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「革命」の生起とは?香港騒動の本質がこう変わる ジャッキー・チェンなど有名芸能人が香港警察を支持するワケ - 立花 聡 (エリス・コンサルティング代表・法学博士)

香港のレストランは黄青の二色に分けられる

(Racide/gettyimages)

 香港社会の分断が進んでいる。

 発端は芸能界だった。香港デモについて有名俳優やアイドルが相次いで香港警察への支持を表明した。たとえば、ディズニー映画「ムーラン」の実写版で主演を務める女優劉亦菲(リウ・イーフェイ)が、香港デモを巡り警察への支持を表明した。これに対抗して一部のネットユーザーは「ムーラン」にボイコットするよう呼び掛けた。

 劉のほかにも、ジャッキー・チェンや黄暁明(ホアン・シャオミン)、李冰冰(リー・ビンビン)などの有名芸能人が相次いで、香港政府と警察当局への支持を表明した。芸能人がなぜ自ら政治的立場を表明するのか。一部の専門家は、中国当局は彼・彼女たちの知名度や影響力を利用して、世論を誘導する狙いがあると見ている。

 一方では、少数ながら、その反対側に立つ芸能人もいる。香港の人気歌手で民主派活動家の何韻詩(デニス・ホー)さんはその1人。彼女は国連人権理事会で演説を行ったりして精力的に活動し、2014年の雨傘運動を支持したこともあって、中国本土での活動が全て禁止されている。

 香港社会の分断は芸能界にとどまることなく、各方面に拡散している。

 香港の「黄青二色店舗分布マップ」(https://www.restart-hk.com/ShopList.html)は、香港各区域別のレストラン等の商業店舗を、民主派(黄色)と親中派(青色)に区分掲載し、リアルタイムで更新している。市民から投稿された情報を元に分類し、ランキング評価を行っている。

 黄色店舗は、デモ・民主化運動支持のポストやネット投稿だけでなく、実際にデモ参加者に無料の食事や飲料を提供したり、参加者の庇護に協力したりすることで評価を得ている一方、青色店舗は中国や香港政府・警察支持の立場を表明したり、従業員のデモ参加に妨害措置を講じたりすることで「親中派」に分類されている。

 たとえば、話題の牛丼チェーン「吉野家」に関しては、以下のようにコメント(抜粋)されている――。

「吉野家のスタッフが無断で『警察批判・侮辱』の告知を打ち出したことで解雇された。同社総裁が近日、香港警察を支持する大会に参加し、香港政府の決定と行動を全力支持すると表明した……」(10月8日現在情報)

 青色店舗の傾向としては、①中国に出店・事業展開しているチェーン系列、②「商売の邪魔を排除したい」志向者、③中国本土出身者オーナー、④左派左翼と大きく4つ分類できる。

 香港事業にかかわる日本企業や日本人の姿勢もセンシティブになってきている。私の周りを見ると、立場の表明を避けて沈黙を守る人もいれば、香港デモに反対し、中にはデモ参加者を露骨に批判・非難する日本人も散見される。日本企業・日本人の場合、ほとんど上記①や②の部類に属している。遵法に対する潔癖的な固定概念もあり、経済的利益が損害されたことで不満を持ち、ないし憤慨している者が多い。

香港人の違法行為は「革命」で正当化される

 デモの長期化・過激化によって、香港現地の観光業や小売業だけでなく、他のビジネスにも幅広くマイナス影響が拡大しているのは事実である。これに関して、損害をこうむる当事者として快く思う者は誰もいない。心情的によく理解できる。ただ視座を少し変えてみると、香港の騒乱がもし、名の通り「革命」だとすれば、異なる景色が見えてくるはずだ。

 革命となれば、違法も暴力も容認される。それを否定した場合、フランス革命の暴力も、民主主義の源流も否定されるだろう。そうした文脈で考えれば、ギロチンは革命における正義と解される。

 違法行為は現行法枠内の話であって、革命とは法秩序の再建であり、現行法違反の概念がなくなる。中国共産党でさえ当時の中華民国法を破って蜂起や暴力を以て政権を奪取し中華人民共和国を建国したのであるから、その正統性が認められるのであれば、起源となる違法や暴力も否定されるべきではない。実定法には限界があるのだ。

