記事

民主党有利だが結局トランプが再選果たすワケ

1/2

米国で相次ぐ、銃乱射事件。国民は怒りを露わにする。しかしトランプ大統領は全米ライフル協会の肩を持つ。そんなトランプが大統領選で勝ちそうなのは、なぜか。

時事通信フォト=写真

誰もが、ヒラリー・クリントン氏が勝つと信じていた米国大統領選挙から3年。ドナルド・トランプ大統領は再選に向けて動き出している。米共和党に食い込む、国際政治アナリストの渡瀬裕哉氏が最新情勢を解説する――。

バイデンを潰す民主党の愚行

ドナルド・トランプ大統領の再選阻止に向け、米民主党側の対抗馬を選出する予備選挙が本格化しつつある。しかし、民主党にとって望ましいものとは言えない。

最有力候補者はジョー・バイデン前副大統領である。同氏はトランプと本選で戦った場合の支持率調査で他候補者と比べて強い数字を出しているが、同時に党内のライバル候補者からの集中砲火を浴びている。

特に、党内左派からの同氏への攻撃は熾烈なものがあり、過去に選挙の応援演説時に同党女性候補者の髪の匂いを嗅いだことが#MeToo運動に絡めて非難されたことを皮切りに、TV公開討論会では人種差別主義者のレッテルを貼られるまでになっている。つまり民主党は、トランプに最も勝てる可能性がある道を自ら葬り去ろうとする愚行を冒している。

バイデンに対する対抗馬として急浮上している人物

バイデンに対する対抗馬として急浮上している人物は、カマラ・ハリス上院議員だ。女性かつ有色人種という自身の特徴を最大限に生かし、第1回TV公開討論会でバイデンに対するジャイアント・キリングに成功した人物である。

人種差別されていた女の子は「自分だ」と主張して自らの幼い頃の写真をSNSでバラまいて大拡散させる戦略が大成功、民主党予備選挙において大票田となるカリフォルニア州選出上院議員という点もポイントが高い。ただ、人種問題に関する過剰な傾斜は一部の白人有権者や進歩派嫌いの有権者からの反発を招く可能性もあり、現在の勢いが維持できるのかどうかは、極めて疑問だ。

党内最左派からバイデンを猛追している人物は、エリザベス・ウォーレン上院議員。女性候補者であり、強烈なリベラル姿勢から党内左派有権者からの支持が急速に拡大している。GAFAを分割することを主張し、大企業への大幅な課税を痛烈な言葉で語る姿勢は、極端なイデオロギー傾向を持つ古くからの支持者を動員することに成功している。

トランプは先住民の血を引くと主張してきたウォーレンに対して「偽のポカホンタス」というあだ名をつけて馬鹿にしていたが、そのように揶揄されたことも同女史に注目が集まった要因の1つとなっている。

時事通信フォト=写真

(左)ジョー・バイデン
オバマ前政権の副大統領。組織からの手堅い支援で暫定1位。ただし、女性の髪を嗅ぐスキャンダル、過去の人種問題に関する投票履歴などの差別で批判の的に。

(中)カマラ・ハリス
インド系・ジャマイカ系移民2世、カリフォルニア州選出上院議員。州司法長官として舌鋒鋭くバイデンを人種差別で批判。自分の少女時代の写真を差別された当事者としてSNSで拡散。

(右)エリザベス・ウォーレン
富裕層への大増税を主張し、サンダースと党内左派No.1を競い合う。先住民の血を引くと主張。曰く6~10代前に先住民の血が混ざっているという。

前回の2016年大統領選挙では、最終的に民主党の党候補者になったヒラリー・クリントン氏を追い詰めたバーニー・サンダース上院議員は今回も民主党代表候補者に名乗りを上げている。しかし、左派系候補者である彼は、現在、陳腐化リスクとの戦いに悩まされている。

一部の熱心な若者はサンダースを支持しているものの、ハリスのように人種問題に強いわけでもなく、ウォーレンに比べればイデオロギー的偏りも不十分であり、同氏は埋没気味だ。サンダースの埋没は民主党全体が中道派有権者から遊離して、左傾化を更に強めている現状を表していると言えるだろう。

