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日本に残る“スポ根”は変われるか?週3日・1回90分の練習で全国レベルになった高校も


1964年の東京オリンピックで大活躍した"東洋の魔女"ことバレーボール女子日本代表にまつわるエピソードや、1966年に連載を開始した、過激な練習メニューも話題を呼んだ漫画『巨人の星』など、日本では長らく"スポーツ根性モノ"、略して"スポ根"が人気コンテンツとして君臨してきた。



 現実のスポーツ指導の現場でもそれは同じで、学校現場でも体罰、暴言、長時間に及ぶ練習、そして「うさぎ跳び」「丸刈り強制」「1000本ノック」「水禁止」など、過酷な部活動がまかり通ってきた。実際、街で聞いてみても、「試合で負けたり、ルールを破ったりすると、先輩たちの監視の下、腕立てやスクワット、過度なトレーニングを要求された。多少の体罰に近いところは黙認されていた」「お尻を地面に付けて靴の紐を結んではいけなかった」「"水を飲めない世代"。休憩もきっちり決まっていた」と、年代や競技にかかわらず、エピソードには事欠かない。
 
 近年、そんな過酷な部活動が"ブラック部活"と呼ばれるようになり、ようやく見直しの機運が高まってきている。また、放課後や土日の練習が教師にとって過剰な負担になっているという"働き方改革"の文脈からも、スポーツ庁が部活動の週休2日制導入を発表している。

■"体罰OK"の親も根強く…歯車になれる人間を育ててきた日本の部活


スポーツライターの小林信也氏は「体罰の問題は本当に根強い。僕は去年の春まで中学生の野球チームの監督をやっていたが、熱心な親ほど"うちの子は殴ってもいいです"とこっそり言ってくる。それも1人、2人ではなかった。僕は必ず"お父さん、お母さんはお子さんを殴っているのですか"と聞きかえすようにしていた。すると、"いや私たちは殴らない"と。やはり、耐えるということが成長につながるという思い込みがすごい」と話す。


 「特に高校野球に代表される学校の部活動は、監督の指示に従える選手、言わば歯車になれる人間を育てるという方向だった。しかし社会のニーズは、自分で考え、行動できる人間だと思う。また、なぜ僕たちがスポーツにのめりこんだかと言えば、投げて相手を抑えるのが嬉しい、打ったらこんなに飛んだ、という瞬間の喜びみたいなものが根底にあったからだと思う。しかし今はそこをすっ飛ばして"勝つ"ということにこだわるようになっている。ただ勝つことだけではないということも部活では教えていけると思う」。

■「実は先生も苦しかった」外部化の流れ進む


名古屋大大学院准教授の内田良氏は「よく校舎に"全国大会出場"のような垂れ幕が下がっていて、みんなが頑張らなければならないという過熱した雰囲気があったと思うが。本来、学校の部活動は授業ではないので、やってもやらなくてもいいもの。これまでは子どもたちが苦しかったという話が語られてきたが、それに加えて、実は先生も苦しかったということが話題になってきた。そもそも顧問の先生の半数がその競技を未経験で、技術的な指導ができないから、とにかく長い時間、頑張る。それが"ただ、結果は出なかった"という言い訳につながり、さらに長時間化にもつながる。そういうことが見えてきたので、いかに外部化していくか、という流れが始まっている」と話す。


 その上で、「調査をしてみると、実は体罰を受けた人は"効果があった"と考えている。"体罰を受けて考え方が変わった。叱咤激励を受けて頑張れるようになった"と。これが厄介。体罰に効果がある・なしではなく、佐々木先生のように、自分たちで考えさせてやっていくという方向に変えなければならない。そして、佐々木先生の事例で大事なのは、週3日でも、みんな楽しく、満足しているということ。目標達成のため、とにかくたくさんやればいいものが得られるだろう、という"幻想"に対して、倒れるような人がいる中での感動は良いものではないという考えに変えていかなければならない。大会だって、みんなが週3日という条件の下でやってもいいはずだ。一方、これまでは先生たちがタダ働きでやってきた。外に投げるということは、財源の問題にぶつかるし、質の悪い人に委託してしまうという問題も出てくる」と指摘した。

■週3日・1回90分の練習で全国レベルになった高校も


「勝つためだけではない」「理不尽な苦痛はただのストレス」「楽しくないスポーツは悪」「暴力や体罰では絶対に向上しない」という意見が市民権を得ていく一方、「勝利を求めるなら仕方ない」「うまくなるためには体罰も必要」「スポーツにかけている子の受け皿として必要」「勝負の精神力を培うのには一番」といったスタンスの人もいる。

 そんな中、練習時間削減にともなう実力低下の懸念を見事に払拭して見せたのが、全国大会に5回した出場の経験を持つ静岡聖光学院高校ラグビー部だ。前任校では厳しい指導を行っていたという佐々木陽平教諭は、それでも結果がついてこなかったことから、スポ根とは真逆の現在の指導法に変えていった。


「勉強不足もあり、周りの学校の練習時間がこれくらいだから、自分はもっとやる、試合後に相手がグラウンド10周していたら、こっちは11周だと。そんなことがチームのためになると思っていたが、そもそも子どもたちに根拠を示せるものではなかったし、自分のエゴ、不安の解消のための練習メニューだったと気づいた」。

 かつては週6、週7だった練習は火、木、土の週3に。練習時間も夏場は90分、冬場は60分だけと決めている。水分休憩の際にはラグビーのタックルの動きを取り入れるなど、短時間でも効率のいい練習法を編み出し、反省点と改善策を選手同士で議論するミーティングも90秒に収める。練習時間が減った結果、体重が減りにくくなり、かえって身体が大きくなる選手も多いという。「週3回だと、練習のプランニングとレビューがきっちりできるようになるので、"まずいつものを1時間半"というようなこともなくなるし、メニューを取捨選択し、集中して取り組める」。

 練習では、生徒たちの主体性を重んじる。「ツールは与えたが、自分たちで決定させる形にした。アクティブラーニングの専門家を呼び、どうすれば円滑に話し合いが進められるかを考えさせた短い練習時間の中、自分たちで考えてやる、という方向に持っていくと、僕も"見守る"というスタンスに変わる」。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

▶映像:スタジオでの議論の模様(期間限定)

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