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証拠保全請求却下命令に対する準抗告申立て

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 日産が東京地検特捜部に提出したコンピュータやハードディスクなどの電子媒体について、同地検が日産の要望に基づいて、弁護人に対する開示を拒否したうえデータの一部を削除したり日産側に還付している問題について、われわれカルロス・ゴーン氏の弁護人は東京地裁に証拠保全の請求をしました。同地裁の島田一裁判官は「保全の必要性はない」としてわれわれの請求を却下する命令を発しました。本日、われわれはこの命令を取消し改めて証拠保全をするように東京地裁に対して準抗告を申し立てました。その全文は以下のとおりです。

 東京地方裁判所裁判官島田一が令和元年9月18日付でなした証拠保全請求却下命令に対し、次の理由により準抗告を申し立てる。原裁判を取り消したうえ、別表1及び2記載の電磁的記録媒体を押収するとの決定を求める。

抗告の理由
1 事実の経過
 この事件は、日産自動車の元代表取締役兼最高経営責任者(CEO)であったカルロス・ゴーン氏が、同社代表取締役グレゴリー・ケリー、秘書室長大沼敏明らと共謀の上、自らの報酬額を過少に記載した有価証券報告書を提出したとして、金融商品取引法違反に問われている事案である。

 本件の捜査の過程で、東京地方検察庁特別捜査部は、日産専務執行役員であるハリ・ナダ及び秘書室長大沼敏明と司法取引(刑訴法350条の2の合意)をしたうえ、彼らを含む日産従業者らから多数の電磁的記録媒体の提供を受け、また、差し押さえた。そして、それらを解析してその結果にもとづいて関係者等の取調べが行われ、その印刷物が供述調書や捜査報告書に添付されるなどして、証拠として取調べ請求されている。

 弁護人は、2019年4月10日付け「証拠開示請求書⑴」及び同年6月19日付け「証拠開示請求書⑴補充書」において、類型証拠の開示請求をした。これに対し、検察官は、同年7月19日付け回答書において、別表1記載の電磁的記録媒体を含む証拠物合計599点につき、日産の「営業秘密に関するもの」や「プライバシーに関するもの」等を開示の対象から除外した上で、「弁護人による閲覧に限る」という条件の下に開示する旨回答した。

 7月23日の第2回公判前整理手続期日において、共同被告人日産の弁護人は、証拠開示が進行中の押収品には「本件とは関係しない被告人日産の企業秘密や、個人情報に関するものが多く含まれている」などとして、検察官に「配慮」を求めた。この発言を受けて、検察官は「日産の企業秘密や、同社の役員及び従業員のプライバシーの観点から、開示の検討に時間を要する」と表明した。

 この被告人と検察官の発言に対して弁護人らは「(本件と)関係がないのであればそもそも押収はされていないはずであり、今まで留置が続けられていることもないはずである。そのような理由で証拠開示の回答が遅れるということは、被告人の迅速な裁判を受ける権利を侵害するものとして、あってはならない」「現時点で閲覧した証拠を見ても、企業秘密やプライバシーに関するものがあるとは考えられない」等と指摘した。

 裁判長は「企業秘密に関しては、企業秘密として一括りにしてしまうと、全てがこれに該当してしまうことになりかねない。業務に関連するものについては、8月末までに幅広く開示をしていただきたい」との検察官に勧告した(第2回公判前整理手続調書)。
検察官は、8月30日付け回答書により、合計16点の電磁的記録媒体(同別表1記載の証拠に記載されたもの5点及び同別表2記載のもの11点)を開示する旨回答した。そこでも、日産の「営業秘密に関するもの」や「プライバシーに関するもの」等を開示の対象から除外した上で、「弁護人による閲覧に限る」という条件を付した。

