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米中貿易戦争下、中国の危機突破戦略は何なのか

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III. 過剰投資のつけ

過剰投資、いずれ不良債権に

まず過剰投資のつけである。投資は費用処理の繰り延べが認められている支出であるから、投資はたやすく高成長を可能にする。しかし費用負担を伴わない需要創造という便法は、将来に費用処理を先送りすることであり、それに果実が伴わなければ不良資産を積み上げることになってしまう。日本の1990年のバブル崩壊、韓国の1997年の通貨危機はそうした高投資による成長パターンの挫折として起きたわけだが、その時のピーク固定資本形成/GDP比率は日本32%、韓国36%であった。

それに比し現在の中国の固定資本形成のGDP比率は2010年46%とどこの国にもなかった高水準に達したのであるから、中国の潜在的困難の深刻さが推し量れよう。中国の投資分野は設備投資、公共インフラ投資、住宅不動産投資の3分野であるが、設備投資は大半の製造業部門で過剰設備を抱え、更なる投資増加は困難である。公共投資も10年余りで日本の新幹線網3100kmの9倍にあたる2.9万km(2018年)もの高速鉄道を敷設した。

累積負債は86兆円に上るがそのほとんどは赤字路線、不良債権化する可能性は大きい。日米中を比較すると200m以上の高層ビルは中国400棟、日本の10倍、米国の2倍、高速道路延長中国130,000km、米国65,000km、日本11,520km(いずれも2016年)、等中国の投資のすごさがうかがわれるが、それは不良債権発生の種でもある。現在唯一の積み増しが可能な投資対象は不動産だけであるが、ここでも不良在庫と価格下落の危険がある。成長を維持するためには、不良債権を積み増すことを承知の上で不動産投資を続けざるを得ないという矛盾に直面している。


IV. 過剰債務のつけ

世界史的債務増加が中国の消費経済化を支えたが、限界に

次に過剰債務のつけが深刻になりつつある。2010年頃までは、外貨準備(貿易黒字と対内資金流入見合い)の範囲内での通貨発行が行われ、レバレッジは抑制されていた。しかし2013年頃より信用創造が急拡大した。民間企業の債務増加が中心であり、民間非金融部門の対GDP債務は210%(日米欧は160%前後)と歴史的高水準に達している。

2015年頃から急進展した消費主導の経済拡大は中国民間部門のレバレッジ化によって推進されたのである。リーマンショック以降2018年までの10年間に世界の債務(民間+公的)増加額は63.24兆ドルであったが、内中国が42%の26.5兆ドルと圧倒的。この間の債務拡大は米国15.86(25%)、欧州10.00(16%)、日本0.54兆ドル(0.9%)、その他新興国10.3兆ドル(16%)となっている。主要国の信用乗数が低下ないし停滞する中で、中国のみ著しく上昇した。しかもこの信用創造が、銀行部門以上にシャドーバンキングを通して行われており、不良債権化するリスクが心配されている。

この過剰債務の問題は、①企業収益の悪化、②金利の上昇、③信用環境の悪化などか起きるときに、顕在化する。中国において①~③がいつどのようにして起きるのかが、当面の心配事であろう。後述するようにそれは外貨不安が引き金になるのではないか。


V. 経常収支悪化のつけ

経常収支赤字化は時間の問題

あと一つの決定的なつけは、経常収支の悪化による燃料切れである。今主要国の金融の安定性を最終的に担保するものは経常収支であろう(基軸通貨国米国を除き)。この経常収支黒字の大幅な増加が、現代中国繁栄の引き金になった。対米貿易黒字を中心に、中国の経常黒字は2008年4201億ドル、対GDP比10%弱という高水準に達した。この黒字の累積が外貨準備高を急増させ、その外貨を裏付けとした通貨発行が、2010年頃までの中国の投資の原資であり、健全といえた。

中国の外貨準備高の対GDP比率は1990年代0%、2000年13%、2010年49%と急上昇し、野放図とも思える高投資の源泉となった。しかし経常黒字は、貿易黒字の減少と旅行収支赤字の大幅拡大によって、激減している。2018年は492億ドル、ピーク比9割減である。近い将来高騰する賃金による価格競争力低下と米中貿易摩擦により中国が近い将来経常赤字国に転落する可能性が見えてきた。


外貨準備の大きさは張り子のトラ、外貨の脆弱性がいずれ顕在化する

そうなると中国の脆弱な対外バランスシート問題が、顕在化し外貨不安が人民元安を引き起こす懸念が強まる。中国の外貨準備高は3.17兆ドルと世界最大、日本の1.27兆ドルの3倍近くあるが、対外純資産は2.13兆ドルと外貨準備比3分の2しかない(2018年末)。つまり中国の外貨準備の3分の1は借金なのであり、緊急の対外決済には充当できない。

