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後発国の技術盗用を防ぐため日本がすべきこと

日本は19世紀、イギリスが開発した蒸気機関の動力装置や製鉄法を模倣して自分たちのものとしました。そして今は、核心素材の製造技術を多く持ち、他国から模倣される側にいます。5G革命が始まろうとしているなか、日本が自国の技術を守るために必要なこととは何でしょうか。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/gyro)

開発よりもコピーがお得

日本は製品の生産に必要な核心素材(キーマテリアル)の製造技術を多く持ち、他国に対し、優位に立っています。国家の貧富を決定づけるものとして、技術の革新という要因が考えられます。資源に乏しい日本にとって、成長を維持していくためには、技術革新を不断なく推進する以外に方法がありません。

20世紀半ばに活躍したロシア人の経済学者アレクサンダー・ガーシェンクロンという人物がいます。ガーシェンクロンは「後発国は先発国の開発した新しい技術を導入しながら、工業化を推進するため、後発国の技術進歩は急速であり、経済成長率も先発国を上回る」と主張しました。先発国は長い時間をかけて、技術開発を行い、その進歩も緩慢ですが、後発国はその技術モデルを模倣(コピー)し、一気に追い付くことができるのです。

ガーシェンクロンによると、「コピーによって、追いつく(キャッチアップ理論)」という例が、19世紀のドイツや日本でした。18世紀から100年以上かけて、イギリスの産業革命は粘り強い技術者たちによる開発と改良を経て、成し遂げられました。新興国のドイツや日本は、イギリスが発明した蒸気機関の動力装置や製鉄法を、良く言えば熱心に学び、悪く言えば盗み、模倣したのです。イギリスが100年以上かけて、ようやく開発した技術を、ドイツや日本は僅か20年~30年で、自分のものとしたのです。

この時代、発明などの特許という概念などなく、盗用を防ぐ法的手段がありませんでした。ドイツの技術者はイギリスの技術の盗用に最も熱心で、独自の改良を加え、工場設備を進化させました。

日本において、明治維新の4年後の1872年、イギリス製の蒸気機関車が導入されました。その後、蒸気機関車を国産化するべく、明治政府は資金や人材を集中投下し、技官をイギリスに派遣し、イギリス技術者をヘッドハンティングして、官民上げて、機関車のコピー生産に取り組んだのです。その結果、1890年代には国産機関車を量産できるようになります。日本の成功は、ガーシェンクロンの「キャッチアップ理論」の典型例と言えます。

「キャッチアップ理論」で躍進する国

日本はかつて、技術をコピーし盗む側でしたが、現在は、コピーされ盗まれる側に立っています。韓国や中国の企業は、日本の企業の技術者をヘッドハンティングし、日本の技術に倣い、優れた製品を作ることができるようになりました。日本は特許の法整備が遅れ、国際的な特許規制を利用することに疎く、韓国や中国などに、せっかく開発した技術を盗用されてしまい、損失を被っています。

ガーシェンクロンが主張するように、後発国には、どの時代においても、優位性があるのです。この数十年間で、韓国や中国に奪われた日本の富の総量がどれほどのものであったかを、日本はよく反省せねばなりません。

例えば、韓国企業は液晶テレビ、スマートフォン、車に至るまで、日本だけでなく、アメリカその他の国々の先進技術を取り入れ、安く早く生産し、世界に向かってダンピング競争を仕掛け、売り上げシェアを伸ばしてきました。独自技術を開発したのではなく、「キャッチアップ理論」で躍進を遂げました。

その韓国も、昨今、中国企業によって追い落とされています。中国企業はスマートフォンなどの市場に参入し、韓国製品よりもさらに安い製品でシェアを拡げました。韓国企業は中国企業にシェアを奪われ、供給過剰で製品が急速に売れなくなり、業績が悪化しています。「キャッチアップ理論」で成功した者は「キャッチアップ理論」に敗れるのです。

「キャッチアップ理論」で模倣される製品は模倣者が次々と現れ、すぐに供給過多に陥ります。中国製品の売り上げも鈍化しており、生産すればするほど、自らの首を絞めるという悪循環にはまっています。技術革新の伴わない模倣品の販売だけでは、韓国企業も中国企業も、遅かれ早かれ、失速する運命にあったのです。

新型ココムで脅威に対抗せよ

5G革命がはじまろうとしています。先進技術を持つ国が経済覇権を握り、そして、経済覇権は軍事覇権に繋がります。2008年、リーマン・ショックでG7(先進7カ国)が経済的な打撃を受ける中、中国はGDPの拡大と並行して軍事費を急激に拡大させていき、この10年で、脅威は急速に増しました。経済が安全保障に直結する状況が今日、ますます顕著になってきています。

かつて、冷戦時代、対共産圏輸出統制委員会(Coordinating Committee for Multilateral Export Controls)、略称COCOM(ココム)と呼ばれる組織がありました。1950年に発足したココムは資本主義諸国によって、共産主義諸国への軍事技術・戦略物資の輸出規制を監督しました。安全保障の観点から貿易統制が多国間の協調によって、効果的に行われていました。

冷戦終結後の1994年、ココムは解散します。そして、ココムの後継機能として、ワッセナー・アレンジメントが締結されます。この協定は参加国間の紳士協定であるため、法的拘束力を持ちません。

テロやテロ支援国家、あるいは軍事力や兵器開発を著しく増大させる国家や勢力、領土侵犯を繰り返す国家などさまざまな安全保障上の脅威に対し、各国が連携し、結束することのできるような国際的な枠組み、つまり新型ココムの構築が急がれます。

アメリカは単独で、安全保障上の観点から輸出統制を可能にする法律を既に整備しています。輸出管理改革法(Export Control Reform Act)、略称エクラ(ECRA)が国防授権法に盛り込まれるかたちで今年、成立しました。エクラは既存の輸出規制の法的枠組みでカバーしきれない新興・基盤技術の輸出を規制する法律で、その規制対象は軍事転用可能な技術を中心に、AI、バイオ、データ分析技術、ロボティクス等の先進的材料など多岐の分野に及びます。

日本より、貧しく遅れている国が、「後発の優位性」をテコに、日本を脅かす競争相手として、台頭する可能性は、韓国や中国のみならず、他の国にも充分あり得るでしょう。日本は日本の技術やそれによって産み出される核心素材(キー・マテリアル)を技術者の不当なヘッドハンティングや盗用から守るため、アメリカのように、戦略的な法整備・支援を急がなければなりません。

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宇山 卓栄(うやま・たくえい)
著作家
1975年、大阪生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。代々木ゼミナール世界史科講師を務め、著作家。テレビ、ラジオ、雑誌、ネットなど各メディアで、時事問題を歴史の視点でわかりやすく解説。近著に『朝鮮属国史――中国が支配した2000年』(扶桑社新書)、『「民族」で読み解く世界史』、『「王室」で読み解く世界史』(以上、日本実業出版社)など、その他著書多数。
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(著作家 宇山 卓栄 写真=iStock.com/gyro)

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