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「号泣です」「涙腺崩壊」……“AI美空ひばり”が歌う新曲『あれから』に、なぜ感情を揺さぶられるのか - 矢部 万紀子

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 美空ひばりさんの新曲『あれから』がすごく話題になっている。正しくは、NHKスペシャル『AIでよみがえる美空ひばり』で発表された、「AI美空ひばり」さんの新曲だ。でもツイッターの世界では「#美空ひばり」が盛り上がり、トレンド入りしたそうだ。

【写真】1980年10月、ファイナルコンサートでの山口百恵

 検索した。賞賛の表現として、「泣いた」と書いている人が多かった。「号泣です」「涙腺崩壊」などなど。「紅白歌合戦出場希望」などのリクエストと並んで「iTunesで売られないかな…」もあった。世代を超えて、感動が広がっている。

美空ひばり

 私もオンエアを見た1人だ。AI技術の解説がわかりやすく、明かされた美空さんの「歌唱の秘密」に感心した。AI美空さんの声と歌詞が、くたびれ気味の58歳(私です)の心にしみた。「私も歳をとりました……振り向けば幸せな時代でしたね」。現在と過去を肯定してくれる歌だった。さすが秋元康さん。

 番組を見ながら、ずっと頭の端っこで考えていたことがある。「山口百恵さんだったら、どうだろう」。

百恵さんは確かに人生を歩んでいるが、新曲は聞けない

 百恵さんのファンであると自覚したのは、彼女が1980年に引退してからだ。喪失感と引き換えに知った愛。寂しい。美空さんは、89年に52歳で亡くなっている。ファンの喪失感、寂しさはさぞやだったと思う。それから30年の長い不在。

 それにしても、まさか自分が美空さんの年を超えていたとは。番組で享年を知り、驚いた。美空さんは物心ついて以来、ずっと「大御所」だった。その点、百恵さんはデビューの時から知っている。しかも、これは何百回と自慢していることだが、私は2つ年下ではあるが、百恵さんと同じ誕生日なのだ。

 引退から3年後に就職して、LP(!)を買いまくった。全楽曲コンプリートのCD集が出た時も、即買いした。長男の三浦祐太朗さんによるカバーアルバムも買い、この夏は三浦百恵さんのキルト作品集『時間の花束 Bouquet du temps』も買った。百恵さんは確かに人生を歩んでいるが、新曲は聞けない。AI美空さんの新曲が出来ていく過程を見ながら、「AI百恵さんの新曲が出たら、私は何を思うかなあ」。そんなことを考えていた。

AIの歌声は「同時代を生きてきた人の歌と思えない」

 番組には、美空ひばり後援会の女性たちが出ていた。「全国各地の公演にも足を運び、ひばりさんの晩年は裏方として支え、病室にも足しげく通っていた」と説明されていた。年齢に幅はありそうだが、生きていれば82歳の美空さんより若く見えた。途中経過のAIの歌声を、彼女たちが聴くシーンがあった。「違う」と皆が口を揃え、中の1人はこう言っていた。

「ひばりさんの歌を聴くと、ものすごい濃い空気の中にいるような気持ちになるんですけど、空気が足りない」

 うまさが足りないという指摘だったのかもしれない。同じ歌声を聞いた秋元さんは、「正確に歌っても、感動はさせられない」ということを言っていた。でも私は、「濃い空気」とは同時代感なのだと思った。一緒に生きてきた人の歌と思えない。そう言っているのだな、と。

 百恵さんの歌を聞く、または脳内で再生する時、私はその時々の自分を思い出している。『絶体絶命』がはやったのは、高校3年の時。「はっきり、片をつけてよ」と歌う百恵さん。受験勉強に身が入らない自分。「このままじゃ、片がつかないよなー」。どんよりした当時の気持ち、はっきり思い出せる。

 取るに足らない記憶だ。でも、そんなささやかな記憶の積み重ねと共に、私の中に百恵さんがいる。一緒に生きていた。時代を共有していた。小さな人生のシーンと共に、心に刻まれる人を「スター」と言うのだと思う。一緒に生きてきたのに、思い出はもう更新されない。そういうスターについて、ずっと考えていた。

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