中国の潤沢な外貨の半分近くは海外からの投融資によってもたらされたもので、ひとたび人民元不安が高まると、流出し減少するかもしれない。また中国の外貨準備高が全て流動性なのかも疑わしい。この中の1兆ドルは米国国債であるとしても、例えばベネズェラに対する融資などが含まれている可能性もある。2015年のチャイナショック時には、急激な資金逃避が起き2014年6月には4兆ドルあった外貨準備が2年間で1兆ドル減少した。2016年後半以降、資本規制によりほぼ横ばいの3兆ドルとなっているが、どのレベルが危険水準か、は不明である。2015年当時2兆ドルが危機水準とうわさされていた。


外貨市場の悪化が金融危機の引き金を引く可能性

外国人による対中証券投資、直接投資の巻き戻し、中国人による海外への資金避難などの可能性もある。当局による懸命の為替管理、中国企業の海外資金調達にも拘わらず、本質的には、外貨準備高は減少傾向を辿る趨勢にあると言える。それ急激に進行すれば元安と国内の信用収縮を引き起こす。①中国で積み上がっている過剰債務のデフォルト、②大きく上昇してきた不動産価格の下落、③地方政府の主たる収入源である土地売却益減少による財政難、などが連鎖的に起きれば、中国経済の失速から、金融危機が引き起こされるかもしれない。

現代中国の繁栄は、①大幅な経常・貿易黒字、②巨額の対中投資、資本流入、③外貨準備蓄積による威圧、というルートを通した世界資本の中国への集中によって可能となったが、そのすべてが逆流しようとしているのである。外貨不安は中国のアキレス腱であり、いずれ顕在化する恐れがある。そうした潜在的弱みがある以上人民元を引き下げることで貿易黒字の減少を回避するという為替操作は、逆噴射のリスクが大きく、中国当局の政策オプションとはなりえないのではないか。

(3) 中国経済に活路はあるのか、帝国化(一帯一路)とハイテク覇権

中国経済のアキレス腱が明らかになったが、それを治癒、回避する手立てはあるのだろうか。

二つの可能性が考えられる。第一は中国の帝国化、第二はハイテク覇権の奪取である。

I. 一帯一路で帝国主義支配へ、人民元基軸通貨化で問題は解消

なぜ中国は時代遅れの帝国主義を推進するのか

いま中国で20世紀型帝国主義の挑戦が繰り返されようとしている。ホブソンは1900年のイギリスによる典型的植民地獲得の帝国主義戦争であるボーア戦争に従軍し、悲惨な戦争の原因を英国経済分析に求めた。彼の結論は富の分配の不公平が過少消費・過剰貯蓄、生産力の過剰蓄積を招き、過剰貯蓄のはけ口としての植民地が求められたというものであった。それは19世紀から20世紀の帝国主義諸国の経済構造の見事な分析であり、レーニンやケインズに引き継がれた。このホブソンの見た帝国主義の現実が、100年後の中国で再現されつつある、と言えるのではないか。

なぜ中国は突然対外膨張主義に転じたのか、力を蓄え爪をあらわにしたのか。習近平主席の中国の「中華の偉大な夢」とは何なのかを解くカギは、中国は過剰に蓄積した生産力のはけ口として、資源の調達先として、超過利潤獲得のチャンネルとして、海外市場の拡大が現体制維持に必須となっている、と考えられる。言うまでもなく帝国主義的膨張、囲い込みは、1945年の第二次世界大戦により完全に破たんした戦略であるが、中国は歴史が実証した失敗路線を歩もうとしている。挫折に向かう中国をいかにマネージするかは極めて大切であり、歴史が示すように宥和政策ではとどめることはできない。

人民元基軸通貨化で債務問題は解消

一方中国側の観点では、一帯一路の下で人民元経済圏が形成できれば、中国は基軸通貨国として通貨発行益(シニョレッジ)を享受でき、経常赤字・対外債務の増加はそのまま通貨発行となるので人民元安を引き起こす心配はなくなる。人民元が基軸通貨ドルに代替すると一気に中国のアキレス腱は消えるのである。

