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最低賃金が1000円を超えても課題は山積している

 この10月、最低賃金が全国一斉に上がり、初めて時給1000円の大台に乗せる地域が出てきた。

 政府の方針で2016年以降、最低賃金が3%ずつ引き上げられ、今月から東京都で時給1013円、神奈川県で1011円となった。それでも年収は200万円ほどで、成人が一人で生活してゆくには足りないのが現実だ。今月から消費税が2%上がったことを考えるとなおさらだ。

 今年6月に決定された政府の経済財政運営と改革の基本方針、いわゆる骨太方針にも、全国加重平均が1000円になることを早期に目指すこととともに「我が国の賃金水準が他の先進国との比較で低い水準に留まる理由の分析をはじめ、最低賃金の在り方について引き続き検討する」とある。一方で経済界は、日本商工会議所が今年5月に、「賃金水準の引上げや企業の生産性向上という政策目的のために使うべきでない」と緊急要望を出すなど、最低賃金の引き上げに対する抵抗も依然として根強い。

 最低賃金は、働く人たちの給料の最低限度を示すというよりも、世帯の主たる生計者ではない主婦のパートや学生のアルバイトなどの家計補助の賃金という認識が長く続いてきた。しかし「日本型雇用」が失われ、非正規や派遣が増えた2000年に入ってからは、家計補助ではなく、生活するための“リビング・ウエイジ”だというのが、すでに常識となっている。雇用労働問題の研究を続け、福祉国家構想研究会の代表でもある後藤道夫氏は、ここ10年ほどの間に、最低賃金に近い賃金で働く労働者が大幅に増えていることを指摘した上で、最低賃金問題はすべての働く人の賃金の問題と地続きであることを認識すべきだと語る。

 さらに、地域格差も拡がっている。

 東京の最低賃金は1013円、もっとも低い790円の地域とは時給で200円以上の差があり、年間では40万円の違いとなる。これでは地方から都会に若者が集中するのも当然だ。後藤氏が示す、都道府県別の若い世代の転入・転出の割合と最低賃金の金額のグラフがみごとに相関している。最低賃金の低い地方からは、若者が転出してしまうのだ。県知事たちが、全国一律最低賃金を訴えるのも、それが地方をこれ以上疲弊させないための喫緊の課題となっていると考えられているからだ。

 静岡県立大学短期大学部の中澤秀一准教授が監修する最低生計費調査によれば、これまで明らかになった16都市では、時給1400円~1600円。最低賃金の引き上げの際に示される全国4つのランク分けとは整合性がなく、地方でも都会でも生計費はあまり変わらない。「最低賃金1500円がつくる仕事と暮らし」という著書もある後藤氏は、こうした背景もふまえ、普通に生活するための賃金を考えるために最低賃金を考えることが重要だという。さらに、日本の場合は、最低賃金を引き上げると雇用が失われるという、多くの経済学者が引用する経済の原則はあてはまらない、と実際のデータから読み解く。

 最低賃金を上げることは、今の日本社会の突破口になる可能性があるのではないかと語る後藤道夫氏と、社会学者の宮台真司、ジャーナリストの迫田朋子が議論した。

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