記事

活躍妻とイクメン夫の夫婦はほんとうに幸せか

1/2

家事と育児に主体的なイクメン夫に子供に出世……。欲しいと思っていたすべてを手に入れて女性活躍推進時代のロールモデルのような生活を実現した40代女性を待ち受けていた試練とは――。イマドキ両立夫婦のリアルに迫るルポ前編。

※本稿は奥田祥子『夫婦幻想』(ちくま新書)の一部を再編集したものです

※写真はイメージです(写真=iStock.com/monzenmachi)

「幻想」という呪縛

共働き世帯が専業主婦世帯を上回ってから20年余り。女性は家庭と仕事を両立させて当たり前という風潮が広まり、さらに2016年に施行された女性活躍推進法(女性の職業生活における活躍の推進に関する法律)を契機に、管理職に就いて能力を発揮する「活躍」妻が注目を集める時代を迎えている。一方、男性も家庭を顧みない仕事人間はネガティブなイメージで捉えられ、子育てに積極的に関わる「イクメン」が新たな夫像としてもてはやされている。

しかしながら、現実はどうなのか。家事・育児をこなしながら管理職に昇進し、世間が求める女性のライフスタイルを実現したかに見える女性の中には、夫との関係で苦悩を抱えているケースが少なくない。良き夫を目指すあまりに男のプライドとのジレンマに苛(さいな)まれている男性も多い。行く手には「マミートラック」や「パタニティ・ハラスメント」など、自力ではどうすることもできない厚い壁が立ちはだかる。

社会から期待された女性、男性になろうとすればするほど、最も身近で親密な関係であるはずの夫婦の溝が深まる。そして、自身の理想とかけ離れていく夫・妻の姿に絶望した揚げ句、「幻想」に陥り、その呪縛から抜け出せなくなってしまうのである。

なぜ、「幻想」の中にしか夫婦を描けなくなってしまうのか。ここでは夫婦ともに仕事と家庭を両立させ、「活躍」妻と「イクメン」夫を目指す事例を通して考えてみたい。

「生気を失った」夫に絶望する妻

「結婚、出産後も仕事を辞めず、子育て、家事と両立させながら、管理職にまでなって……社会から求められている女性を目指して、これまで一生懸命に頑張り、欲しいものはすべて手に入れたつもりだったのに……実際には違ったんですね。課長になってからというもの、夫とは全く会話がありません。以前はあんなに前向きで仕事もデキて、生き生きとしていた夫だったのに、今ではすっかり変わって生気を失ってしまって……もう夫には絶望しました」

2017年、神奈川県の閑静な住宅街にある自宅で、当時43歳の佐野(さの)敦子さん(仮名)は苦渋の表情で思いの丈をぶつけ、嗚咽(おえつ)した。長年の取材で、彼女がここまで激しい感情を露にしたのは初めてだった。

この数年前から、もしかすると関係が思わしくないのかもしれないと感じるようになり、本人が自発的に語ってくれるのを待っていた状況ではあった。だがここまで深刻化し、苦悩しているとは思いもよらなかった。

そんな両親の不和を察したのか、小学生の子どもたち2人は、食事以外では自室にこもった切りで、話しかけても必要最低限の短い言葉しか返ってこないのだという。

女性活躍の模範的なライフスタイルだったのに

佐野さんは、時代の潮流でもある「女性活躍」の模範ともいえるライフスタイルを実現した女性だ。

2013年に第2次安倍内閣が成長戦略のひとつに「女性が輝く日本」を掲げ、2016年には、従業員300人以上の企業など雇用主に女性管理職の数値目標などを盛り込んだ行動計画の策定と公表を義務づけた女性活躍推進法(女性の職業生活における活躍の推進に関する法律)が施行された(300人未満の雇用主は努力義務)。こうした流れを背景に、企業などの女性登用の動きは一気に加速している。行動計画は管理職登用に限定したものではないが、メディアを介して社会に浸透していく過程において、女性の管理職比率を増やすことが「女性活躍」政策であるとミスリードされていった面も否めない。その結果、「子育てと両立させながら働いて、さらに管理職に就く」という女性の生き方の規範を押しつけることにもなってしまったのである。

このような生き方の規範については、プレッシャーを感じたり、抵抗感を抱いたりする女性が少なくない。そんななか、佐野さんは自ら進んで「女性活躍」のライフスタイルを実現したのだ。

彼女は実は、もとから上昇志向が強かったわけではない。

「無理せず仕事も家庭も」が理想

東北出身で東京の難関私立大学を卒業後、メーカーに総合職として入社した佐野さんとの出会いは、2005年にまで遡る。当時、31歳で半年ほど前に結婚したばかりの彼女に、仕事と家庭の両立などこれからの人生をどう歩んでいきたいと考えているのか、インタビューしたのだ。

「今、『負け犬』か、『勝ち組』か、なんて、世の中で話題になっていますけれど、女の人生を勝ち負けに分けるなんて、ばかげていると思いませんか? 女性が結婚か仕事かの二択に迫られていた時代に逆戻りしたみたいじゃないですか。奥田さんとかの世代。あっ、いえ、すみません」
「全然、構いませんよ。気にしないで、率直な意見を話してくださいね。じゃあ、仕事も家庭も両方をこなしていきたい、と考えているのですか?」
「ええ、もちろんです。会社の両立支援策だって整いつつあるし、利用できる制度は社員の権利として使えばいいと思います。それに、夫も子どもができたら育児協力してくれると言ってくれていますし。別に目尻をつり上げて仕事も家庭も、と意気込む必要はないと思うんです。まあ、実際にそういう女性の先輩がいるから、そうはなりたくないなあ、って。私たち団塊の子ども世代は、受験も就職も競争相手が多くて厳しかったから、高望みしない、欲張らないくせがついてしまっているのかもしれません。仕事は続けるけれど、男の人と同じような働き方だと家庭と両立させていくのは難しいから、出世していくキャリアコースではなくて、肩の力を抜いて無理なく働いていくのがいいですね」

あわせて読みたい

「家族」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    コロナは若者に蔓延? 医師が仮説

    中村ゆきつぐ

  2. 2

    韓国はなぜ延々謝罪を要求するか

    紙屋高雪

  3. 3

    なぜベーシックインカムに反対か

    ヒロ

  4. 4

    秋篠宮夫妻 公用車傷だらけの訳

    NEWSポストセブン

  5. 5

    株バブル過熱で短期調整の可能性

    藤沢数希

  6. 6

    竹中氏もMMT認めざるを得ないか

    自由人

  7. 7

    斎藤佑樹からの連絡「戦力外?」

    NEWSポストセブン

  8. 8

    飲食店のBGM 感染を助長する恐れ

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

  9. 9

    貯金がない…京都市を襲った悲劇

    PRESIDENT Online

  10. 10

    医師が語る現状「医療崩壊ない」

    名月論

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。