II. 最先端ハイテクで勝者総取りを狙う

最先端ハイテクで米国に伍すところまできた

長足の技術発展により中国はハイテクの覇者の地位を窺えるところまできた。中国が最先端のハイテクで競争優位を確立できれば、再度貿易黒字は増加し、懸念された外貨の不安もスキップできる。ハイテク優位は軍事技術に転嫁され軍事覇権も確立できる。米中覇権争いがハイテク覇権をめぐるものであることがわかる。

5Gでは世界最先行

新世代技術の要5G通信ではファーウェイを筆頭に、中国が技術開発と価格競争で大きく先行している。スマートフォン基地局装置の世界シェアはファーウェイ31%、ZTE11%と中国勢が42%でトップシェアを占め、エリクソン(27%)、ノキア(22%)、サムスン(5%)を大きく引き離している。5Gでは技術開発で米国に半年から1年先行、価格も2~3割は安いと言われている。WSJ紙は「5Gインフラ建設と投資で中国は世界の首位にある、2019年末のマクロ基地局設置数は、中国15万局、韓国7.5万局、米国1万局、英国2500局、オーストラリア1000局、と中国が圧倒する見通しだ」と報じている(2019年9月11日)。

スマートフォンでも中国勢の躍進が著しい。2010年代初頭はアップル次いで韓国サムスンが中国市場を支配していたが、シャオミ、オッポ、ファーウェイなどの中国勢が急迫、2018年には中国国内ばかりか世界のスマホ市場で中国勢がトップとなっている。後述のように米国は安全保障上の理由からファーウェイ絶対排除の姿勢を固め、各国に呼び掛けているが、日本、オーストラリアが呼応したのみ、ドイツ、フランス、イギリスまでも、ファーウェイ採用に傾いている。

スパコンでも中国の飛躍が目覚ましい。2016年世界最高速機種を開発、危機に陥っていた米国AMDの技術を取り込むことで、急速に性能アップさせた。AIにおいても、中国の軍民融合ドクトリン、デジタル権威主義によりすでに米国は、絶対的優位を失っている、と多くの専門家は指摘している。中国は「製造2025」でハイテク技術分野を絞り補助金など資源の投入を推し進めて、IoT最先進国を狙う。対象分野とは① 次世代情報通信技術、② 先端デジタル制御工作機械とロボット、③ 航空・宇宙設備、④ 海洋建設機械・ハイテク船舶、⑤ 先進軌道交通設備、⑥ 省エネ・新エネルギー自動車、⑦ 電力設備、⑧ 農薬用機械設備、⑨ 新材料、⑩ バイオ医薬・高性能医療器械などの10分野。

他国が追随できない資源の集中投入

分野ターゲティング、産業補助金、金融支援、官民学軍の技術連携、など政府主導で資源を集中投下させるやり方に対しては、米日欧の民主主義国は到底太刀打ちできない。政府のプランによる資源集中投入が、Winner takes all勝者総取りもたらし中国が世界市場を制覇した実例は、すでに太陽電池、ドローン、EVバッテリー、などで証明済み。ロボットAIで、それをさらに大規模に展開する意図がある。

III. 米中対決の前線

このようにハイテク最先端で中国が米国を引き離しはじめ、それが米国覇権を揺るがしている以上、トランプ政権に止まらず米国が一丸となって、中国排除にシフトするのは自然の成り行きであろう。

ハイテクはWinner take allの世界、自由貿易理論適用せず

ここで現在のハイテク・ソフトウェアなどの先端分野では、自由貿易の原則が通用しないことを、認識しておく必要がある。ハイテク・ソフトウェアとなどの先端分野のコストの圧倒的部分は過去投資の累積額(R&D投資、販売網、事業買収)であり、賃金・インフレ・為替などマクロ経済要因が影響力を及ぼす変動費は微々たるもの、マクロ政策調整が全く効かない。一旦ハイテク強国になってしまえば、どんなに通貨高、賃金高になってもその競争力は奪えなくなる。

これは履歴効果と呼ばれ、収穫逓増の原理が働く世界である。つまりWinner takes allとなり容易には破壊されない。国家資本主義の中国においては、国家的プロジェクトによるハイテク企業育成のパワーは、ファーェイの急速な台頭に見るように絶大である。中国の極端な重商主義が圧倒的に有利に働いたため、対抗するにはトランプ政権が通商摩擦を引き起こす必然性があったと理解される。

トランプ政権、力で対中ハイテク封じを決意

米国政府は世界最強の5G関連設備企業に飛躍したファーウェイを事実上締め出すという決意を固めたようだ。昨年8月成立の国防権限法に基づき、米国は政府機関のファーウェイ等5社等(ファーウェイ、ZTE、ハイテラ・コミュニケーションズ(海能達通信:通信機メーカー)、杭州ハイテクビジョン・デジタルテクノロジー(半国営世界最大の監視カメラメーカー)、浙江大華技術(民営監視カメラメーカー)、国防省等が中国政府の「所有/支配/関係」下にあると判断した企業)からの調達を禁止した。

