- 2019年10月04日 11:15
NHKと日本郵政、「暴力団」に近いのはどちらか
2/2■NHKは「総務省の影」を恐れて忖度に走った
この鈴木氏、文書でも「放送法改正案の作成責任者」だったと語っているように、元総務官僚で、事務次官まで上り詰めた人物だ。よほど、メディアに言うことをきかせるよう考えたうえで法改正したかと言わんばかりの発言をしている。おそらくNHKは鈴木氏が持つ総務省の影を恐れたに違いない。放送免許を所管する監督官庁である。抗議を無視することはとうていできないと考えたのだろう。
長門社長は謝罪しているが、と記者に聞かれた鈴木副社長は「いろんな考え方がある」とだけ述べたと言う。もちろん、ここに至って、鈴木氏を除くほとんどの関係者が、番組への介入はなかったと口をそろえる。NHKの経営委員会のメンバーも、「ガバナンス体制」について言っただけで、放送内容を変えろと言ったわけではない、というのである。だが、それは詭弁(きべん)だろう。
石原委員長が上田会長を注意した際の発言も公開したが、「ガバナンス体制をさらに徹底するとともに、視聴者目線に立った適切な対応を行う必要があります。会長に対し、必要な措置を講ずるよう厳しく伝え、注意することとします」としている。必要な措置とは何なのか。鈴木氏が求めるように「個別の番組を最終チェック」することなのか。そうなれば経営委員会が気に入らなかったり、外部から抗議される番組を排除するよう「忖度(そんたく)」を求めているのと同じではないか。
■「国営放送」ではなく「報道機関」であるべき
ちなみに、経営委員会は議事録の公開が義務付けられているが、「経営委員会の内規では個人情報、人事、協会以外の法人の情報などがある場合は、非公表としている」として、日本郵政からの一連の抗議については議事録から削除されていた。かんぽ生命問題が大きくならなければ、発覚しないまま闇に消えていた可能性もあるわけだ。
かねてNHKは外部からの圧力に弱いとされてきた。特に歴代幹部が政治部出身で、政権幹部とのパイプが太いため、政府の意向を忖度しているとうわさされることがしばしば起きてきた。最近も、官邸に近いとされる板野裕爾氏が専務理事に復活した人事が話題になったばかりだ。
NHKには視聴者からの受信料だけでなく、多額の国家予算が投入されている。だからといって、現政権に都合の良い情報や論調だけを流す「国営放送」になることは許されない。国民全体の利益につながる報道機関であることが求められている。
NHKの中堅社会部記者に聞くと、「番組を作る際、直接、上司からこのテーマはダメだといった言われ方をすることはない」と語る。同僚のディレクターも、今回の日本郵政の問題も報道されるまでまったく知らなかったと話しているという。では、「こんなテーマは通らないと忖度する空気はないか」と聞いたところ、言いよどんだ。
■「あの件は書かない方がいい」が横行している
筆者も長年、新聞社で働いていた経験から言えば、どこかの企業トップから抗議されて、社長や役員が企画をボツにすることなどまずない。抗議を受けた話を社長から聞いた役員や部長が、「忖度」するのだ。「あの件については書かない方がいい」「当面、あの企画は止めておこう」と現場の中堅幹部が過剰に自己規制するのである。最近ではおとなしい記者が増えたので、そうした忖度に反発する記者は少ないらしい。
天下のNHKを舞台に起きた日本郵政からの抗議事件は、今の日本のマスコミ界で起きていることのほんの一例にすぎないのではないか。氷山の一角ということだ。
今後、元次官の鈴木副社長が何を語るか分からないが、ジャーナリズムへの政治や霞が関の介入を絶対に許してはいけない。そのためには事細かく事実関係を調べるとともに、徹底的に追及する姿勢をメディアは失ってはいけない。
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磯山 友幸(いそやま・ともゆき)
経済ジャーナリスト
1962年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。日本経済新聞で証券部記者、同部次長、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長・編集委員などを務め、2011年に退社、独立。著書に『国際会計基準戦争 完結編』(日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)などがある。
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(経済ジャーナリスト 磯山 友幸)
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