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ランダル・レイ教授からの手紙

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10月10日よりMMTの大家ランダル・レイ教授が来日される。国会でも議員会館でシンポジウムに登壇されるとのこと。私は、日本にMMTを基盤にした拡張的財政政策は適用されるべきではないと度々発言してきた。PB均衡とはかけ離れた日本の国家財政の現状からすると、インフレが生じたからといって直ちに中止はできない。したがって、インフレをコントロールできなくなるのでは、という懸念があるからだ。

もう一つの懸念は、通貨安。1990年代のポンド危機は、虎視眈々とその機会を狙っていたジョージ・ソロス率いるクオンタムファンドの売り浴びせの前に、イギリスの中央銀行であるイングランド銀行が破れ、ポンド安が止まらなかったものだ。これと同じことが、MMT的な政策を提唱する政党や政治家が主導権を取ったその瞬間に起きても不思議ではない。

以上は、日本でMMT政策を取った場合のいわば副作用たるものであるが、効能の点でも日本において効果があるのか疑問がある。

そこで、先般、私の懸念についてランダル・レイ教授ご本人にメールにてお問い合わをしたところ、教授から早速丁寧なご回答をいただいた。レイ教授に心より感謝申し上げると共に、その質疑の部分をご紹介させていただく。(なお、質疑部分については公開させていただく可能性のあることを事前に申し上げている。)

[レイ教授への質問]

1. 日本においては,失業率が2018年平均で2.4%と極めて低い水準にあります。これは急激な人口減少の過程にある日本において労働力不足が顕在化したものと考えられます。現在の失業率は,一般に言われる自然失業率の範囲内と推測され,事実上の完全雇用状態にあるものと考えられます。一方で,生鮮食料品を除く物価上昇率は2016~2018年(各年平均)は-0.3~1%で推移しており,物価は安定しております。

 以上によれば貴殿の著作に記された貴殿の意見である「最善の国内政策とは,完全雇用と物価安定を追求することである」は,日本においては既に達成されており,MMTが提唱する通貨増発による積極的財政政策を取る必要がある状況にはないと考えていますがいかがでしょうか。

2. 日本の国家財政(一般会計予算)における国債依存度は,2009年~2019年において,51.5~32.1%を占めており,極めて高い状況です。このような財政事情下において,さらに景気浮揚のために国債増発を行い,積極的財政出動を行うことを実行した場合,インフレが生じる恐れがあると考えられます。仮にインフレ・ターゲットを2%に置いたとして,これを越えるインフレ率となった場合においても,その恒常的な国債依存財政体質からして,国債発行を緊急に縮小することは困難と考えられ,その場合インフレをコントロールすることが困難となる可能性があるものと思料いたしております。したがって,日本の財政状況に鑑みれば,MMTによる積極的財政出動をなしうる基礎的条件を欠くものとも考えられますがいかがでしょうか。

3. 以上について,1,2を総合した観点から異なる結論は導かれるのでしょうか。

[レイ教授からの回答]

ご質問いただきましてありがとうございます。

測定された失業率が低く、平均インフレ率がゼロをわずかに上回る水準であることは承知しています。消費の伸びが弱いことを主たる要因としてGDP成長率が低迷しています。私は、「成長のための成長」を支持していないことをここに強調しておきたいと思います。重要なのは、全ての人々に対して最低限の生活水準を保証することです。これを実現できないほどに日本の平均成長率が低いのかは分かりません。

これは日本が決定すべき問題です。但し、不本意な退職を余儀なくされた人々が必ずしも考慮されていないため、失業率の測定値は大きな誤解をはらんでいる可能性があります。日本国外において、これは年配の男性労働者、そして恐らく他の複数の集団において問題化しているとの見方が一般的です。その数が増加することで、「労働力の減少」がもたらされます。

貴殿がご指摘になった赤字と負債については、十分に理解しておりませんでした。政府債務の金利が非常に低いため支出は低水準に留まっていますが、債務比率が高く、低金利による恩恵が相殺される可能性があります。金利支払いのための政府支出は消費や投資に対する追加支出を促すものではなく、成長をもたらさないという点において極めて「非効率」であると言えます。

一方、添付の文書において論じている通り、債務比率の高い日本が取るべき対策は2つです。成長速度を加速させることで、赤字比率を下げ、債務問題を軽減できる可能性があります。成長速度を加速させるためには、(金利に対してではなく、成長を促進する分野において)対象を絞った支出を行うことです。これについては、10月10日に来日した際にご説明させていただきます。

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