同党内の左傾化は大統領選挙本選に深刻な打撃を与える政策主張に繋がっている。民主党候補者はいずれも気候変動問題に積極的であるが、これは同党内での環境団体の影響力が強まっていることに起因する。そのため、各候補者はグリーン・ニューディール政策という、電力を100%再生可能エネルギーにして二酸化炭素の排出を約10年以内にゼロとし、温室効果ガスの排出をなくすという過激な政策に同調を示すことを迫られている。

しかし、この政策はトランプが16年大統領選挙で勝利するきっかけとなった製造業地帯である「ラストベルト(さびた工業地帯)」で非現実な政策と受け止められており、同地域の民主党支持母体である労働組合からの反発も非常に大きい。したがって、グリーン・ニューディール政策を大々的に打ち出す候補者が予備選挙を勝ち抜いた場合、トランプ再選の可能性は飛躍的に高まることになるのだ。民主党はそれがわかっていても、それを止めることができないとても苦しい状況に置かれているのである。

一方、中道派有権者と左派系有権者を繋ぐ可能性がある候補者として、インディアナ州サウスベンド市のピート・ブティジェッジ市長の存在が注目されつつある。同氏はトランプの選挙対策本部がダークホースとして最も警戒する人物として知られている。

時事通信フォト=写真

(左)バーニー・サンダース
民主社会主義者を自称。学生ローンの徳政令で若者に人気。ただし、著書販売で億万長者になったことを批判されて失速気味。その社会主義的政策をトランプは批判する。

(右)ピート・ブティジェッジ
37歳最年少、マッキンゼー出身、従軍歴あり、性的マイノリティ。ダークホース。トランプは風刺雑誌「MAD」のマスコット「アルフレッド・E・ニューマン」と顔を比べておちょくった。

37歳、大手コンサルティング会社「マッキンゼー・アンド・カンパニー」出身、従軍経験者、米国中西部から大西洋側中部にわたるラストベルトが地盤、多言語能力、そして性的マイノリティという様々な特徴を兼ね備えた民主党の秘密兵器だ。

小口献金による豊富な資金力は、予備選挙の行方を左右する初期の選挙州での組織体制整備に投入されており、地味だが手堅い選挙戦略を取っている。差し馬のポジションで最終盤に大外から一気に他候補者を抜き去る可能性も高い。

トランプは民主党予備選挙に頻繁にコメントしており、あえて民主党内の左派を挑発することによって、同党内の分断を煽るとともに、大統領選挙本選での中道派からの支持を失わせる作戦だ。今のところ、民主党側はトランプの作戦にうまく乗せられており、その主張は左派的な方向にイデオロギー的偏向を強める一方である。民主党候補者選びに最も影響を与えている人物は、トランプにほかならないという皮肉な事態と言えるだろう。

トランプの再選を左右する宗教票

対する共和党は、マサチューセッツ州のビル・ウェルド元知事が予備選への立候補を表明しているが、トランプは党内で9割近い支持率を得ており、圧倒的な強さを見せる。

そのトランプ陣営は20年大統領選挙に挑む体制を着々と整えつつある。とはいうものの、近年の大統領選挙の傾向は敵対する民主党側に有利な状況に変わりつつあり、トランプ大統領再選に向けた戦略展開には極めて優れたセンスが求められている。

3つの「ベルト」に対する適切なアプローチが欠かせない

トランプが再選を勝ち取るためには、3つの「ベルト」に対する適切なアプローチが欠かせない。その1つは16年の大統領選挙で勝敗を決したラストベルトだ。

同地域は製造業地帯を中心とした工業地域で、開発途上国との国際競争の激化、バラク・オバマ政権時代に強化された産業やエネルギー開発規制によって衰退してきた地域でもある。トランプがラストベルトの票田を現在でも意識していることは、同氏がFRB(連邦準備制度理事会)の利下げに拘るとともに、同地域にメリットをもたらすインフラ投資に積極的な姿勢を示していることからも自明であろう。

ただし、20年大統領選挙はラストベルトの接戦州を押さえれば勝てるという単純な構図ではない。現在、選挙の勝敗を分ける焦点として急速に関心が高まっている地域は「サンベルト」である。サンベルトとは米国の南部諸州を指す言葉だ。

