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『まんが朝鮮の歴史』を読み終えて

 前の記事の続き。『まんが朝鮮の歴史』を読み終える。

 巻末に「全16巻」とあるので、これで終わりのはずだけど、16巻のタイトルが「日本の軍国主義体制と独立の準備」なんだよね。

 だけど、常識的に考えて、それで終わる?

 だいたい、16巻の裏表紙、こんなだぜ。

『まんが 朝鮮の歴史16』ポプラ社、裏表紙

 中を読むとわかるけど、これ、「徴用令」によってほぼ強制的に「北九州」に動員された朝鮮の人たちがあまりに過酷な労働に耐えかねて逃亡する様子である。このカットがシリーズのラストを飾るカットになるだろうか?

 ちなみに、本文の終わりはこちら。

同前、p.157(朴賛勝監修、崔賢淑文、李熺宰画、安宇植翻訳)

 日本帝国主義の敗北が決定し、植民地支配が終焉したものの、独立運動家である呂運亨が「今後のことが心配だ。」って不安そうにつぶやいて終わる……そんな民族史ってある?

 いや、まあホントにこれで終わったら、ある意味、画期的なんだけど。

 冒頭にウンジン・メディア社の「刊行のことば」もあるし、日本での出版社であるポプラ社の「日本語版刊行のことば」もあるんだけど、そのへんの事情はほとんど書かれていない。

 ただ、わずかに、前者の中には、原題が『韓国の歴史』であり、「現在の中学校と高等学校で使用中の国史(韓国史)の教科書をもとにしながら」(p.2)という一文がある。

 つまり北朝鮮ではなく韓国側の歴史記述なのである。

 これは推測に過ぎないけど、終戦後は、朝鮮半島が南北に分割され二つの国家が誕生していくことになり、そこを書くと、韓国側からの「一方的」な歴史記述となってしまうために(=北朝鮮側の言い分が無視される)、そこまでで終わったのかなと思った。

 本書が刊行されたのが1992年であり、91年に南北朝鮮が同時に国連加盟している年だから、まあそのへんをおもんばかったのかもな。知らんけど。

水木流のリアリズムのために

 あと、近現代史まで読むと、やはり読者は「日本の朝鮮に対する植民地支配というのはなかなか苛酷なものだったのだな」というイメージを持つ。それは至極当然なのだが、植民地支配を強いてきた民族の側、すなわち日本人として、まずイメージのベースをこのあたりから始めることは必要なことじゃなかろうか。

 歴史研究の立場から「この記述はおかしい」とか「この描き方は間違っている」とか今後それを「修正」するにせよ、である。

 例えば「慰安婦」、例えば「徴用工」、例えば朝鮮の「近代化」の問題にしても(それぞれこの本で描かれている)、日本政府がどう関わったんだとか、もう裁判は無効ではないかとか、日本もいいことしたんじゃないかとか、そういう議論は確かにあるかもしれない。

 しかし、どこに責任があるかとかそんな話をまずおいておくとしても、「朝鮮の人たちは大変な苦労したんだろうな」と直感的とも言える歴史の認識を持っておくことは必要なことではないかということだ。

 前にぼくが書いたことだけど、水木しげるは「慰安婦」に対して、次のように描写している。

戦争中の話だが、敵のいる前線に行くために、「ココボ」という船着場についた。
ここから前線へ船が出るのだ。そういうところには必ずピー屋がある。ピー屋というのは女郎屋のことである。
ピー屋の前に行ったが、何とゾロゾロと大勢並んでいる。
日本のピーの前には百人くらい、ナワピー(沖縄出身)は九十人くらい、朝鮮ピーは八十人くらいだった。
これを一人の女性で処理するのだ。
とてもこの世のこととは思えなかった。
兵隊は精力ゼツリンだから大変なことだ。それはまさに「地獄の場所」だった。
兵隊だって地獄に行くわけだが、それ以上に地獄ではないか。と

 そして水木はそこにカタカナで「だからバイショウはすべきだろうナ」と付け加えていて、そういう人に何か償いはすべきじゃないかという感情も書き添えている。

 「賠償」と書いていない。カタカナの「バイショウ」である。

 漢字で「賠償」と書いたとたんに国家犯罪として国家の責任を認めた正式な用語としてのニュアンスが出てしまうからだろう。

 “よくわからないけども、日本政府が何か償いをすべきじゃないのかなあ”ほどのニュアンスを表すためにカタカナで「バイショウ」と書いたのではなかろうか。「賠償」については意見が分かれるかもしれないが、何かの償いは必要では……そういうふうにスルリとそこへ自然に流し込ませる描き方、説得力は水木一流のものだ。

 それこそが水木的なリアリズムである。こういうリアリズムを、ぼくら日本人は持っておくべきじゃなかろうか。

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