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ラグビー日本代表全員が「君が代」を歌えるワケ

ラグビーワールドカップ(W杯)日本大会が盛り上がっている。9月28日には日本代表が優勝候補アイルランドから大金星をあげた。だが、ここまでには苦難の道のりがあった。前回W杯で日本代表のキャプテン(主将)を務めた廣瀬俊朗氏に「日本代表の強さの秘密」を聞いた――。(後編、全2回)/聞き手・構成=山川 徹

撮影=尾藤能暢

■「ぼくは場をつくるタイプのキャプテンだった」

——廣瀬さんの著書『ラグビー知的観戦のすすめ』(角川新書)では、ラグビーの本質を徹底的にわかりやすく解説されています。そこでのポイントのひとつが、ラグビーにおけるキャプテンの重要性です。試合に出る選手でありながら、監督に代わってチームへの指示も出さなければいけない。そんなキャプテンの考え方を仕事などに応用する「キャプテン塾」という構想もあると書かれていました。

今回のW杯をきっかけに、ラグビーの関する書籍はたくさん出てくるでしょう。そんななかで、ぼくの役割はラグビーというスポーツの根っこを深く掘り下げ、リーダーシップなどについて書くことなのかな、と思ったんです。

「キャプテン塾」は仮称ですが、スポーツに限らず、さまざまな組織のリーダーをサポートするプログラムです。キャプテンシーやリーダーシップといっても、漠然としていますよね。それをぼくたちと一緒に考えながら具体化させていく活動です。

——廣瀬さんには私の著書『国境を越えたスクラム』(中央公論新社)の取材でも大変お世話になりました。その取材では、現日本代表のキャプテン・リーチマイケルが、「自分は言葉ではなく、プレーで引っ張るタイプのキャプテンだ」と話していたことが印象に残っています。廣瀬さんはどんなリーダーだったんですか?

リーチがグラウンド上で体を張ってチームを鼓舞していくキャプテンだとしたら、ぼくは場をつくるタイプだったと思いますね。

——場ですか?

そうです。いかにみんなががんばりたいと思える環境をつくれるか意識してきました。

■同じ場を共有するために「国歌」に取り組んだ

たとえば、東芝ブレイブルーパス時代、試合前日、みんなでスパイクを磨く時間をつくりました。全員で輪になって、冗談を言ったり、くだらない話で盛りあがったりしながらスパイクを磨く。そんな場がチームワークを育んだという実感があったんです。それに、自分たちのスパイクが、相手選手よりもきれいだと不思議に自信がわく。そんな時間や場を大切にしたいと代表でも全員でスパイクを磨く時間をつくりました。

——ラグビーでは、3年以上の居住などの条件をクリアすれば、国籍とは異なる国の代表としてプレーできます。今回W杯では31人中、15人が海外出身選手です。多文化共生チームをまとめていくうえでも、同じ場を共有する時間は大切そうですね。

撮影=尾藤能暢

海外出身選手たちとの場という点で、ぼくらが取り組んだのが国歌です。

ぼくにとってもチームメイトと肩を組んで「君が代」を歌う瞬間は特別な時間でした。日本ラグビーを背負って、仲間と一緒に戦う実感がわくんです。

しかしぼくが日本代表のキャプテンになった2012年当時、海外出身選手のなかには、「君が代」を知らない選手もいました。国を代表するのに、その国の国歌を知らないのは、おかしいでしょう。チームの一員として認められていないのではないかと不安を抱いても不思議ではない状況でした。そこで、リーチたちチームリーダーたちと相談し、日本の繁栄を祈る歌だと「君が代」の意味を教えながら、みんなで練習する場をつくったんです。

