

【「4万Bq/kg超の場所には帰れない」】
反対尋問では、国の代理人が「なぜ避難指示が解除されたのに戻らないのか」という点を、遠回しな表現ながら盛んに質した。
「(今野さんの避難元は)2017年3月31日に避難指示(居住制限区域)が解除されています。当時の住まいに戻るとすれば、昨年4月に開校した『なみえ創成中学校』に通う事になると思います。なみえ創成中学校に設置されたモニタリングポストの測定結果は現在、約0・08μSv/hである事はご存じですか?」
同校のある幾世橋地区は原発事故直後から空間線量が比較的低く、避難指示も最も低い「避難指示解除準備区域」。2013年12月31日時点の空間線量は0・24μSv/hだった(同じ日の「中上ノ原町営住宅」の空間線量は、約10倍の2・39μSv/hだった)。「居住制限区域」に指定された今野さんの避難元自宅とは4~5キロメートルほど離れており、歩けば1時間近くかかる。そのうえ、開校にあたっては旧浪江東中学校を大幅に改修。校庭に人工芝を敷くなどの工事が行われたため、空間線量が低いのは当然とも言える。
しかも、今野さんには最も心配なデータがあるのだ。
京都大学大学院工学研究科原子核工学専攻の元教務職員・河野益近さんが昨年、避難元自宅周辺の土壌を調べたところ、放射性セシウムの合算で4万2520Bq/kgもの汚染が確認されたのだ。今野さんは法廷で「(1平方メートルあたり)250万ベクレル」と何度か口にしたが、それは換算値。河野さんは「単純換算は出来ないが、イメージとして、そのくらい酷い汚染なんだという意味で受け止めて欲しい」と語る。
ちなみに、河野さんは福島県外の国道でも土を調べているが、8000Bq/kgすら超える結果は出なかった。それだけでも、4万Bq/kgを超える汚染の酷さが良く分かる。
今野さんの避難元自宅は地震による損傷はほとんど無く、放射性物質による汚染以外は非常にきれいな状態だ。戻れるものなら戻りたい。しかし、戻れば放射性微粒子が待ち構えている。子どもがそれを吸い込んで内部被曝してしまうのではないかと考えたら、今野さんに「戻る」という選択肢は無かった。既に解体申請を済ませており、来月にも環境省の立ち会い調査が行われる。
「除染しても自宅周辺にそれだけの汚染が存在するんです。子どもを病気にしてしまいます。だから帰れないのです」
(了)