国民の骨までしゃぶり尽くす金正恩政権のやり方
報道によれば、密漁は北朝鮮軍が運営している。北朝鮮の漁業は富裕層が一般の市民に募集し、中国製の大型の鋼鉄船で10~20隻の船団を組んで密漁に出ることが多い。漁に出るには軍の許可が必要で、しかも漁獲の一定量を軍に納めなければならない。
また金正恩政権は北朝鮮の沿岸海域での漁業権を一部、中国に売却している。その結果、中国の漁業者が過剰な操業を続け、北朝鮮海域の水産資源に大きなダメージを与えた。
国民の骨までしゃぶり尽くすのが、金正恩政権のやり方である。
10月9日付産経新聞の社説(主張)は「漁船の乗組員約60人は海に投げ出されたが、取締船の救命いかだで全員救助された」と書き、「取締船が全員の救助救命を果たしたことは立派である。海難救助は人道上当然だ」と指摘する。
このまま日本側の救難救助を褒めたたえていくのかと思ったが、違った。
助けられたにもかかわらず、謝礼すらしない無礼
「その一方で乗組員を現場で北朝鮮側に引き渡し、事情聴取や身柄拘束を行わなかった対応は疑問である」と水産庁の対応を批判する。見出しも「北朝鮮漁船の沈没 『大和堆の守り』練り直せ」である。
産経社説はこうも指摘する。
「北朝鮮のような無法な国は抗議など何の痛痒も感じまい。乗組員全員を易々と帰すようでは毅然とした対応とはいえない」
「日本は他の海域では、外国漁船がEEZで違法操業すれば漁業主権法違反の容疑で拿捕し、船長を逮捕したこともある。なぜこの海域では摘発しないのか」
沙鴎一歩も事情聴取や身柄拘束を行うべきだったと思う。このままでは金正恩氏になめられるばかりだ。
北朝鮮側は助けられたにもかかわらず、正式な謝礼の言葉はない。無礼な国だ。
さらに産経社説は書く。
「自民党の水産関連会合では『こんな対応ではなめられる』と懸念の声があがった。中国や韓国も日本の弱腰を注視していよう。ロシアは自国のEEZで違法操業する北朝鮮漁船を摘発し、9月以降800人以上を拘束した」
「中国や韓国も日本の弱腰を注視」とはその通りである。主張すべきときにはきちんと言う。そうでなければ外交上の国益は生まれないし、これが外交の基本でもある。
「警戒監視の態勢を強めることが重要」との指摘は弱い
次に10月10日付の読売新聞の社説を読んでみよう。
冒頭で「海洋の権益を脅かす行為が、危険な衝突事故に発展した。政府は毅然と対処せねばならない」と訴え、続いてこう指摘する。
「日本の権利を害する振る舞いは看過できない。政府が北朝鮮に抗議したのは当然である」
「8月には、武装した北朝鮮の高速艇が水産庁の取締船を威嚇し、周辺海域にいた日本漁船が退避したこともあった」
「日本の漁船の安全にも影響が及びかねない。政府は警戒監視の態勢を強めることが重要だ」
「日本の権利を害する振る舞いは看過できない」という主張はいい。だが「政府は警戒監視の態勢を強めることが重要だ」との指摘はどうだろうか。産経社説の主張に比べると、弱い。格段の差がある。
「日朝関係への影響を総合的に考慮した」
見出しも「北朝鮮漁船衝突 監視態勢を強化し権益守れ」である。監視だけでは北朝鮮という、ずるく、したたかな国家を相手にするには作戦不足である。
読売社説は「政府は今回の漁船について、違法操業が確認されなかったとして、乗組員の身柄を拘束しなかった。今後の日朝関係への影響を総合的に考慮したのではないか」とも書くが、「総合的に考慮した」などと評価している。読売社説はやはり安倍政権擁護から抜け出すことができないようだ。
読者のひとりとして沙鴎一歩はそれが悲しくてならない。ジャーナリズムである以上、政権を正面から批判する精神が必要である。
最後に読売社説は主張する。
「非核化を巡る米朝実務者協議は、膠着状態にある。米国が協議の継続を求めたのに対し、北朝鮮は『決裂した』と主張している。完全な非核化を回避しようとする姿勢は、相変わらずだ」
「北朝鮮が経済を再建するには、核を放棄し、制裁の解除につなげるしか道はない。金正恩政権はその現実を自覚するべきだ」
沙鴎一歩も金正恩氏にこう言いたい。核・ミサイルの開発中止が国を潤す、と。幼い頃から海外で高度な教育を受けてきた金正恩氏には、それが分かっているはずだ。
「自国の食糧事情を直視し、非核化の道を進むべきだ」
東京新聞(10月8日付)の社説は「北漁船が衝突 生活向上には非核化を」との見出しを掲げ、こう指摘する。
「食糧問題解決のためには、国際社会からの支援を受けることも重要だ。しかし、北朝鮮への支援は逆に先細っている」
「これは、核開発やミサイルの発射実験によって、国連安全保障理事会から厳しい経済制裁を科せられていることが影響している」
北朝鮮がいまの経済難から脱出すには核・ミサイル開発を止めて国際社会からの制裁を解く以外に道はない。
東京社説の「自国の食糧事情を直視し、非核化の道を進むべきだ」という最後の訴えはよく分かる。金正恩政権は国民の生活を直視すべきだろう。
(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)