記事

賑わう飲み屋街・野毛と客引きが目立つ福富町 横浜で「ハマの盛り場」を探る【止まり木の盛り場学 第4回】

1/2

2005年前後まで黄金町近辺に存在した売春街、いわゆるちょんの間の今を目の当たりにし、界隈の街づくり活動を行うNPO「黄金町エリアマネジメントセンター」でお話を伺った2人。外に出れば、街は灯ともしごろ。アルコールの匂いに誘われて、俄然目に精気が宿りだす。「ハマの止まり木」を探すべく徘徊はつづく・・・。

殺害予告、ガラス破壊・・・売春街浄化後の「アートでまちおこし」はいかにして進んだか 横浜・黄金町の青線跡を歩く【止まり木の盛り場学 第3回】

渡辺 折角ならこの足でハマの今も見たいですね。

横田 そう思って、まずは野毛で始めることにしました。「野毛に行けば面白い飲み屋に出会える」というのがハマっ子たちには浸透していますよね。ある人気店の店主が「野毛は『チェーン店殺し』の街。個人店が頑張ってるから面白くなる」と言っていました。チェーン店ももちろん良さはありますが、個性のある店が並ぶ街のほうがやっぱり面白いですよ。

渡辺 老舗の大衆酒場と若い店主の店が混ざってる感じがいいですよね。一説には500軒くらいあるとも聞きました。それだけ挑戦できる街なんですね。

横田 渡辺さんが今かじり付いているフライは何肉か分かりますか?

渡辺 ワンパク盛りの42歳が年格好をわきまえずにかじり付いていますが、結構歯ごたえがあって血臭さがあるけど、むしろ妙に癖になるというか、酒が進む進む・・・。

横田 なんとなく想像がついたかも知れませんが、クジラの肉です。

酒のグラスを干した途端、目に精気の宿りだす、いつも懲りない40男二人。酔えば「ハマの止まり木」を探し、徘徊しだす・・・。

渡辺 そういえば、野毛のあたりのクジラ横丁という飲み屋街が妖しくも賑々しいといった記事を昭和20年代の大衆誌で読んだことがあります。

横田 ええ。「クジラ横丁」と呼ばれていた飲み屋街は桜木町駅南口を出て、桜川橋北交差点を渡ったあたりで、今はなにも面影を残していないのですが、クジラ食だけはこうして受け継がれているようです。「くすぶり横丁」とも言われていました。

渡辺 敗戦直後の食糧難を迎えたとき、牛肉・豚肉の代用品としてクジラの肉が重用されて、大衆酒場などの飲食店でも提供されたのでしょうけど、戦後の苦労した記憶と相まって、この独特の食感が苦手というご高齢の方は今も多いみたいですね。それが今やB級グルメのような扱いで、若い世代を惹きつけていると。

横田 クジラ料理に限らず、焼き鳥屋やモツ焼き屋など、大衆的な料理を出す店に行列ができていますね。しかもお客さんの層が、ぱっと見で分かるくらい若い。日ごろ我々が飲み歩く昭和の横丁って、シニア世代が多いし、場合によっては衰退を感じることさえありますが、野毛はなんだか元気がでます。

渡辺 私は地方の生まれなので、「ヨコハマ」と聞くだけでハイカラなイメージしか持てていなかったのですが、初めて野毛に来たときはちょっとしたカルチャーショックでした。

災難続きだった野毛 現在の賑わいを生んだ飲み屋街

横田 野毛の近代史を紐解くと災難つづきです。まず関東大震災で丸焼けになってしまい、終戦間際の横浜空襲でもふたたび焼けてしまいます。横浜では有名な中華チェーン「一品香(いっぴんこう)」の会長に取材したとき、創業者の先代はよくこう言ったと教えてくれました。「大震災、大空襲、そのたびに人は野毛に行った」と。

渡辺 賑わいの原点は、戦争の焼け跡となっても立ち上がった、不屈の生活力から生まれたようなものですね。

横田 そうです。終戦後は伊勢佐木町や中心市街地が進駐軍に接収されてしまったので、野毛に人が流入したんですね。その頃、ヤミ市が繁栄します。バラックの飲み屋街とか日用品を売る露店街ができました。とんでもない賑わいだったそうです。それが接収解除になると、向こうに人が移っていっちゃった。決定的だったのは15年ほど前に東横線の横浜~桜木町間が廃止になったとき。人の流れがだいぶ変わってしまった。

渡辺 だとすれば、野毛は衰退しているはずですが、今、なぜこんなに賑わってるんでしょう?

横田 いっとき衰退しましたが、その逆境をむしろチャンスと捉えた飲み屋街の人たちが街を復興させたんです。家賃がずいぶん安かったそうですから、個人店が参入しやすかった。戦後以来、労働者の街だったのが功を奏したんだと思います。

渡辺 ああ、港湾労働で汗を流す男たちを癒すべく、安くて旨い一杯飲み屋カルチャーが、すでに根を下ろしていたということですね。

横田 そうですね、さっき話に出たクジラ横丁の裏手がいわゆる「寄場」になっていて、港湾労働者たちが大量にいました。昭和20年代半ばにはあまりにも労働者が流入するので宿も足りず、路上にもたくさんの男たちがたむろしていたそうです。だから戦後以来ずっと、労働者の街というイメージがあって、大衆酒場が出店しやすい土壌があったんですね。昭和後期までは血の気の多い人や宵越しのカネを持たない人も多くて、ケンカも食い逃げも多かったと、ある老舗大衆店の親父さんに聞きました。その泥臭い負のイメージを、庶民的であるというプラスのイメージに換骨奪胎できたのは、個々のお店の人たちの力だと思います。

