記事

元NHKアナが抱えていた薬物依存症者への偏見

2/2

「自分が依存症であると認める」ことが何より難しい

また、発言をする際に「依存症の塚本です」と必ず名乗らなければならなかったことも、自分の中で引っ掛かった一つです。12ステップの一番はじめに「アディクションに対して無力であり、生きていくことがどうにもならなくなったことを認める」というステップがあります。依存症の人にとっては、この「認める」ことが何より難しいと言われています。

依存症の症状が進んでいくと、本当は飲むのも打つのも辛いのに、楽しかった昔の記憶から、まだまだ酒やギャンブルをやり続けたい。また普通に飲めるようになると信じ込み、依存症であることを全力で否定します。だからこそ、認めることが重要で、自分が依存症であると認められないと、その先に進むことができない大事なステップと考えられているのです。

そのため、自ら認めるという意味を込めて「依存症の塚本です」と自ら名乗るのは大事なことでした。私だけ言わないわけにはいかないし、でも何だか嘘をついているような気がして、申し訳ないような複雑な感情です。

担当のSさんに「薬物の問題がある塚本と名乗るのではダメですか?」と提案もしましたが、「その方が、他のみんなが動揺するのでやめましょう」と言われました。今思うと、利用者の仲間たちは、こんな私に文句ひとつ言わずに受け止めてくれたことに感謝しかありません。

「あいつは依存症ではないと公言しているのに、なぜこの施設にいるのか!」と感じた人もいたかもしれませんが、そのような声は私の耳に一切入ってきませんでした。みんなの配慮にもかかわらず、「ここは本当に自分の居場所なのだろうか?」と私は思い詰めるようになります。

「自分はこの人たちとは違う」と無意識に思っていた

状況が変わったのは、施設に入って2カ月ほど経った頃です。

月に一度行うプログラムの進捗状況を確認する面談中のことでした。相談員の方に、改めて私の悩みを話したところ、「依存症か依存症でないか、そんなに大切なことですか? 薬物で問題を起こして仕事を解雇され、生活が立ち行かなくなった。ここにいる他の仲間と、そんなに違いはないと思いますよ。もっと共通点を探してみてはどうですか?」と諭されたのです。

確かに松本先生も施設に送り出す時に、「薬物で失敗した仲間がたくさんいる」と言っていました。せっかく施設に入って、やり直す決心をしたつもりでしたが、どこか心の中で「自分はこの人たちとは違う」という、いやらしい意識があったのかもしれません。

この言葉がきっかけとなって、少しだけモヤモヤしたものが晴れた気がしました。どうして自分はこの依存症の施設に通っているのかということを、ようやく真剣に考えるようになったのです。

施設のみんなとの共通点を探してみると、結構たくさん出てきました。酒が止まらなくて会社をクビになり、今もその会社のある場所を歩けないという人。私も放送センターのある渋谷は、知り合いに会うと思うと怖くて歩けません。同居している家族に対して、負い目がある人もいました。私も2年限定の予定だった姉との同居を解消できていないという負い目があります。

人と共感し合うのも悪いものじゃない

共通点について、もう一つ印象に残っている出来事がありました。ある日「お互いの共通点と相違点を探してみよう」というグループプログラムをやった時のことでした。5人くらいのグループで、最初のうちは、血液型とか、スイーツが好き? なんて、他愛のない共通点をワイワイ探していたのです。すると、突然仲間の一人が「死にたいと思ったことがある人は?」と聞いてきました。


塚本堅一『僕が違法薬物で逮捕されNHKをクビになった話』(KKベストセラーズ)

私も含め、全員の手があがります。一瞬だけ空気がシンとしました。すぐに誰かが「でもよかったね。死ななくて」とつぶやいたことで、また元の賑やかな会話に戻ったのです。この出来事は、私がここにいても良いのだと、初めて感じることができたものでした。

これまでの人生を振り返ると、生きていく上で、人と共感することにあまり意味を感じていなかったように思います。学生の頃は、「アナウンサーになるために個性を磨け」と言われ、アナウンサーになったらなったで、「良いアナウンサーになるには個性を大事にしろ」と言われ続けてきました。

私は当時、個性というものを、人と違うことが良いことだと思っていました。そもそも「個性的」であることと「共感を大切にする」こと自体、同列にするものでもありません。遅ればせながらようやく人と共感することが悪いものじゃないと、気がついたように思います。

----------
塚本 堅一(つかもと・けんいち)
元NHKアナウンサー
1978年生まれ。明治大学文学部卒業。2003年、NHK入局。京都や金沢、沖縄勤務を経て2015年に東京アナウンス室に配属。2016年に危険ドラッグ「ラッシュ」の製造・所持で逮捕され、NHKを懲戒免職となった。現在は依存症の自助グループに参加しつつ、依存症予防教育アドバイザーとして、依存症関連イベントにて司会や講演活動を行っている。
----------

(元NHKアナウンサー 塚本 堅一)

あわせて読みたい

「薬物問題」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    埼玉県でマスク30万枚が野ざらし

    SmartFLASH

  2. 2

    ひろゆき氏 五輪の開催は難しい

    西村博之/ひろゆき

  3. 3

    安倍首相の暴走許す自民党は末期

    田原総一朗

  4. 4

    中韓が日本産盗む?対立煽る報道

    松岡久蔵

  5. 5

    新型コロナで公共工事中止は愚策

    近藤駿介

  6. 6

    権限ない休校要請 保護者は困惑

    BLOGOS しらべる部

  7. 7

    在宅勤務に賛成して休校否定の謎

    やまもといちろう

  8. 8

    政府の無策が招く東京五輪中止

    渡邉裕二

  9. 9

    マラソン決行 主催の説明に呆れ

    WEDGE Infinity

  10. 10

    ワタミ 弁当無料宅配で休校支援

    わたなべ美樹

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。