■みんなで肩を組んで歌う「スクラムユニゾン」

——なるほど。だから『ラグビー知的観戦のすすめ』の巻末で、W杯参加20カ国の国歌の歌詞を掲載しているんですね。

いま、ぼくは「スクラムユニゾン」と名付けたプロジェクトにも取り組んでいます。W杯出場国の国歌を覚え、みんなで肩を組んで歌う活動です。各国の選手に喜んでもらうだけでなく、来日したサポーターと肩を組んで、その国の国歌を歌えば、国際交流のチャンスになりますし、国歌を通してその国の歴史や文化を知る機会になりますからね。

■「日本ラグビーを変える」という目的があった

——廣瀬さんがラグビーを通して、たくさんの海外出身の選手や関係者と接した経験から生まれた発想といえそうですね。

撮影=尾藤能暢

違った価値観や文化を持つ海外の人に対して、こちらから歩みよる大切さを感じたきっかけは高校時代です。高校日本代表のキャプテンとしてフランスに遠征したのですが、現地の関係者やお世話になった人に一言「ボンジュール」とあいさつすると、みんなとても喜んでくれたのです。

それ自体はささいな体験かもしれませんが、その経験が社会人になって生きた。ぼくがプレーしていた東芝ブレイブルーパスや、日本代表に初参加する海外出身の選手に、各国の「ヘイ、ブラザー」みたいな砕けた言い方であいさつするようになりました。ニュージーランドなら「ハイ、ブロー」で、サモアが「ハイ、ウソ」。そしてトンガは「ハイ、トコ」……。ほんのちょっとしたことですが、このチームはみんなに対してオープンなんですよ、と知ってほしかったんです。

——同じチームで活動するなかで生じる価値観や考え方の違いはどのように乗り越えていったんですか?

繰り返しになりますが、目的を共有することですね。ぼくらのときの日本代表でいえば、「日本ラグビーを変える」という目的がありました。

■「家族の存在があってこそ」という海外選手の感覚

たとえば、ニュージーランドやオーストラリアの選手は家族を第一に考える。家族がちょっと体調を崩したと連絡が来れば、日本代表の合宿中でもすぐに帰宅する。

——日本人なら合宿を優先させるケースが多いでしょうね。

おっしゃるように、従来の日本人の感覚なら代表に選ばれたんだからラグビーを優先すべきだと考えるかもしれません。でも彼らは、ラグビーはもちろん大切だけど、家族の存在があってこそ、プレーや練習に集中できるという感覚なんです。

自分ならどうするのか。改めて問いかけました。

■文化や意見が違っても、同じ目的を持つ仲間

廣瀬俊朗『ラグビー知的観戦のすすめ』(角川新書)

ぼく自身も、子どものころから自分自身が納得できないと動かないタイプの人間でした。選手それぞれの意見ややり方があります。だとしたら、ラグビーも家族も大切にしたいという考えは尊重すべきやな、と思った。それに、彼らは、日本ラグビーを変えるという目的を共有する仲間です。帰宅してもトレーニングはきっと続けているんですよ。

そう考えていくと、ぼくたちが帰宅した選手を信頼して待っていれば、彼のチームに対する愛着はより深まるかもしれない。文化や意見が違っても、同じ目的を持つ仲間です。互いの価値観や違いを認め合えれば、よりかたい信頼関係で結ばれ、チームにいい影響を与える気がするんです。

——異なる主張や価値観を寛容に受け入れていく、そこが多様性を持つチームの強さの原点なのかもしれませんね。

撮影=尾藤能暢

そんな気がします。組織に多様な考え方や価値観を持つ人がいた方が、思いもしない化学変化が起きると思うんです。そんな化学変化から新しい発想が生まれ、面白いことが起こるんじゃないでしょうか。

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廣瀬 俊朗(ひろせ・としあき)
元ラグビー日本代表キャプテン
1981年、大阪府生まれ。ラグビーワールドカップ2019公式アンバサダー。2007年に日本代表選手に選出され、2012年から2013年までキャプテンを務める。ポジションはスタンドオフ、ウイング。
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(元ラグビー日本代表キャプテン 廣瀬 俊朗)

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