渡辺 そして我々呑兵衛にとって、野毛のランドマークといえば、やっぱりこの景色かな・・・。

野毛の飲み屋史を体現する「都橋商店街ビル」

この昭和くさい飲み屋ビル前を、今や若い女性グループも歩いている

横田 都橋商店街ビル、まさにそうですね。この飲み屋ビルは野毛の飲み屋史を体現しています。

渡辺 一階には立ち飲み屋さんなど新しめの店が多くて、二階はスナックのような昔からの店が多いですよね。その辺も関係ありますか。

横田 ありますね。もともと野毛坂にむけて通り沿いにズラッと露店のヤミ市が続いていたんですが、1964年におこなわれた東京オリンピックのころ、車も増えて道路通行上邪魔になってきたので、この川っぺりに長屋のようなこのビルを建てて、集団移転してもらいました。露店って大体が靴とか衣類で、飲み屋じゃなかったんです。だから昔は一階は靴屋さんとかいっぱいあった。二階は結構古くから小料理屋とかスナック。で、地元の人が言うには、十数年前までは女性が飲み歩くような雰囲気ではとてもなかったという話です。

渡辺 なのに今夜はずいぶん若い女性たちが歩いてますね。それだけ開かれた場所になったということでしょうか。しかも五輪のころ、昭和39年にできた古い建物なのに、横浜市が耐震補強を施して保存に動いたと聞きました。地方自治体が飲み屋街の価値を理解して保存に動くって、なかなかできることじゃないですよね。

横田 私もそう思います。

露店の人々が移った都橋商店街ビルの店は、どこもあまりにも狭い。だが人との距離が近い分、ゆっくり話すのにはちょうどいい。40男二人は、二階のとあるスナックで一息つく。


渡辺 酔ってきました。じゃあ、もう一軒いきましょうか・・・仕事ですからね・・・。

横田 渡辺さん、目に邪気が宿ってきましたよ。やはりそうですよね。ここまで来たら、大岡川を越えないと。お連れしたい場所があるんです。

都橋商店街ビルを後にした二人。大岡川にかかる宮川橋を渡ると、街の雰囲気は一変する。煌めくネオン、電飾、暗がりから掛かる呼び込みの声。ここ福富町は横浜市を代表する歓楽街。バー、クラブ、風俗店がひしめく。目が据わりだした2人が向かうのは・・・。

キャバレー調の内装を楽しめる福富町「ギャリソンゴリラ」

渡辺 昭和の飲み文化、社交文化といえば、やはりキャバレーは外せませんが、大衆キャバレーの草分け・ハリウッドさんや、銀座の一等地で「郷里の娘を呼んでやって下さい」と謳っていた白いばらさんが、ここ数年で相次いで廃業してしまって・・・。

横田 戦後に進駐軍向けのキャバレーが相次いで開業しましたが、とりわけ戦後キャバレー史にとって立志伝中の人といえるキャバレー太郎こと福富太郎さんも昨年86歳でお亡くなりになりましたね。

渡辺 バブル世代より後に生まれた私は、最盛期のキャバレーを経験することはできませんでしたが、やはり惹かれるのは、あの内装ですよね。

横田 都内ではキャバレーで遊ぶことはもうできないし、横浜のキャバレーもなくなってしまったんですが、今もキャバレー調の内装で飲める場所があるのです。それがここ、ギャリソンゴリラさんです!!

ネオンが煌々と輝く福富町で、ひときわ目を引くギャリソンゴリラさん

渡辺 こんばんは。今日は取材を受けて下さり、ありがとうございます。

店長の田中さん(以下、店長) おお。まぁどうぞ座って。何? 聞きたいの? うちは昭和58年に創業して、だから今年で36年だな。俺はいったん別な場所にいたこともあるんだけど、開店のときから店長やってるのよ。

横田 ここは相当広いですけど、どのくらいのキャパでしょう?

店長 まぁ100人くらいかなぁ。

横田 今はいわゆるピンパブ(フィリピンパブ)ですが、開店当初からピンパブなんでしょうか?

店長 そうそう。変わってないね。うちが入る前はクラブだったみたいだけど、その前は分からない。

横田 私たちの見立てだと、クラブより昔は、キャバレーだったんじゃないかと思うんです。

店長 うーん、昔のことは分からないなぁ。でもステージもあるからね。

エンブレムは以前クラブだったときのままという。その下には、クラブとは別の名前が。さらに前は別の店だったのだろう。

あわせて読みたい

「居酒屋」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    文氏が天皇陛下宛の親書を送達か

    天木直人

  2. 2

    陛下の立ち位置を批判する朝日

    木走正水(きばしりまさみず)

  3. 3

    竹中氏「日本人は童貞そっくり」

    PRESIDENT Online

  4. 4

    韓国LG 市場予想上回る営業赤字

    ロイター

  5. 5

    女系天皇を認めたくない愚かさ

    志村建世

  6. 6

    天皇制は選挙方式にすれば合理的

    紙屋高雪

  7. 7

    韓国の李首相と枝野代表らが会談

    立憲民主党

  8. 8

    文氏低迷でGSOMIA維持派が台頭か

    高英起

  9. 9

    雅子さまの「祝宴ドレス」に注目

    文春オンライン

  10. 10

    格差社会が平和の存続をもたらす

    諌山裕

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。