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特集
ネットメディアの現在地
2009年10月にスタートしたBLOGOSは、今月10周年を迎えました。そこで今回の特集は「ネットメディアの現在地」と題して、業界のキーマンたちの声を集めました。みなさんが普段触れているネットメディアやプラットフォームがいまどのような課題を抱え、未来を描いているのか。ぜひ覗いてみてください。

ネットメディアは社会的責任を果たせるか 西田亮介氏に聞く、政治とメディアの現在

  • 2019年10月10日 11:00
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参院選でもさまざまな話題を呼んだネットを活用した政治家の情報発信。インターネット選挙運動の解禁は2013年からだが、年を追うごとに政党、政治家のSNSでの発信は活発化してきた。

これにともない、ネットニュースでも話題を呼ぶ政治家たちの顔を見ることが増えてきている。こういった現状を踏まえ、ネットメディアは今後どのように政治と向き合っていくべきだろうか。政治とメディアに関する著作を多数持つ、東京工業大学准教授の西田亮介氏に話を聞いた。

東京工業大学准教授の西田亮介氏

キーワードは大規模化と戦略化 メディアも巻き込まれる政党のネット戦略

—— メディアの立場から見ると、今年の参院選では政党によるネットへの広告出稿が多かったように思います。政党・政治家のネット利用が活発化したきっかけはなんだったのでしょうか

やはり、2013年の公職選挙法改正によるインターネット選挙運動の解禁が大きな転機ではないでしょうか。従来の選挙運動に加えて、ネット向けの対策も必要になりました。その後の政党の発信については、戦略化と大規模化という2つのキーワードでまとめることができると思います。

現在は、単にネットに情報を出せばいいという時代ではなく、戦略性を持って情報発信をしていかないと、他の政党や候補者と差別化ができなくなってきています。そのため、専門家や専門的な企業の協力を得ながら、政治の側にとって効果的な情報発信の方法が試行錯誤されています。これが戦略化です。

大規模化というのは、付随して専門家や関連企業の協力を得るためにコストがかかるため、徐々に(予算)規模も大きくなっているということです。従来型の選挙運動も必要なくなったわけではありませんので、実質的には公選法改正直前に散々いわれたような選挙運動に必要な資金の低減にはつながっていない印象です。

—— 先日、自民党が女性ファッション誌などと組んでおこなった「#自民党2019」キャンペーンはネットでも話題になりました。

「#自民党2019」は政党による広告やキャンペーンのひとつの到達点といえると思います。本キャンペーンではTシャツプレゼントが注目を集めて炎上する結果になりましたが、SNSやインフルエンサーの活用など、さまざまな手法を組み合わせておこなわれた総合的なキャンペーンでした。クリエイティブも新しく、政党のSNS活用事例としては類を見ないものでした。結果として「自民党」という名前を広く周知するという観点からいえば、十分効果的だったと思います。

さまざまなキャンペーンを展開した「#自民党2019」。画像は公式サイトより

もっとも、こういったことは自民党だけがやっているわけではなく、現在では各野党もだいたいなんらかの広告代理店とつながっています。その他、れいわやN国といった小規模な政党も、コストは小さくてもやり方を工夫することで、効果的なキャンペーンをおこなっています。

政党の広告は規制すべき?

—— 「#自民党2019」では、政党の広告を制限するべきという声もありましたが

まず、政治広告の規制については、現状においても公職選挙法や放送法等の範囲内で制限が存在するということを確認しておく必要があります。ただし、広告についても、制限の線引きのひとつとなっている「選挙運動なのか、政治活動なのか」という区別が、一般の有権者目線で考えた場合におそらく区別が難しいという問題があります。これがそのままでいいのか、というそもそも論は議論されるべきかもしれません。

また、広告規制について考えるときに、ネット上の政治広告だけを対象に考えてしまうとバランスが悪くなってしまいます。たとえば電話は規制対象から抜け落ちていますし、戸別訪問は規制されているものの、Twitterなどを使えばDMで直接情報を送ることもできます。現在の規制の対象や、そうでないものなど、それぞれの行為の意味についても放送法等の隣接分野や規制も含めて、業界団体中心に総合的に考えたほうがいいのではないでしょうか。

—— 西田さんから見て、規制は必要だと思いますか

短期的には政治広告に関する現状以上の直接規制はあまり必要ないのではないかと思っています。ただし、相当程度バラつきがあるとされる、規制の運用について指針の統一を検討するといった作業は必要だと思います。そうすると、公職選挙法だけでなく関連する放送法なども横断的に見直す必要が出てくるのではないでしょうか。