 「革命」とは何か。毛沢東がこう定義した――。「革命とは、宴席を設けてわいわい食事することではない。文章書きでもなければ、絵描きでも刺繍でもない。あんなに洗練された雅であってはならない。あんなに落ち着いて、優雅に、穏やかに、素直で、恭しく、控えめにしてはならない。革命は暴動だ。ある階級が別の階級を転覆する暴力に満ちた強烈な行動である(毛沢東『湖南農民運動に対する考察報告』)。

 歴史を見ても、毛沢東の言説は間違っていないことが分かる。

 違法という意味で考えると、香港のデモ参加者はほぼ全員違法者である。まず、当局未許可のデモや集会に参加したことで、違法となる。次に、マスク装着者は「覆面禁止法」に抵触し、これも違法である。さらに、道路占拠、公共施設・設備破壊、財物毀損、公務執行妨害、中国国旗毀損……。言ったらきりがない。彼らは全員逮捕、起訴、投獄に値する。彼らの行為は、法秩序の破壊である。

 しかし、これが「革命」だとすれば、話が違ってくる。繰り返すが、革命というのは、現行法秩序の破壊と新秩序の確立である。失敗したら投獄・処刑されるが、成功したら政権を握る。「勝てば官軍負ければ賊軍」というわけだ。

悲壮感漂う「革命宣言」、共産主義との対決か?

 ここまでくると、香港当局はデモの許可をほとんど発行しなくなった。デモさせると暴力に発展するから許可しないというのが当局の言い分だが、これに対して市民側は、政府がデモを許可しないから、違法デモの強行やゲリラ戦的な集会・抗議活動しか選択肢がなくなったと主張する。

 対話が必要だが、対話の道が閉ざされている。対話しても、議論にならなければ、結論も出ない。行政長官に決定権がないからだ。現状では、警棒、催涙弾、実弾、逮捕、裁判といった手段にのみ依存しているから、デモ参加者たちの退路を断ち、違法域に追い込んでいる。これは非常に危険である。詰まるところ、革命という窮地に追い込んでいるようなものだ。

 市民運動に打ち出されたスローガン「時代革命」という言葉だが、多様な解釈ができる。革命とは、「時代に順応するため」のものか、それとも「時代を変えるため」のものか、本質的な意味が異なる。それが徐々に後者に近付くと、事態が深刻化する。

 「Give me liberty, or give me death!(自由か死か)」。香港政府の「覆面禁止法」の制定に対して、香港12校大学学生会が10月6日に声明を出し、「港共政権が『覆面禁止法』を制定し、白色テロを作り出し、法治を崩壊させ、香港における独裁統治の幕開けを宣告し、『警察社会』のさらなる浸透に乗り出した」と強く抗議した(10月6日付、仏ラジオ・フランス・アンテルナショナル(RFI)オンライン中文版記事)。

 声明最後の一節――。

 「自由か死か。香港人は自由のためなら、生死を度外視する。たかが1本の法律である『覆面禁止法』、これが人民に与えたのは恐怖ではなく、自由と尊厳を死守する決心である。大学学界は香港人に呼びかける。独裁政権に屈服しない。命をかけて戦おう。栄光が香港に戻る日まで戦い続ける」

 悲壮感漂う「革命宣言」ではないか。注目すべきは「港共政権(香港共産党政権)」という称呼。市民の分断、社会の分断、そしてイデオロギーの分断から、最終的に共産主義との対決になるのか、これから注目される。

 「覆面禁止法」の制定が発表された10月4日の夜、市民運動のスローガンは、「香港人、加油(がんばれ)」から「香港人、反抗」に変わった。

 米国ではトランプ大統領が9月24日、国連総会で演説。共産主義との闘争宣言を発した――。

 「今、われわれの国家が直面するもっとも厳しい挑戦は、社会主義という幽霊だ。社会主義は、社会を破壊するものだ。ベネズエラがわれわれに警鐘を鳴らしてくれた。社会主義と共産主義が目指すのは正義でもなければ、平等でもない。貧困脱出でもなければ、国益でもない。社会主義と共産主義が求めているのは、国益ではない。彼たちが求めているのはたった1つ、それは支配者の権力と利益だ。今日、私はもう一度繰り返す。これは既に何回も繰り返しているが、米国は永遠に社会主義国家にならないことだ。過去の1世紀、社会主義と共産主義が1億人も殺害した……」

 自由主義陣営と社会主義・共産主義陣営の対決、東西冷戦の終結は決してフィナーレではなかった。

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