった。70歳以上が、なお、他の世代と比べて、「自分のため」というより「人のため」の意識を保持しているのはそのためであろう。その後、6年が経過して昨年行われたであろう2018年の70歳以上の結果は、より「人のため」が減り、「自分のため」が増え、もっと他の世代の意識に近づいていると思われる。

あわせて読みたい

「交通事故」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    山中教授が「被害者」になる日本

    やまもといちろう

  2. 2

    神奈川HDD流出 社長辞任させるな

    山口利昭

  3. 3

    支持率に影響出ない桜見る会問題

    非国民通信

  4. 4

    糖質制限を覆す研究 Nスぺに驚き

    NEWSポストセブン

  5. 5

    「人のせいにする」ことの大切さ

    紫原 明子

  6. 6

    行き詰まる韓国 中国に寝返るか

    ヒロ

  7. 7

    グレタさんCOP25で西側政府糾弾

    ロイター

  8. 8

    現金の1.7倍 使いすぎる電子決済

    ベネッセ 教育情報サイト

  9. 9

    麻生大臣が「安倍4選」に初言及

    文春オンライン

  10. 10

    神戸限定で人気 子供バッグの謎

    清水かれん

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。