現在はあまり注目されていないが、共和党の絶対的な地盤として金城湯池であった同地域における共和党優位の構造が揺らぎつつある。

時事通信フォト=写真

もともと南部諸州は銃規制に反対し、学校における銃乱射事件に対応するために、教師らに銃武装させたり学校が独自に乱射事件に対応する専門家を雇うことを支持するような、保守的な共和党地盤であった。

しかし、前回の大統領選挙時にヒラリーが同地域での票の掘り起こしに一部成功しており、18年中間選挙においては共和党候補者が敗北または大苦戦する状況に陥った。特にテキサス州上院議員選挙で、民主党予備選挙に出馬しているベト・オルークが共和党のテッド・クルーズ上院議員を敗北寸前まで追い込んだ出来事は、サンベルトにおける共和党支配が陰りを見せている象徴となった。

同地域は自由貿易を相対的に支持する人々が居住しており、なおかつ近年ではヒスパニック系住民も増加している。そのため、トランプの貿易戦争に関する姿勢は必ずしも絶対的な支持を得ておらず、ヒスパニック系住民などに対する姿勢も肯定的には捉えられていない。そのため、これらの地域での世論調査の数字が悪化した場合、トランプの対中貿易戦争などに対する姿勢が変化し、ひいては日本なども影響を受ける可能性が皆無とは言えない。

共和党にとってサンベルトにおける苦戦は、同地域と一部がかぶっている米南東部の「バイブル(聖書)ベルト」を重視する戦略に繋がっていくことになる。バイブルベルトとはキリスト教の影響力が極めて強い、宗教票が選挙結果に大きな影響を与える地域のことだ。トランプは貿易戦争の長期化などに対する経済団体等からの批判を乗り越えるため、経済的利害を超えた愛国心の高揚などのイデオロギー的支持を必要としている。

そのような要素の1つが宗教的な盛り上がりである。共和党の選挙活動はこれらの宗教団体の熱心な活動によって支えられており、その影響力の強さは注目に値する。トランプ政権は同地域の有権者からの関心を引くために大統領令などで様々な宗教活動への配慮を行ってきている。

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Bet_Noire

日本人にはわかりにくいかもしれないが、宗教政策は共和党政権の対中強硬政策などの対外政策にも反映されている。対中国政策の観点から「中国における宗教弾圧に対抗する」という論点を設定し、同地域住民を積極的に動機づけることを通じて、経済的利害とは異なる対中強硬姿勢への支持を獲得することは1つのセオリーだ。

たとえば、直近の動きとしては、世界中の宗教弾圧と戦う指導者がワシントンD.C.での会議に集められており、マイク・ペンス副大統領とマイク・ポンペオ国務長官が激しい対中批判を展開し、米中の覇権争いを正当化する主張が行われている。

同会議参加者からは中国での宗教弾圧に繋がる商取引を米ハイテク企業に取りやめるように要請した書簡が公開されており、今後は米国政府・米国議会への働きかけを強化することが議論された。ファーウェイに対する制裁などは単純なハイテク覇権争いという側面だけでなく、このような宗教的背景を含む複雑な要素を持ったものだと言える。米中貿易戦争の影響を強く受ける日本は、その裏側の事情も理解するセンスが従来以上に求められることになる。

あわせて読みたい

「ドナルド・トランプ」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    ブラタモリに失望 忘れられた志

    メディアゴン

  2. 2

    新しい生活様式嫌がる日本医師会

    御田寺圭

  3. 3

    飲み会の2次会 死語になる可能性

    内藤忍

  4. 4

    官邸前ハンスト 警官と押し問答

    田中龍作

  5. 5

    菅首相が最優先した反対派の黙殺

    内田樹

  6. 6

    マイナンバーカードが2ヶ月待ち?

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

  7. 7

    宮崎美子の才色兼備ビキニに脱帽

    片岡 英彦

  8. 8

    立民議員の官僚叩きに批判が殺到

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

  9. 9

    任命拒否 学者6名に無礼な菅首相

    メディアゴン

  10. 10

    「マスクは有効」東大実証を称賛

    中村ゆきつぐ

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。