たとえば、YouTubeを使った選挙活動には特段の規制はありません。その一方で、視聴者数の少ない地方局での選挙運動は規制の対象となっています。ですが、YouTubeでバズったときの視聴者数と、地方局の視聴者数、どちらが影響力が大きいのかというのを考えたときに、YouTubeのほうが多いこともあり得そうです。仮に視聴者数を影響力だとしたとき、影響力が小さいはずの地方局には制限があって、YouTubeには制限がないということになってしまう。果たしてこれでよいのかという問題です。

規制から外れたままのYouTube 写真:Unsplash

日本の選挙や選挙に関連する周辺規制を棚卸しながら、選挙制度や民主主義観、それらを支え、涵養するための制度はどうあるべきかという議論はあってもよいのではないでしょうか。

SNS上手な政治家たち ネットメディアとの関係はどうあるべき?

—— ネットメディアについても聞かせて下さい。SNSを巧みに使う政治家が増えてきた結果、ネット媒体でもそういった方が取り上げられることが増えています。こうした現状について、どのように考えていますか

ネットメディアと一口に言っても、媒体ごとに性質が相当違いますよね。とにかく収益を上げたいという媒体もあれば、ある種の公共的役割を果たしたいというところもある。それによってやるべきことが変わってくると思います。

公共的な役割を果たしたいと考えているメディアにとっては、耳目を集めるような対象を取り上げるだけでは、目的を達成したとはいえないかもしれません。一方でやはり営業の自由というのもありますし、面白おかしい対象が出てきたときにそれに飛びついてしまうというのはネットの性でもあります。

TwitterやYouTubeを使って話題を振りまく政治家や候補者も続々登場している 写真:GettyImages/BLOGOS編集部

—— とはいえ、あまりに偏りが生まれてしまうと、バランスを取るような規制が入る可能性もあるのでは?

2つあり得ると思います。ネットがあまりに影響力を増しているから規制しようという考え方と、伝統的なマスメディアというのはいま影響力が落ちつつあるので、こちらを規制緩和してもいいのではないかという考え方です。公正な取引や消費者保護の観点などでより強力な直接規制がかけられる可能性は否定できないと思います。

—— 先ほど話に出たYouTubeは最たるものですよね

YouTube以外にも、最近は投げ銭とライブ配信がセットになっているようなアプリも多数あります。これらを使えば、議員はそこから収益を得ることもできる。他方で、海外アプリなら政治資金や寄附の流れが見えにくくなってしまうかもしれない。そのときこのようなアプリをどう取り扱うかというのは今後問題になってくるかもしれませんね。

プラットフォームの社会的責任は問われる

—— どちらかというと、パブリッシャーと呼ばれる各媒体よりも、プラットフォームの役割が重要視されてくるということでしょうか

表現の自由、言論の自由があるので、何をどう報じるかという部分に直接規制を入れるのは難しいと思います。しかし現状、プラットフォームを介さなければ、あやしいコンテンツも実質的に大規模流通はしないですよね。そのため、プラットフォーム事業者が一定の社会的責任を果たすべきだということは、従来から指摘されています。

またそれとは別に、フェイクニュースの拡散をどう防ぐかという話もあります。フェイクやデマの拡散によって消費者が誤った認知を持って消費活動を行う可能性があるわけですから、消費者保護の文脈でもなんらかの対策が必要だという話に発展する可能性はあります。

—— フェイクやデマも表現の自由とも関わってくるので、早々の対策は難しいという考えもあります。そうするとユーザー側がどう情報を摂取するかということも重要になってくるのではないでしょうか

最近はユーザー側にそういったコストを求めるのは望み薄だと考えています。啓蒙コストを企業がどれだけ払えるのか、払う気があるのかという問題もありますよね。携帯電話会社やIT系企業などでCSR的にやっている企業はもちろんありますが、実効性から考えれば焼け石に水、というのが実際のところのように思いますし、また企業にとってはそういった活動自体がある種のエクスキューズでもあるわけです。

したがってよく言われるような、メディアリテラシーで対抗するというのは理念としてはわからなくはないけども、実践的には難しいという認識です。それよりもプラットフォーマーにどのような規制をかけていくか、ジャーナリズムをどうやってバージョンアップさせていくかというアプローチのほうが実質をともないそうに感じます。

