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ラグビーにはびこるフーリガン――なぜ「紳士のスポーツ」が暴力を招くか

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フーリガン現象の伝播

 それにもかかわらず、「紳士のスポーツ」たるラグビーでもフーリガンが目立つようになったのはなぜか。

 サッカーに関していうと、フーリガン現象には一般的に観戦中の飲酒の影響(現在ではサッカー観戦中の飲酒は制限されている)や不公平な(あるいはそのようにみえる)ジャッジのほか、経済的な事情も指摘されている。

 例えば、イングランドでは失業率が高い北部ほどフーリガンによる暴力事件が多い。ここからは、フーリガンは日常の憂さをスタジアムで晴らしていることがうかがえる。

 ただし、フーリガン全員が日々の生活に困っているわけではない。スタジアムに行く程度のお金はあるし、個人差はあるがフーリガンのなかには恐喝や詐欺などの犯罪に手を染めて、逆に羽振りがいい者もいる。



 こうした状況は、フーリガン現象が生まれた頃と基本的に同じだ。

 フーリガンと呼ばれる不良少年の集団(今の日本でいえば半グレか)が登場したのは19世紀末のイギリスだった。当時、都市化が進むロンドンには、ちょっとした仕事や時には犯罪で日銭を稼ぎながらも、家庭や学校、安定した職に吸収されない若者は履いて捨てるほどいた。

 フーリガンはそれなりにお金をもちながらも、経営者に使い捨てにされる若者たちだった。歴史学者の井野瀬久美恵氏によれば、そうした若者はミュージック・ホールやフットボール・スタジアムに集まり、社会を見返すように違法行為を働くことで、自分たちの居場所を求めたという(『子どもたちの大英帝国 世紀末、フーリガン登場』、中央公論社)。



 だとすると、それがサッカーだけでなくラグビーにも波及してきたことは、社会的に何者になる希望ももてず、自分の存在を誇示する機会に飢えた若者がそれだけ増えていることを示唆する

 その一方で、昔からフーリガンが多かったサッカーでは、対策が強化されてきた。フーリガンだけでなく、選手の言動にも厳しいチェックが入る。サッカーの歴史に詳しいイギリスの小説家ギャビン・モーティマー氏によると、「いまや(ラグビー選手ではなく)サッカー選手の方が紳士としてふるまうことを知っている」。

 サッカースタジアムがフーリガンにとって居心地のいい場所でなくなりつつある今、「紳士のスポーツ」、ファミリースポーツとして規制の緩いラグビーは、フーリガンの標的になったとみられるのである。

「紳士協定」が通じない時代

 これと比べて、日本で開催されているラグビーW杯では、少なくともこれまでのところファンによる大きな混乱は起こっていない。それは、日本までこれるくらいの社会的地位と経済的余裕のあるファンには無闇に暴力的な行動にでるフーリガンが少ないからだけでなく、日本チームの出場する試合で不可解なジャッジがなかったこと、そして何より日本の観客が全体的に行儀がいいからといえるだろう。いわば日本のファンは、世界基準でみたとき、古き良きラグビーファンなのかもしれない。



 ただし、この状況が継続できるかは分からない。

 かつて紳士は名誉を重んじ、厳しいルールを課されなくとも、身を律することを知っていた。違反しても何ら制裁のない取り決めのことを紳士協定と呼ぶのは、そのためだ。ヨーロッパのサッカーで規制の対象となっているスタジアムでの飲酒がラグビーで認められているのは、「紳士のスポーツ」の名残りでもある

 しかし、いまや厳罰がなくても自らを律するといった美風は世界的に廃れている。電車の列に平気で割り込む高齢者や道いっぱいに我が物顔で広がって歩く若者をみるまでもなく、日本もその例外ではない。

 さすがにというべきか、日本ではサッカーでも、レフェリーへの脅迫などはこれまでないようだ。しかし、それでもすでにヨーロッパの風は吹き込んでおり、一部サポーターによるフィールドへの物の投げ込み、観客同士の乱闘、さらに差別的なアピールなどを受け、厳罰化に向かわざるを得なくなっている(その風はなぜか埼玉あたりで目立つ)。

 良くも悪くも欧米の風潮に左右されやすいこの国で、今回のW杯をきっかけに今後ラグビー人気がこれまで以上に高まれば、サッカーと同様の事態も想定される。その場合、ただ目立ちたいだけ、あるいはただ自分のチームのことしか考えない無法者の対処が、関係者にとって今後の新たな課題となるだろう。「紳士のスポーツ」も、紳士協定など通用しない寂しい風潮とは無縁でいられないのである。

※Yahoo!ニュースからの転載

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