 9月5日の第3回公判前整理手続期日において、弁護人は、本件電磁的記録媒体について「弁護人による閲覧に限る」ことは、手続の重大な遅延を招くものである;時間を無駄にしないためにいったん閲覧を申請するものの、謄写が必要となる見込みである旨を表明した。裁判長からも、検察官に対し、幅広い開示に応じるよう再度勧告がなされた(第3回公判前整理手続調書)。
 翌9月6日、弁護人は東京地方検察庁特別公判部に対し、本件証拠物につき閲覧申請をし、同月10日に閲覧することになった。ところが、弁護人は東京地方検察庁特別公判部事務官から、次のような連絡を受けた。
・日産から「従業員のプライバシー等に関する電子データは開示しないでもらいたい」旨の申入れを受けた。合わせて、不開示を希望する証拠の「一覧表」が提出された。
・日産が不開示を希望する証拠の数は6000件近くに及ぶ。
・これを受けて、検察庁では、開示対象である電磁的記録媒体の削除作業をしている。
・削除作業に時間を要するため9月10日には準備が間に合わない可能性がある。
 9月11日、弁護人は、東京地検が電磁的記録媒体の削除や還付をしてしまう現実的危険性があると判断して、本件証拠保全命令の申立てをした。

 島田裁判官は、同月13日、東京地検の隄良行検事と会った。隄検事は島田裁判官に次のように述べた。
・日産から幅広く証拠を押収している。
・日産から押収した証拠の早期還付を求められている。
・明らかに事件と無関係と判断したものについては、順次還付している。
・明らかに事件と無関係と判断した電磁的記録媒体については、複写物を残さずに還付している。
・判断に迷うものは念のために複写物を残している。
・弁護人に閲覧させる前に、個人のプライバシーや企業秘密を除いた複製物を作って閲覧させることになる。
・謄写させる場合には、これらの情報を除いた複写物を作成して交付することになる。
・押収した電磁的記録媒体の原本について削除・消去することはない。
・開示した証拠は還付せずに検察庁で保管している。
・電磁的記録の複写物について不開示部分を特定することは技術的に難しい部分もあるが、書面で回答する方向で現在検討中である。
 9月18日、島田裁判官は次のように述べて、弁護人の証拠保全請求を却下した。

検察庁では,一般的な取扱いとして,事件と明らかに無関係と判断した電磁的記録媒体については,複写物を残していないが,判断に迷うものについては,念のために複写物を作成して残している。

***検察官は,弁護人からの証拠開示請求に対し,電磁的記録を一部開示する場合,まず押収した電磁的記録媒体から,保存されているデータそのままの複写物を作成し,企業秘密や個人のプライバシー保護の観点から一部不開示と判断した部分のデータを削除する方法により開示に適した複写物を作成して,弁護人に閲覧させ,謄写請求された場合には,さらに,その複写物を作成して交付できるように準備をしている(なお,電磁的記録媒体の複写物そのものに不開示とした部分を特定して明示することは技術的に難しい部分があるが,検察官は,書面で回答する方向で検討している。

***
以上によれば,本件電磁的記録媒体については,証拠保全の必要性がないことに帰する。
 この却下命令の前日、弁護人は検察官に対して、日産が検察庁に要望したという「約6,000点に上る」不開示を求める証拠の「一覧表」を交付するように求めた(9月17日付け申入書)。この求めを検察庁は今日まで黙殺している。依然として日産が不開示を求めた情報が何なのか、弁護人には不明である。

 検察官が不開示部分について「書面で回答する方向で検討している」と述べたということなので、9月27日に行われた第4回公判前整理手続期日において、弁護人は、改めてその特定を求めた。これに対して検察官は回答を拒否して、9月26日付け回答書に記載したとおりであるなどと述べた。その回答書における検察官の回答は、各証拠の「その一部を不開示(重要性を欠くとともに、弊害が大きく相当性がない。)とした」というだけであり、証拠どの部分を開示しないのかついて、何一つ答えていない(9月26日付け回答書)。

 同期日において検察官は日産から削除の要望があった事実を確認することすら拒否した。

 本日現在、検察官が本件電磁的記録媒体のうち何を日産に還付したのか、どの部分を削除したのか、弁護人に開示しないのはどの媒体のどの部分なのか、一切不明である。

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