そして今年5月16日にはファーウェイに対する米国企業の製品供給を禁止する措置を決定。パナソニック、アームなど米国政府の規制に従う企業が続出している。ファーウェイは新型の製品開発が著しく困難になる。ファーウェイは米国から禁輸される半導体を自分で開発できるとしていた。実際ハイシリコンという強力な半導体設計会社を傘下に抱えている。だがアームからの技術がなければ、新規開発は無理。またグーグルが無料で提供しているスマホOSのアンドロイドは利用できるが、グーグルからのアプリ技術が使用できなくなり、グローバルビジネスでは著しく不利になっている。今後さらに米国がファーウェイを追い込む手段としては、銀行取引の停止、ドル使用禁止という究極の手段もある。これまでファーウェイにグローバル金融サービスを提供していたHSBCとスタンダードチャータード銀行は、すでにサービスを停止し、今はシティグループのみがサービスを提供している、とWSJ紙は報じている(2018年12月21日)。

中国側が対抗できる手段はごく限られており、ファーウェイは経営困難に陥るだろう。この苛烈な米国の制裁に正当性はあるのか。本当にファーウェイは黒なのだろうか。イラン制裁違反を別とすれば、スパイチップの存在、バックドアからの情報窃盗などは十分な証拠がなく、言いがかりとの反論を完全には否定できない。しかし、米国にはファーウェイ拒否を正当化できる(正当化せざるを得ない)二つの理由がある。第一は2017年成立した中国の国家情報法により、政府が求めればスパイ行為をせざるを得ないという問題点である。そもそも中国企業にインターネットプラットフォームを委ねるわけにはいかないのである。第二はこれまでのファーウェイの台頭が不公正通商慣行の塊であったこと。一旦決めた以上、米国によるファーウェイ排除は揺るがないだろう。

宙に浮く半導体国産化プロジェクト

また半導体の国産化は中国の焦眉の課題であるが、ままならない。中国では海外メーカー4工場(稼働中のインテルの大連工場、サムスン電子の西安工場、SKハイニックスの無錫工場の3工場及び本年稼働予定のTSMCの南京工場)のほかに、国産メモリー3工場(① CXMTチャンシン・メモリー・テクノロジー(合肥市、DRAM)、② JHICC普華集積回路(泉省市、DRAM)、③ YMTC長江ストレージ(武漢市、3次元NANDフラッシュ)が、建設中であるが、その完成が見えなくなっている。

このうちJHICCはマイクロンテクノロジー技術不法コピー提訴により米国・日本企業からの設備購入が禁止され、立ち往生状態となった(2018年11月)。他の2工場も、今後、製造装置や材料の輸出規制が広がると見られ、投資が先送りされる可能性は高い。中国国産化をアメリカが阻止するために、半導体製造装置の中国への輸出規制や、中国合弁会社への技術供与を禁止する動きが強まっている。それを日本や欧州にも求めてくると思われ、日本政府・企業はそれに応じる模様である。

( 結 論 )

あらゆる分野で中国が世界最大の市場となり、世界景気変動を支配している。偏った輸出主導、偏った投資主導と懸念された中国の成長モデルは、今や消費主導。国民生活水準の急速な向上が、巨大な国内市場を形成している。貧富格差、都市農村の格差等は、成長により解決に向かっている。サービス化によって中国はインターネット経済でも世界の先頭集団に躍り出た。

ただそのコストはある。大きく積みあがった債務、急速に減少する経常黒字などが引き起こす金融困難である。これを突破できなければ中国は経済危機を経て中進国の罠といわれる停滞路線に入ってしまう。

困難突破の鍵は何か、第一はハイテク覇権。すでに5G技術などで世界最先端、AIでもシリコンバレーに伍す。ハイテクで再度輸出競争力が復活できるかもしれない。第二の突破の鍵は帝国化。一帯一路の先に人民元経済圏が出来れば、中国の債務は通貨発行に転換され、シニョリッジを生み出す金の卵と化す。米中貿易戦争でトランプの米国を慰撫、譲歩しつつ遠大な布石を打つ。3000年の歴史を持つ中国恐ろし、であるが、それは許さじと米国が立ちはだかる。香港、人権問題などが次の対中封じ込めの根拠とされるかもしれない。

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