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暗闇のねずみ~村上春樹のスピーチ

■ 「村上春樹さんイタリアの文学賞を受賞」

今年も村上春樹がノーベル文学賞をとれなかったと恒例行事報道が流されたかと思えば(【速報】村上春樹さん、ノーベル文学賞受賞ならず)、イタリアの文学賞を受賞したというニュースも流れている(村上春樹さんイタリアの文学賞を受賞し、記念講演!!)。

そのイタリアのラッテス・グリンツァーネ文学賞では、小説の歴史は人間が洞窟で暮らしていた旧石器時代にも見られるとし、小説家はその末裔であり、

「世界の色んな場所の暗闇を照らすことができたら、それにまさる喜びはありません」

と上の記事は村上氏の言葉を引いて締めくくっている。

村上春樹にはエルサレム賞の有名な「壁と卵」スピーチもある(【全文版】卵と壁 ~村上春樹氏 エルサレム賞受賞式典スピーチ)。これは、権力やマジョリティを指す「壁」ではなく、一般民衆をおそらく指すであろう「卵」の側に自分は立っていたいという内容だ。同スピーチではこう語る。

私たちは、“システム”と呼ばれる、高くて硬い壁に直面している壊れやすい卵です。誰がどう見ても、私たちが勝てる希望はありません。壁はあまりに高く、あまりに強く、そしてあまりにも冷たい。
しかし、もし私たちが少しでも勝てる希望があるとすれば、それは皆が(自分も他人もが)持つ魂が、かけがえのない、とり替えることができないものであると信じ、そしてその魂を一つにあわせたときの暖かさによってもたらされるものであると信じています。

出典:卵と壁 ~村上春樹氏 エルサレム賞受賞式典スピーチ

システムとは大雑把な言葉ではあるが、個人(卵)の力ではどうしようもない力がこの社会には張り巡らされており、その力に抗わず黙って従うことが「卵」に課せられた宿命かもしれないいが、それに抗う卵もいる。

抗わずとも、存在自体を隠蔽されてしまう卵もこの社会にはたくさん存在する。

■ 最近であれば、9月1日に自殺する子ども

小説という方法で村上春樹はその卵の言葉を代弁し、そこに光を当てようとする。

この、「卵への光」は何も村上春樹だけではなく、たくさんの芸術家が行なっている。

また、芸術家でなくとも、たくさんの支援者もそうした暗闇の中にある卵に対して光を当てている。

僕であれば、「当事者」という究極の卵に光を当て、それら卵の声を「代弁」しようと毎日仕事をしている。不登校、ひきこもり、発達障害、虐待サバイバー。

最近であれば、9月1日に自殺する子ども、共同親権を求める子どもを含む人々。

「システム」は何も典型的「権力」にだけあるわけではなく、既存の現体制に安住するマジョリティ、既存の現体制を守る人々、既存の現体制に暗黙のうちに従ってしまう人々、これらすべてを称して「システム」と言う。

こうした大きなシステムに入れない卵、それら卵は仕方なく「暗闇」に潜む。

村上春樹は、その暗闇に小説という道具を使って光を当てたいとスピーチしている。また、このようなシステムからはじき飛ばされた人々に光を当て、その言葉を代弁したいという支援者も存在する。僕はそこに属したい。

■サバルタンの1人

村上春樹は、初期の代表作の『羊をめぐる冒険』で、代表的登場人物である「ねずみ」をラストに登場させ、暗闇からぼそぼそと語らせる。

もう35年も前に読んだ作品だからそのねずみの言葉の内容は忘れてしまったけれども、初期の3部作の流れを超えた説得力が、あのねずみの存在感にはあったような気もする。

初めに引用した記事にあるように、村上春樹はできるだけ物語に縛られず、イメージを羅列した断片を増幅させて1つの作品にするそうだ。

初期の作品で、北海道の雪の中のログハウスで突然現れて消えたあの暗闇の中のねずみの姿は、「卵」の代表であるとともに、声なき声の当事者の声、哲学的には「サバルタン」(G.スピヴァク)の1人でもある。

そこに惹かれるのは(村上作品に惹かれるという意味ではなく)、僕だけだろうか。

※Yahoo!ニュースからの転載

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