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【読書感想】失われたアートの謎を解く

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 100万点、か……

 これに対して、ドイツ降伏後に速やかに隠された美術品を取り戻すために、連合軍では「記念建造物・美術品・公文書」部隊(MFAA部隊、通称モニュメンツ・メン)が編成され、ソ連軍では「戦利美術品部隊」が組織されました。この本によると、ナチスの隠し場所は約1550か所にも及んだそうです。

 第二次世界大戦は、「国家にとってのアートの重要性」が、あらためて認識された戦争だった、とも言えるかもしれません。

 おそらく、世界中には、まだまだ散逸したままの作品があるんじゃないか、とも思うのです。

 それが、いつかまた多くの人の目に触れる機会が訪れるのかどうか。

 バーミヤンの石仏のように、人為的に破壊されたり、ノートルダム大聖堂のように火災で焼失してしまうリスクもありますし、「観たいものは、観ることができるうちに観ておくべき」だと痛感します。そもそも、こちら側の寿命だって限られているわけですし。

 2013年に、コーネリウス・グルリットという人のドイツ・ミュンヘンの自宅アパートから、ナチスドイツが奪ったとされる1280点もの美術品が発見された事件について。

(コーネリウスさんの父親であるヒルデブラント・グルリットさんは、ナチスの画商だったそうです)

逮捕は偶然の産物であった。2010年9月22日、スイスのチューリヒからドイツのミュンヘンへと国境を超えて移動する列車の中で、ドイツの税関職員がコーネリウスの持ち物検査を行ったことがきっかけ。検査に対して不審な態度を取ったコーネリウスを見た税関職員は、トイレで詳しくボディチェックを実施した。すると、コーネリウスの持ち物から、国境を越えてドイツへ持ち込める上限額1万ユーロをやや下回る約9000ユーロもの大金が見つかったのだ。折しも、ドイツ税関はスイス国境における陸路での現金持ち込みに対して、脱税チェックを強化するために特に監視の目を光らせていた。コーネリウスに対し、直感的に何かあるのではないかと考えたドイツ当局は、その後約1年半にわたり内偵調査を続けた。

2012年2月28日、当局は脱税容疑を固め、ミュンヘンにあるコーネリウス宅への家宅捜査へと入ったところ、約1280点もの大量の美術品が発見されたのだった。逮捕後の調べで、コーネリウスはミュンヘンにおいて数十年も大量の美術品を抱えたまま身動きが取れず、孤独に生活してきたという驚くべき事実が判明した。彼は戸籍登録さえ行わず、社会保険にも加入していなかった。銀行口座すらなく、社会と接点を最小限にして、父から受け継いだ美術品コレクションを細々と売りながら、日々の生活資金を得ていたというのだ。その後、コーネリウスがオーストリアのザルツブルグに所有していた別邸からも238点もの作品が発見されている。驚くべき展開に事件はしばらく関係者だけで共有され、公に報道されることがなかった。公表されたのは逮捕から約2年後となる2013年11月4日、ドイツの週刊誌「FOCUS」のスクープ記事によるものだった。

2014年5月、コーネリウス・グルリットは、81歳で死去した。返還請求で係争中だった作品の行方は宙に浮くと思われたが、コーネリウスは遺書を残していた。それは、自らが父ヒルデブラントから受け継いだ美術品の全てを、スイスのベルン美術館に寄贈するというものだった。このドイツ当局へのあてつけとも解釈できる遺言内容は大いに関係者を悩ませた。

 この話、戦後70年以上も美術品を隠しとおした、というのも凄いのですが、そのために、戸籍も社会保険も捨て、銀行口座すらつくらずに生きてきたというコーネリウスさんの人生について、考えずにはいられなくなります。

 お金に困る、ということはなかったのかもしれないけれど、かなり不自由だったでしょうし、この「父親の遺産」は、息子を幸せにしたと言えるのだろうか?

 こんなもの(美術品)は捨てて、自分の人生を送りたい、と思うことはなかったのだろうか?

 なんだか、「呪い」のような話ではありますね。

 アートをつくるのも人間なら、壊すのも人間。

 「失われたアート」という物語もまた、人間を魅了してしまうのです。

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