失われつつある、政治とメディアの緊張関係

——ジャーナリズムのバージョンアップとは、どういうことでしょうか

政治の情報発信というのは戦略化と大規模化を遂げてきたけども、ジャーナリズムのアジェンダセッティングや権力の監視機能、ユーザーに対してコンテンツをデリバリーする能力の改善というのは、それに比べて著しく遅れているように見えます。

強固な経営基盤を持つと思われていた全国紙でも苦境が報じられ始めている

現状、そのことによって本来ならあるべき政治とメディアの緊張関係というのが政治優位な形で失われているといえるかもしれません。テレビでいえばNHK以外の民間事業者のジャーナリズムというのはある種の理念と建前みたいなところがあるともいえますし、ここをどう現代風に改善していくかというのはよく考えていく必要があると思います。

—— ジャーナリズムの担い手でもあったマスメディアの経営状態が苦しくなってきているという報道も増えてきています

主に新聞ですね。民放の報道部門は基本的にコスト部門だと認識されていて、従来のルーチン以上のことをやるには手が足りない状況だと聞いています。また、新聞は発行部数を下げつつ、信頼されていないメディアになりつつある。これは書かれていることの実際の信頼可能性とは別の水準で、「信頼できない」という人が増えている。そのことによってメディアとしての影響力も下がっているといえます。ただ現役世代の、とくに若い人の少なくない人はだいぶ「紙の新聞」に馴染みがなくなっていますから、実際には読まずに「信頼できない」と考えている人も少なくなさそうです。

——最近はテレビ局と組んでネットで動画放送をおこなう「AbemaTV」のような存在もありますね

AbemaTVのとても興味深いところは地上波的な文脈とネットのノリとがうまく融合していることだと思います。日本人はやはり小さい頃から地上波のテレビ番組とその文法、タレントに馴染みがあるので、テレビ朝日的手法とネット的手法の合流が企図されているのでその慣れ親しみがうまく活用されている印象です。人材的にもテレビ朝日の人材がAbemaTVを経験して、また地上波に戻るなど、うまく循環している印象があります。制作サイドもそうですし、『報道ステーション』の徳永さんや小松さん、フリーになりましたが、小川さんなども、地上波とネットの両方がわかるアナウンサーが増えていますよね。両方のよいところをうまく総合できるポテンシャルを秘めています。一社提供でありながら多くのチャンネルを展開し、将来的には他局制作番組も提供できるプラットフォームになる可能性や、海外配信も始まっていますから、日本の正規コンテンツの海外展開の窓口としての可能性も持っています。

一方、コンテンツのクオリティ面ではまだ試行錯誤の段階で、まだ安定していないところはあります。地上波よりも過激になりがちです。わかりやすくいうと、深夜番組のコードで制作された番組を、ゴールデンタイムに流しているような状態です。仮にAbemaTVがこれからもっと多くの人に見られるようになっていったとき、公益性や公共性の観点から、このままで大丈夫なのか、という議論は出てくるでしょう。

ニュースチャンネルを開設するなど、意欲的なAbemaTV

——最後に、これからのネットメディアに求められるものは何だと思いますか

日本ではテレビ局が新聞社のグループであることからもわかるように、およそ150年間、新聞社が質の高い一次情報を発信し、ジャーナリズムを担っていたといってもいいはずです。しかし、若い世代のみならず、その親世代も読まなくなっているので、新聞を購読するという発想自体がなくなってきている。そうなってきたときに、誰がジャーナリズムを支えるのか。ネットがかわるのか、新たな方法を模索するのか。新聞社の支局網に支えられた、質の高い一次情報は誰が、どのように収集、流通させるのかという点も問題になるでしょう。

いずれにせよ、マスメディアの衰退が徐々に見えてきているなかで、取り返しのつかない地点を越える前に、ネットメディアも少なくとも従来マスメディアが担っていたような、質の高い情報流通のあり方と社会的責任、コスト負担の自覚がいっそう求められると思います。

プロフィール
西田亮介(にしだ・りょうすけ):
東京工業大学准教授。博士(政策・メディア)。専門は社会学、公共政策学。情報と政治、若者の政治参加、情報化と公共政策、自治体の情報発信とガバナンス、ジャーナリズム、無業社会等を研究している。近著に『政治はなぜわかりにくいのか』(春秋社)『情報武装する政治』 (KADOKAWA)など。

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