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小川前法相発言を機に指揮権のあり方の再考を

 小川敏夫前法相が民主党の小沢元代表の政治資金を巡る事件で指揮権の発動を検討していた問題は、本来は重要な役割を担っているにもかかわらず、ほとんど機能不全に陥っている法務大臣の指揮権の意味を、改めて問いなおす契機となった。

 今回の内閣改造で退任することになった小川前法相は6月4日の退任会見で、小沢元代表の政治資金を巡る事件で東京地検特捜部の検事が、事実と異なる内容の捜査報告書を作成し、検察審査会に提出していたことを受け、虚偽の報告を提出した検事への捜査を徹底させるための指揮権の発動を検討したことを明らかにした。しかし、小川氏が指揮権の発動を野田総理大臣に打診したところ、総理の了承が得られなかったために断念したという。

 法務大臣指揮権とは、検察庁法14条が定める、法務大臣が個別の事件の捜査について検事総長を指揮することができる権限。非常に高い独立が認められている検察に対する唯一の民主的統制とも言うべき指揮権だが、捜査の対象ともなりうる政治家が個別の捜査に介入することになるだけに、一般的に適用は慎重であるべきだと考えられてきた。

 元検事の郷原信郎弁護士は、確かに刑事事件の捜査については基本的に検察の独立性が尊重されるべきであるとの不文律があるが、検察に委ねておくことが適切ではない事件については、法務大臣が介入すべき事件があるとの考えを示した上で、今回の事件は検察組織に関わる検察官の職務上の犯罪であることから、検察の独立性に委ねるべき事件の範疇には入らないと語る。検察の組織上の問題点を明らかにするためには、捜査を検察に任せておくべきではなく、必要に応じて法務大臣は積極的に関与すべきというわけだ。

 そもそも法務大臣指揮権は過去に一度しか発動されていない。それが、昭和29年の造船疑獄で当時の犬養法務大臣が、自由党の佐藤栄作幹事長の収賄容疑での逮捕許諾請求をやめさせるための指揮権だったために、あたかも指揮権とは政治家が自分自身や自身の政党の政治的な利益のために検察に介入する行為とみなされ、抜かずの刀のような存在となってしまった。実はこの時の指揮権発動も、佐藤幹事長の逮捕を免れるためではなく、無理な捜査で行き詰っていた検察を助けるためのものだったことが、後に明らかになっているが、それ以来、指揮権は検察に対する超法規的措置であるかのような見方が根付いてしまっているのが実情だ。

 しかし、現実には検察自身が関わる犯罪は言うに及ばず、外交問題に関わる捜査など、検察に委ねておくことが適切とは言えない事件は多い。検察に対する唯一の民主的統制とも言える指揮権のあり方について、今あらためてきちんとした議論が必要だ。

 郷原氏とジャーナリストの青木理と社会学者の宮台真司が議論した。

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